国外追放で仕事をする
「疲れた…………」
「こんなんで疲れる人とかいるの……」
「えっ,リリス疲れてるの!?結構楽な役職だと思うんだけど,もしかして運動神経ないのかな?」
「うっ……」
リリスは話しながら衣服を干していた。すると,上等な服を着た女性がリリスと碧帝に話しかけてきた。
「あなた,リリスさん?」
「は,はい!どうかしたんですか」
「(…………陛下がお呼びです。私について来て下さい。あと,そこの女性も)」
皇帝直属の女官は宮廷の案内をしてくれた。豪華そうな鉄扉を開けると,哉藍は花に水やりをしていた。
「リリスさん,碧帝様!来てくれたんですね」
碧帝という名前を聞いて,女官は怯えている。主神の名前を聞いて驚いているのだろう。リリスが考えた名前の由来(?)を女官に話すと,納得して部屋を出た。広すぎて,どこから見ていいのかわからない。
「広っ……本当に,実家より広い」
「前よりも小さくなったねー」
「そうですよ。僕はこんなに広くてもあまり使わないので」
翠蘭兄妹から聞いた噂とは正反対すぎて驚いてしまった。冷酷無慈悲な暴君という噂を流したのは一体誰なのだろうか。部屋をしばらく見ていると,一級魔術師のリリスにとってのお馴染みのものを発見した。
「これ,魔術書ですよね。陛下も読んでいるんですか?いいですよね,ロレンシオさんの魔術書」
「リリスさんも魔術書って読むんです?」
「読みますよ。というか大好きです」
「えー。人間の書く本なんて馬鹿馬鹿しくないー?」
「ロレンシオさんってすごいんですよ!神に匹敵する魔道具を造ったり……そういえば『神の力』の魔術書の筆跡,ロレンシオさんに似ている気が……」
リリスの独り言の内容に哉藍は疑問を浮かべていた。『神の力』という言葉で悟ったのか,碧帝はニコニコしている。
「リリスー。作戦会議するんでしょ?そこの席に座って」
「了解……それでは,話を始めていきましょう。ええと,事件の証拠を見たところ……有力な家の長が次々と殺される怪奇な事件ですね。しかも全員,武術の達人なんですよねー」
「そうそう。不思議だよねー」
「碧帝様,神なのですから犯人は分からないのですか?」
「ごめん。記憶がないんだ」
そうなんだ,とリリスは言った。しばらく三人で議論していたが,あまり進展はなかった。後宮に戻って仕事場に行こうとすると,同僚の一人が走って駆け寄ってきた。
「リリス,リリス」
「どうしたの紫明?あっ,あの謎の正二品にサボってるのバレちゃった!?」
「違う違う!事件の記録を見つけたってお父様から報告があったの」
「どんなの!?できれば見せてほしいかも!」
「はいこれ…………見てみて,これ。事件の日に誰か来ているんだよ」
「男女一人ずつ?」
「そうそう……碧帝ちゃんと特徴が一致してるんだよね」
それを話したところで,三人はさっさと仕事場に戻った。すると,正二品女……大凛は腕を組んで三人の方をガン見しているではないか。
「ちょっと貴女達,なにしてるのよ」
「こんにちはー。こんなところに寄るなんて,よっぽど暇なんですねー」
「うるさいわね!貴女はさっさと仕事して媚びうってればいいのよ」
興味ないしどうでもいいので,大凛達の集団の横をすり抜けて仕事場に戻った。待ちなさい,と言っていたが,どうでもいい。
「碧帝ー。なんか冷たいよね」
「そう?感覚ないんだけど」
「危ないやつじゃない?凍傷とかじゃないの」
「多分ねー…………人外だから関係ないんじゃないかな」
そんなものなのか,とリリスは思いながら,冷たい水に手を漬けて洗濯をした。
* * *
「翠蘭さんと春雷さんはここにいて下さい。他人からはバレないようにお願いします」
「「了解です」」
カーティスは翠蘭兄妹にそう言って,目の前の屋敷をみて笑みを浮かべた。
「李 邏明!この人はきっと……何かを知っているはず」
「カーティス君,もしリリスちゃん失踪の件で何らかの関わりがあるって確認したらさ,殴ってもいいかな?」
「ダメです。僕だって尋問でも何でもしたいですが,それをすることによってリリスの身に危険あったら困りますから」
カーティス,ゼルセピナ,プレーメスは邏明の屋敷へと入っていった。
「やあやあ,君がローゼンタールの使者さんだね?」
「はい。少し,話したいことがあって」
そう言いながら,カーティスは邏明の魔力を見た。すると,リリスの魔力と知らない,リリスよりも上の魔力を持った人の魔力が付着しているではないか。
「(あれさ,リリスちゃんのと神様の魔力が付いてるよ)」
「(神様……?なんでですか)」
「(この国には人間に操られている『壊れた女神』とやらがいるんでしょ?そこの男に操られているってなら納得じゃない)」
「皆さんどうしたんですか?何か聞きたいことがあるって言っていましたよね」
カーティスはとてつもない殺気を感じ取った。それこそ,何人も笑って殺してきたかのような。
「…………ごめんなさい。なんでもないです」
「ふふ,いつでも来ていいしなんでも質問していいよ」
カーティスたちは屋敷から出ようとしていたが,ゼルセピナには聞こえていた。『できるものなら,ね』という邏明の言葉が。
「カーティスさん,どうでしたか?」
「えっと……多分あの人,リリスの失踪に関係あるというのは確定しました」
「どうして?」
「彼からリリスの魔力が見えたんです」
「あと,神様の魔力もね」
プレーメスが言うと,翠蘭兄妹は驚いていた。
「神様っていうと……『壊れた女神』様かなぁ」
「多分そうだよ。はい,見てこれ」
ゼルセピナは懐から何かを取り出した。古めかしい書物で,術式で封印されている。
「こんなの,解析しちゃえば余裕なんだよ……あ,できた」
「君にそんなことをする脳があったんだね」
「というかゼルセピナさん,それってどこで拾ったんですか?」
ゼルセピナ曰く,邏明の家からこっそり盗み出したものらしい。カーティスとプレーメスは呆れて彼女を見ていたが,翠蘭と春雷はその内容に興味を示した。『神卸の方法』と書かれた魔術書にはこう書かれてあった。
『神をそのまま人間よりも下位の存在にする。具体的には,【神を地獄に,最上位を最下位に】と唱えよ。すると,操られるだけの神がこの地に誕生する。これの解除方法は,他人の身体にその神を入れること。まあ,解除は自分がやっても四十年できなかったものだ。容易ではないだろう。神と魔力が近いと乗り移りやすいと考えられる。
李 邏錬』
「邏錬って……あの人の先祖ですよね」
「この術式,リリスちゃんが生み出した術式の正反対じゃん」
「これは,多分言わないほうがいいですよね」
ゼルセピナはその書物を懐にしまい直した。五人がしばらく歩いていると,黄色い声が聞こえ始めてきた。皇帝がどこかへ訪問するのだという。あの噂は案外,広まっていないのだろうか。
「陛下……!わっ,危ないっ!?」
「大丈夫ですか?」
カーティスが人混みを抜けると,哉藍は心配してくれた。
⦅意外と優しい……?⦆
「その感じだと西の方から来た方ですね?」
「そうですけど……」
すると,哉藍はカーティスに近づいてそっと耳打ちをした。
「(リリスさんって貴方のお連れさんですか?)」
「(なぜそれをっ……!)」
「(えっと,彼女は今後宮にいます。けど,大丈夫です!冤罪事件の証拠を見つけたらちゃんと戻してあげますから……可愛いですよね,彼女)」
「可愛いのはわかりますけど,絶対に貴方には渡しませんよ」
少し嫉妬してしまったカーティスは,頬を膨らませながら四人の元へと帰っていった。




