国外追放で森を迷う
『試合開始……ってうおっ!?皆さん,結界を張ってください!』
解説に言われるがまま,リリスは『神の力』を使った結界を展開した。下を見てみると,ある場所は溶けない氷があり,ある場所は闇に包まれている。
「うわぁ,これが神の戦い……」
リリスはじっくりと見ていた。
『惑星凍結』
ゼルセピナはただそれだけ言った。すると,彼女の周囲からはさらに氷が生成された。だけではなく,空気も凍った。そのままの意味で。
「寒っ……というか,これ何?空間が停止してるんだけど」
『随分と術式の精度が上がってるね』
『もう一人の神様に協力してもらったからね』
あっ,とリリス。ヘルとの会話が長かったと思っていたのだが,まさか術式の組み立てをしているとは思わなかった。確かに話は盛り上がっていた。しかし,術式を組み立てるにしては早すぎる。これが神の為せる業だというのだろうか?
「プレーメスさんはどんな風に対抗するのかな?」
そんなことを考えていると,一瞬で空間の凍結が終わった。プレーメスを見てみたら,ゼルセピナを嘲笑しているように見えた。
『ゼルセピナ。確かに君の知り合いの魔術はすごいよ。けど,その神様は言わなかった?』
『脳筋って,さ』
プレーメスにそれを言われて,ゼルセピナは一瞬だけ油断してしまった。それが唯一にして最大の過ちである。
「強いなぁ……よしっ!」
何かを決心したリリスは,席から立ち上がって大声を出した。
「ゼルセピナさーん!頑張ってくださーい!!」
『……!ありがとう!頑張るよ』
真後ろの方向にいたリリスの顔を見て,安心したゼルセピナは逆にプレーメスを嘲笑し始める。
『どう?君は全然頑張れとか言われてなかったけど,恋愛対象として見られてないのがわかりやすいよねー』
『うるさい。結局,これで勝てれば好きになってくれるでしょ』
『本当に言ってる?あの二人,結婚してるよ』
『…………は?』
その二人の神のやり取りをリリスは遠くから見ていた。しかし,全く内容が聞こえてこない。恐らく意図的に遮断されているのだろう。
「もう暗い時間……やば,見たいのに眠い……」
暗い所で立っていない限り,寝てしまう性質のリリスが寝てしまうのには時間がかからなかった。
「すぅ……すぅ……」
リリスが爆睡している間にも,戦いは続いている。プレーメスはゼルセピナの押しに苦戦をしていた。先ほど嘲笑していた脳筋戦法に苦しめられているのだ。
『あら,技術だけでは私に勝てないわよ?』
『知ってる。だけど,脳筋に勝ち筋なんてないよ』
ゼルセピナは周りを凍らせるだけで,術式の応用がほとんどなかった。ヘルの力も借りてはいたが,大して通常と変わっていない。彼女の様子を見て,プレーメスは再度嘲笑する。
『主神再来』
彼のその一言で,主神VS主神の戦いは終わった。
* * *
『リリス!勝ったよ,ゼルセピナに!』
「寝てますね。お疲れ様です!」
『良かったぁー。リリスちゃんに醜態晒さなくて』
『俺,勝ったのになぁ……』
釈然としていないプレーメスに,ゼルセピナは明るい声で背中を叩く。
『私本気出してなかったからねー?脳筋とか思われてるけど,もっと術式展開できるしー』
ちなみに,爆睡しているリリスを担いでいるのは,カーティスである。プレーメスがありえないほどの目力で睨んでくるが,気にしない。
「ゼルセピナさんの家って遠いですよね?今日はどこに泊まるんですか」
『今日はこのプレーメスの家に泊まるよ……まあ,私の家よりは居心地悪いと思うけどね。リリスちゃんももうちょっと寝やすい方がいいよねー』
「すぅ……すぅ…う,うん」
リリスの寝ぼけ半分の言葉を受けたプレーメスは何故か張り切っている。カーティスは少し怖がりながらも張り切っている理由をプレーメスに聞いてみた。
『もちろん,リリスに快適に過ごしてもらうためだよ!……二人とも,邪魔しないでね?』
謎に殺気立っていたのが怖く,素直に頷くしかできなかった。しばらく歩いていると,神殿らしきものが見えてきた。
「神様の住んでいるところになんで神殿なんてあるの……?趣味が悪いなぁ」
「ここ,どこ……?」
『プレーメスの住居だよ』
「なんか……豪華すぎてよくわかんない」
『…………』
そう言われたプレーメスは完全に絶句していた。
『さあ!これの夢が完全に破壊されたということで,入っていこうかー!プレーメス,術式で扉開けてよ』
何度も術式を使っていたが,一向に開く気配がしない。
『あ,あれ?』
『主神さーん,何しているんですか?』
『風神……君こそ何しているんだい,こんな所で』
風神とプレーメスが話し合っているが,話の内容は全く進んでいない。
「もしかして,ここって風神様の住居だったりします……?」
『そうだけど……もしかして皆さん,この森迷いました?』
その場にいた全員が沈黙してしまった。そして,リリスがその沈黙を破る。
「あのー。主神さんって,方向音痴ですか」
『……そこの人間!何主神さんに失礼なことを言っている!?』
プレーメスは苦笑いしながら,気まずそうに話し始めた。
『そうだよ。ダサいよねー……神様なのに方向音痴とか』
それを聞いて,リリスは彼の手を握った。心なしか,涙が浮かんでいる。
『リリス?』
「プレーメスさん!同じです!!良かったぁ……私もよく迷っちゃうんですよね!ほんと,マッピング能力もないし方向感覚も狂いまくってるんですよねー」
『リリスもそうなんだ。なんていうか……可愛いね』
そう言われた途端,リリスの視界が真っ暗になった。どうやら,プレーメスに抱き寄せられたらしい。
「ふぇっ!?」
カーティスは強引に二人を引き剥がした。
「はい二人ともー。早く離れてね?」
『そうだ。今日は自分の家に泊まりませんか?』
と,風神が言う。四人は明るい表情をして彼の提案を受け入れた。
『ありがとねー。荷物はここに置いておいていいかな?』
『あっ,はい。人間はあっちに荷物置いておいて』
やはり,彼の上にいる主神とリリスたち人間とでは扱いも違ってくるのだろう。
『リリスちゃーん!今日は一緒に寝よ?』
「いいですよ!カーティスはどうするの」
「僕は一人で寝るよ。それじゃあ,おやすみ」
カーティスと別れたリリスは,静かに眠りについた。
『…………おはよう,リリス。よく眠れたってぐぁっ!?痛いって,誰!?』
「リリスにそんな甘い声で誘惑しても無駄ですよ?」
リリスが寝ぼけながら上を見てみると,カーティスが誰かを蹴っていた。その『誰か』とは,もちろん主神・プレーメスである。
部屋の中には,神の痛がっている声だけが聞こえてくる。
⦅神様によくそんなことできるなぁ……⦆
そう思ったリリスだが,カーティスが満足してそうだったので,言わないでおいた。




