国外追放で観光をする
「リリスおかえりっ!何ヶ月かぶりだねっ」
「そんなに経ってたっけ……」
カーティスとの感動の再会をしたリリスは,なにも見ないうちに誘拐されてしまったので二人で華國を巡ることにした。
「で,私の服はどこかな?」
「…………」
「えっ,証拠品として警察に押収された……?」
「らしいね。しばらくは華國に留まることになりそう」
リリスは久しぶりの街巡りで嬉しかった。小籠包を筆頭にした中華料理に杏仁豆腐などのスイーツで最高に幸せな時間を過ごしていた。そして,料理店を出ると,ゼルセピナとプレーメスが手を振っているのを見つけた。その二人にも変化があったことにリリスは気づく。まず,ゼルセピナだが,着替えをしてリリスと似たような服装になっていて,周囲にいたカーティスとプレーメスを除く男子は彼女に惚れていた。次にプレーメスは,簪をして,べっこう飴のようなものを持っている。
「ゼルセピナさん,綺麗ですねー」
「そう?リリスちゃんに言われると嬉しいよね」
「私が男だったら絶対に求婚していました」
「えへへー,何なら今,求婚してもいいんだよ?私,リリスちゃんのこと大好きだし」
ゼルセピナはそう言ったが,リリスは恥ずかしそうに顔を赤くさせて小さい声で言う。カーティスのことが好きだからそれはできない,と。聞こえない声で言ったつもりだったが,カーティスには全て聞こえていたので,気まずい時間が過ぎていく。
「惚気はやめてー。というか,そろそろ次の場所に行ったほうがいいんじゃない?カーティス君,調べてたでしょ。デートスポット」
「わーっ!?プレーメスさん,それ言わない約束じゃないですか」
「私に聞かれて恥ずかしいことでもあるの?」
「そんなことないけど……リリスに努力しているところ見られたくないから」
リリスはキョトンとして,それから背伸びをしてカーティスの頭を撫でた。カーティスは少し照れてリリスの方を見たが,いたずらをした後のような笑顔になったのを見て,安心のようなものを覚える。
二人の世界に入ったところで,彼らの間に大きな声と共に割って入ってきた人がいた。
「リーリスっ!あれ,もしかして感動の再会の途中だった感じ?じゃあ続けて」
「翠蘭さん,解放されたんですね!」
「そうそう,春雷兄様もそろそろ向かってくるから」
翠蘭も仲間に加わって,街を再び歩き始める。そういえば,街のポスターに『神卸祭まであと零日!』と書かれいている。それに気になったリリスは,翠蘭にそれとなく聞いてみた。
「あぁ,神卸祭?数十年に一回ある祭りなんだけどその時に主神を呼び出すっていうのが恒例行事になっているんだよね」
「リリス,そういえば碧帝さんってどこに行ったの」
「さ,さあ……ゼルセピナさん。戦った後ってどうなったんですか?」
「塵となって消えていったけど,見当たらないよね」
そんなことを話しながらしばらく歩いていると,春雷の姿が見えてきた。
「リリスさん,いつもの服はどうしたんですか?」
「えっと,捜査のために没収されてしまって……」
「それじゃあ,僕が頼んでおきましょうか?」
春雷は就職先が決まったらしい。リリスが聞いてみると,なんとびっくり,宮廷だった。冤罪事件の一件で,皇帝である哉藍に一目置かれたとのことだ。春雷はカーティスの耳元で囁いた。
「(哉藍様……帝はリリスさんにプロポーズしたいとかなんとか言っていたので気をつけてくださいね)」
「?そういえば,翠蘭さんは就職しないんですか」
「ふっふっふー……私は社会に縛られたくないんだよ」
つまりはニートである。彼女は周辺にいる魔物を倒すと言っていたが,一級魔術師の力を持て余してしまいそうだ。リリスはエレーナの家で働くことを提案すると,少し考えてから言った。
「エレーナさんかぁ……兄様と離れるのも寂しいし,あの夫婦,殺気がすごいからなー」
「確かに……じゃあ,頑張ってください」
春雷も加わって,合計六人で街巡りを始めた。カーティスが二人で回りたかったのに…………と言っていた気もするが,リリスの知ったことではない。ぶらぶらと街を歩いていると,遠くから馬車が近寄ってくることに気がついた。ささっと避けると,馬車から誰かが降りてきた。哉藍…………皇帝である。
「へっ陛下!?」
「リリスさん……その,結婚を前提に付き合ってください!!」
リリスはキョトンとした。確か,彼には婚約者がいるということを一番最初の作戦会議で話した気がしなくもない。碧帝がこの場に現れてくれたのならちゃんと確認することができたのだろう。
哉藍が頭を下げているままだったので,次第に周りの人たちも騒ぎ始めた。
「(哉藍皇帝,意外と純粋な感じなのか……)」
「(リリスちゃんもカーティス君も,もう相思相愛なのに,かわいそー)」
主神二人の話が聞こえていたのだったのだろうか。哉藍はショックを受けて床に倒れ込んだ。
「陛下,大丈夫ですかっ!」
「いや…………お二人って気がついてはいたんですけど,やっぱり婚約していたんですね」
哉藍は複雑そうな表情で帰っていった。
* * *
「ちょっと,一人で行動してもいいかな?」
「いいよ。いってらっしゃい」
リリスはカーティスの許可を得て,走り出した。少し脇腹が痛くなって,休憩していた時に,彼女の耳に聞こえてきた言葉があった。それは,『神卸祭』を取り仕切る神官だということは,彼女の中にいる『何か』しか知らない。その神官は,とても焦った様子で言っていた。
「主神・碧帝が消えた!チャイナ服を着ている神だ!見つけた奴は報告しろ!」
そんな神官を見ながら。リリスはニコッと笑っていた。そして,独り言を呟き始める。
「本当に,なんであんな契約しちゃったんだろ……」
『しょうがない。けど,リリスで結構満足しているんだよ』
「そう?そういえば碧帝,私にもメリットがあるってことでいいんだよね」
リリスにしか見えない碧帝は,ニヤッとして指を立てた。碧帝が提示してくれたメリットは三つだ。
一つ,碧帝の使っている神の術式【仮想兵器】が使えることだ。それは,自分の想像した兵器を実体化することができ,それに【神の力】を付与できるというものだ。
二つ,碧帝の知識を使用できるということだ。神の知識といったら,リリスよりも遥かに膨大なデータベースを持っていることは間違いないであろう。
そして三つ目…………
「それはもちろんっ,可愛すぎる私を永遠に見続けられることだよーん☆」
「碧帝,私には見えるってことは殴れるってことでいいよね?そろそろ殴っていい?」
リリス的には,一つ目と二つ目の利点は最高だと感じたのだが三つ目が本当にいらない。リリスはため息を吐いて,再び言った。
「どうして【下位を上位に,底辺を神に】なんて唱えちゃったんだろう…………」
言ってももう遅かったのだが,そうでもしないとストレス発散などできそうになかったリリスだった。




