国外追放と皇帝
「リリス,起きなさい」
「ふぁぁ……誰?」
「誰って…………君を襲った『神』なんだけど,流石に平和ボケしすぎなんじゃないのー?」
リリスの目の前にいる女は呆れてリリスの方を見ている。そして『神』という発言に耳を疑ってしまった。確かに,襲ったときに着ていた特徴的なチャイナ服じゃないから気づいていなかったが,整いすぎている顔立ちはまさに『神』といったような美しさだった。
「なんてことしてくれたんですか!!って,ここどこ!?」
「ふふふ…………後宮って知ってる?」
「えぇ,今後宮にいるんですか?その……手続きとかありましたか」
「そんな心配している余裕はあるの?旅を一緒にしていた人達,心配しているんじゃない?」
あっ,とリリスは思い出す。そうだ,翠蘭兄妹の冤罪を解くために行動をしていたのだった。目の前にいた神は『碧帝』と名乗り,状況の説明をしてくれる。
「今,わらわ達は後宮の尚服係に配属されている。これから少しの間はここにいないといけない」
「待って,碧帝。君が神ならなんとかしてくれない?」
碧帝は黙ってしまった。何か,複雑な事情があるらしい。リリスはそれに気づかず,なにも考えずに普通に聞いた。
「まあ,この国に来てばっかりだったら何も分かんなくて当然かっ」
「?」
「あはははー。いいよ,いいよ。昔話だけどね」
昔々,国を納める神がいました。その神は民衆のために,死ぬ気で政治をし,土地を豊かにし,漁業も盛んに出来るように頑張りました。しかし,愚かな人間共は有能な神を利用して私利私欲に使いたいと思い始めました。そして,ある男が十年もかけた詠唱で神様を壊してしまいました。一級魔術師,その役職を持つ者でさえ十年かかった術式。それは神を壊す……殺すのは簡単でした。そうして創世神をも殺した【神殺しの光】は神の脳髄を貫きました。結果,主神となった『壊れた女神』は人間の操り人形になることしかできなくなったのです。
『壊れた女神』を直す方法はたったの一つ。誰かが彼女の『依代』となること。
「そうだったんですか……」
「だからさ,後宮から脱出した時は君がわらわの依代になってくれる?」
「いいよ。生活に支障が出ない程度だったら協力できるし」
二人がそんなことを話していると,部屋に男が入ってきた。完全男子禁制(皇族除く)だからつまりは,皇帝かもしくはその親族である。
「あっ,思い出した」
碧帝は何か話し忘れていたことがあったようだ。彼女は何故だか青ざめている。その反応を見て,リリスはなんとなく部屋に入ってきた男が何者なのかを悟ってしまった。皇帝だ。
「は,はひぃー…………」
「(そういえば,皇帝様が珍しがってリリスのこと見に来るんだった……)」
神が格下の『皇帝様』というのもおかしな話だが。リリスは気づかないうちに,どんどん青ざめていった。
「…………」
「すみません!クソ野郎とか思っていたのは本当にすみませんでした!?」
「本人の前で言うこと……?」
完全に殺されると思って混乱していたリリスは失言をどんどんしていってしまう。そして,男の口を開いた。
「…………た」
「た?」
「大変すみませんでしたぁぁぁぁっ!?」
「「はぁっ!?」」
殺人に強盗に女性関係に難しかないとされているあの皇帝が。土下座して謝罪してきた。悪いのはリリスだと言うのに。
「あっ,謝らないでください!?」
「だって,完全に悪影響受けてるじゃないですか」
「悪影響?」
「あぁ,わらわが今説明しようと思っていたのでしてよ?この皇帝,すっごい気弱なんだよー」
「碧帝様!もう死にそう……」
倒れかかっている皇帝を抱きかかえると,寝台まで運んだ。
「ごめんなさいっ……!大丈夫です!」
「少し,聞きたいことがあるんですけど……いいでしょうか?」
いいですけど,と皇帝は不思議そうに言うと,リリスは身を乗り出して彼に質問を始めた。二人の様子を見ていた碧帝はニヤニヤとしている。
「殺人とかしたことありますか?」
「はぁぁぁぁぁっ!?なんでそんなこと,しないといけないんですかっ!」
「……じゃあ,強盗は……」
「しませんよっ!」
「強引に女性に手を出す……」
「本当に愛している人にしかしません」
リリスは皇帝の顔が赤くなったのを確認すると,気まずくなって碧帝の方をじろっと見た。そうすると,『壊れた神』は満面の笑みと明るい声でリリスに語りかけた。
「これでも,この哉藍がやばいくらいの独裁皇帝だと思う?」
リリスは首を横に振って断言した。
「いいえ,これは冤罪です!」
「え,冤罪……?」
「はい。自分の友人が冤罪にかけられてしまって。それを解こうとしていたんです」
「どんな冤罪なんですか?」
「詳しくは知らないんですけど,殺人三件に強盗四件で立件されてしまったらしいんです」
リリスがそれだけを言うと,哉藍は驚いて彼女の方を見た。何か心あたりがあるらしい。リリスはすぐに問いただした。
「えっと……翠蘭さんと春雷さんですか?」
「なんで皇帝がそんなこと知ってるんですかっ」
「ふふーん☆それはね,有力な家の人が殺されているからだよ。それをお偉いさんが慌てて捜査した結果,何にも関係ない翠蘭兄妹が捕まったって訳」
リリスは哉藍に抱き寄せられてしまった。それを見て,水を飲んでいた碧帝は吹き出していた。リリスも,全然何が起こったのか理解できずにいた。
「…………っ!?」
「ごめんなさい!えっと,その……可愛いなって思って」
「えっ,えっ」
「少し考えておいてください!」
そう言うと,哉藍は走って外に出ていってしまった。彼のその様子を見て,二人は立ち尽くすことしかできなかった。そして,大声を出して慌てる。
「あぁーっ!?」
「どうしたのー。リリスー」
「私たちって尚服係じゃん!全然妃とかの位じゃないんでしょ」
「そうだけど…………」
「じゃあ,仕事しないと!さっさと終わらせちゃおう」
「この社畜が……」
碧帝が何か愚痴愚痴言っていたが,知ったことではない。急いで扉を開けると,目の前に四,五人の女が突っ立っていた。リリスが不思議そうな顔をして彼女たちを見ていると,突然髪を掴まれた。
「あんた,陛下と会ったからって……調子乗んなよ!!」
リーダーのような女がそう言って立ち去ろうとした時,リリスはつい本音を言ってしまった。
「(低俗なやつらだな……魔術書でも読んだ方がいいんじゃない?)」
「お前なんか言ったか!?」
「言ってません。貴女方に何か言うほど,暇じゃないので……あっ」
調子乗ってるんじゃないよ,とリリスは井戸に頭を突っ込まれた。数十秒その状態が続き,気づけば碧帝が助けてくれていた。
「あ,ありがとう……死ぬかと思った……」
「リリスさーん!リリスっていうんだよね,あってるよねっ」
リリスは遠くから聞こえた声に反応した。可愛い女の子が近くに寄ってきていた。
「大丈夫ですかっ?」
「ありがとうございます……」
⦅少しの期間って言ってたけど……不安しかないなぁ,女子って怖い⦆
少し不安そうな顔をして碧帝の顔をじっと見つめるリリスだった。
* * *
「なるほど……『壊れた神』か」
「プレーメスさん,あれって華國神話の主神ですよね」
春雷がリリス失踪について他の人たちに言うと,他の四人は真面目に考えだした。
「あれ,祭ってまだだよね?なんでいるの」
「「祭り??」」
主神二人は首を傾げた。カーティスも本で読んだことがあるくらいで,詳しい内容は知らない。そして,プレーメスとカーティスは純粋そうな笑顔で言った。
「後宮にいるんですよね?リリスは」
「そう,だと思います……」
「じゃあさ,」
「「今からそこ行って潰してきていいかな」」
「待ってください!死にますって!あそこには『壊れた神』の自動迎撃術式があるんです!」
春雷はそう言って二人を必死で止める。
「大丈夫なはずです!リリスさんって悪運強いですから」




