国外追放で捜査する
朝,リリスは珍しく起きるのが遅くなった。昨日,恐ろしいほどに疲れていたからかもしれない。碧帝は起こしていいのかどうか,迷っていた。すると,哉藍が部屋に入ってきた。
「リリスさん,事件の証拠持ってきましたよ!……って寝ているんですか?」
「しーっ!すごい疲れきっているんです」
「初日ですよね……その,いじめとか大丈夫だったんですか」
「多分,標的になるでしょうね。異国人ですし」
碧帝はそこで標的になる理由を『哉藍と一緒にいるところを目撃したから』というのは言わないでおいた。神は気まぐれで,同じ部屋にいる二人が結ばれてほしいとかそんなことを考えていた。
なんとなく気まずい空気になってしまったので,碧帝は頬を叩いてリリスを起こす。それで目覚めたリリスは哉藍を見て慌てて布団をしまった。
「ごめんなさいっ……!で,来てくださったってことは何か事件の証拠があったんですか?」
「は,はい……こちらなんですけど。どうでしょう,犯人が分かったりしますか……」
流石にそれだけでは,とリリス。しかし,強盗や殺人をしても揉み消せる,そしてその罪を他人に覆い被せるような権力者であるということが確定した。それと,哉藍の評価が正反対なのも気になる。
「あリがとうございます!仕事が終わった後にじっくり見てみます!」
「僕も考えてみます」
リリスは洗濯をしながら,書類を浮かせて碧帝と話していた。他の尚服係の人達は魔術の存在を知らないらしく,不審者か何かかと疑っていたが,事情を話すと協力してくれるようになった。他の人達は国内の有力貴族の娘の人がほとんどで,色々と情報を持っていた。
「あの……あそこにいる女性って何者なんですか」
「あぁ……変な人なんだよねぇー。正二品の方なんだけど派閥つくってるっていうか,家が有名らしいんだけど……あの性格じゃあ正一品になるのは無理だよねー」
「あそこの集団には絡まない方がいいよ」
「ふーん」
そう言って皆で派閥の方をジロジロ見ていると,綺麗な服を着ていた女は近づいてきた。そして話しながら洗濯をしていた同僚に洗剤付きの水をかけた。リリスは立ち上がってその女に詰め寄る。
「妃様だからってそんなことしてもいいんですか!性格悪いですね」
「(リリス,それ以上刺激しない方が……)」
碧帝はそう言って忠告したが遅かった。
周りの人が反応する前にリリスの頬には手が飛んできた。
「痛っ……」
「ふざけんなよ!」
「そこまでにしておいた方がいいんじゃないんですか?」
「何がだ。こっちはお父様に言いつけることもできるのよ!!」
目の前にいる神に反論している女を見て,リリスはつい失笑してしまう。碧帝と正二品の女は口論を始めた。しばらくすると,碧帝はニヤリとした。覚えておきなさいよ,と言って集団で逃げていってしまった。
「ばーか,ばーか」
「すごー。というか君,華國神話の主神に似てるって言われない?」
「えっ,そうかなー」
碧帝がなんとか誤魔化していたが,やはり疑っていた。リリスは笑顔で皆に言う。
「さっ,早く仕事終わらせましょう!」
* * *
「カーティスさん,なんでそんなに笑っているのー?」
「ふっふっふ……最近,色々な魔術書を読んでいましてね,すごい術式を入手できたので皇帝にぶつけようかと思っているんです」
「なんていうか,そんなことしていいの」
「リリスのためなら使えるものは使うんですよ」
そう言って,五人は街の散策を始めた。リリスの消えた場所へと向かうことにした。
「リリスはそこで襲撃されたんですよね。ならそこには何かしらの証拠があるはず……」
「それじゃあ,そこに行ってみるかい?」
「そうしましょう」
何十分か歩くと,薄く汚い街に変貌していた。翠蘭は懐かしみながら,カーティスとゼルセピナとプレーメスは目を細めながらその街を覗いている。
「こんなところに本当に証拠があるの?」
「春雷さん,リリスが消える前に言ってた事とかありますか」
「そういえば…………」
リリスが言っていたことを思い出した。
『殺人に強盗……?』
カーティスはそれを聞いて,考えている。
「何か思いついた?」
「いいえ。リリスは鋭いですから……けど,それだと犯罪の内容に違和感を持っているってことですよね」
「じゃあ,犯罪の内容をもう少し掘り下げてみよう」
翠蘭はあくまでも明るい声でそう言った。もしかしたら,他の人たちの気持ちを少し明るくするためにそうしているのかもしれない。
「まずは殺人だね。文字通り,人を殺すことだ……本当に,愚かだよね」
プレーメスは半ば呆れながら言った。神からしたら,殺生は愚かなことなのだろう。確かに,神は息をするように惑星を破壊できるような力を持つ。たかが人如きなのかもしれないのだろう。
「強盗は人のものを奪うでしょ?これの何に違和感があるんだろう」
「「「「うーん……」」」」
平均よりはるかに上の頭脳を持つはずの五人は黙ってしまった。
「皇帝がやってて違和感のある犯罪,か」
「それだ!」
「えっ!?」
カーティスは翠蘭の一言で閃いた。『皇帝がやっていて違和感のある犯罪』である。それが強盗というには当てはまっていた。
「おかしいと思いませんか。強盗って」
「そう?」
「だって,お金が足りないなら税金でもなんでも上げればいいじゃないですか」
「確かに……」
「これで少し,犯人像が分かってきました。恐らく権力者」
「なんでそうなるの」
「前提で翠蘭さんと春雷さんが冤罪にかかっているということを考慮すれば,やらかした誰かさんが警察の上の方に圧力をかけて近くにいたお二人に罪をなすりつけたんじゃないんですか」
四人は納得していた。そして,翠蘭は懐から紙を取り出して広げる。
「これは色んな人を脅迫……話を聞いて集めた貴族の情報」
「こ,この人はなんていうんですかっ」
そう言って,カーティスは『李 邏明』と書かれているところを指差した。そこには国家反逆の恐れありと書かれていた。
「相当偉そうな家ですけど……叛逆のための資金は必要ですもんね」
「もし,皇帝が実際は聞いているほど悪い人じゃないんだとしたら…………」
「どうなるんだろうね?」
ゼルセピナは楽しそうな表情で四人を見ている。
「これが邏明の流した情報だとしたら,国民を皇帝から離れさせるためにそんなことをしている……?」
「けど,これはわかりませんよね……」
とにかく,偶然見つけた李邏明という男が怪しく見えてきたので,彼に話を聞くことにした。
* * *
「これが事件の証拠か……」
「そうみたいだね。現場は宮廷,か。どうする,行ってみる?」
「だね。バレたら冗談抜きで殺されそうだけどね」
リリスと碧帝は皆が雑魚寝しているのを踏まないようにして,外に出た。二人が空を見ていると,星が光り輝いている。
「綺麗だねー」
「そうだねー」
透明化をして宮廷まで潜入したのはいいものの,方向音痴のリリスは碧帝に案内を任せるしかなかった。
「わっ」
「大丈夫かい?」
「えっと……貴方は……」
誰かとぶつかってしまったリリスは,相手の手を借りて立ち上がった。陰気な感じだが,顔立ちは良い。
「自分は,李邏明っていうよ。よろしくね」
碧帝はその名前を聞いて,咄嗟に前に出た。
「なにするつもりですか」
「警戒しているんだ?大丈夫,そんな危ないことはしないから」
リリスは邏明の腰あたりを見ていると,銀色に光っている凶器を取り出しているのを確認した。
「碧帝危ないっ……!」
慌ててリリスは術式を撃った。すると,その轟音で気づいたのか,哉藍は駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!邏明,この人達は不審者なんかじゃありませんよ」
「知ってますよ。あははははは」
そう言って邏明は霧散していった。リリスは目を細めながら思考している。
⦅あいつ……怪しいな。明日も来てみるか⦆
リリス達もカーティス達も,少しずつ真相に近づいていった。




