国外追放で神話を見る
リリスは朝早く起きて,虚空の中から本を取り出した。『グリーシア神話』と,表紙には書かれている。
「リリス,何読んでるの?」
「これ,グリーシア神話。カーティスも見たことない?」
「読んだことはあるけど……確か,創世神に依頼された主神が色々な国を創った経緯を書いているんだよね。なんで今,それ読んでるの」
「ここのことを『神々の森』ってゼルセピナさんが言ってたから,復習しといた方がいいかなぁって」
その話を聞いたカーティスもグリーシア神話の本を見ることにした。
「それの次のページは死者の国の女王と冥府の主が戦うシーンだったよね」
「合ってる!なんで覚えているの?」
「僕,記憶力には自信があるんだよね!今まであった事は全て覚えてるし」
「全部……?じゃあ,十年前の今頃は何してたの」
カーティスは迷う事なくスラスラと言っていった。
「十年前の今は……本を読んでたね。『厄災の少女出会いの遺跡編』の九十三ページ目。挿絵を見て涙腺が緩んでいたっけな」
「本当に覚えてる!?」
「言ったでしょ。どんなに古くても記憶があるんだ」
カーティスの記憶力の凄さに驚いていると,ゼルセピナは部屋に入ってきた。
『よく眠れたかな?って何見てるんだー』
「あぁ,これ。グリーシア神話です。神々の森って言われてるらしいから少し学び直しているんです」
リリスがそう言うと,ゼルセピナは黒歴史を掘り返されたような複雑な表情をしている。
「何かあったんですか?」
『その死者の国の女王と戦った場面,そこそこ恥ずかしいんだよねー』
「なんで関係ないゼルセピナさんが恥ずかしがってるんですか」
『その女の子,強くてさー。負けかけたから恥ずかしいんだよー……っていうか,私当事者だからね?』
リリスとカーティスは沈黙してしまった。それを破ったのは一つの術式である。『交信術式』,それがリリスの頭に通知が鳴り響いた。
『やっほー!リリス……ってそこどこ?』
「あっ!ヘル,今何してるの?」
ヘルという単語がリリスの口から出た瞬間,ゼルセピナの目が鋭くなったことにカーティスは気づいてしまった。しかし,リリスはヘルとの会話で気がついていない。
『私?普通に街を歩いてたよ』
「そんなに自由に街を歩いてていいの?」
『皆,優しくてさー。で,リリスはどこにいるの?』
リリスが今いる場所を伝えようとすると,ゼルセピナが割り込んで画面に入ってきた。
『あらあら,ヘルさんじゃない。元気にしてた?閉じ込められた死者の国で』
ゼルセピナの言葉には悪意が詰め込まれていた。ヘルは動じずにさらに悪意のある言葉を言い放つ。
『たかが少女に負けかける貴女,主神には相応しくないんじゃないの。魔術の技術も高くした方がいいんじゃない,脳筋さん?』
『脳筋っ……!死者の国に乗り込んで支配してもいいんだよ』
『『あははははは』』
ヘルとゼルセピナは笑っているが,目が全然笑っていない。その女神二柱を見てリリスはあわあわしている。カーティスは諦めの顔をしている。
「カーティス,どうしよう!なんか戦争起きそうなんだけど」
「神様同士の戦争だったら僕たちは関係ないねー。よかったー」
二人は静かに言い争いを見守っていた。それから数分後,術式の画面が破壊されているのを発見した。
『リリスちゃんありがとー。久々にストレス発散できたわー』
「それはよかったですね……」
カーティスは苦笑していた。ゼルセピナは二人の手を強引に引いて,次の場所へと向かった。
「次の目的地はどこなんですか?」
『うーん,主神二人目のところかな?』
「二人目……主神って一人なものなんじゃないですか?」
『カーティス君,よく分かってるねー』
リリスは彼女自身で考えた推測を言ってみる。
「もしかして,強さが互角すぎて人々もどちらを主神にすれば良いか迷って結局二人を主神にするっていう異例の事態になったとか…」
『せいかーい!よく分かったねー』
そう言ったのはカーティスでも,ゼルセピナでもない。男の声をしていた。
「誰ぇっ!?」
『俺のことかな。プレーメスっていう名前だよ』
「わぁお……」
リリスは絶句していた。プレーメスはありえないほどに美形だったのだ。カーティスもすごくイケメンだが,プレーメスはその何十倍も整っている。しかし,そんなんで惚れるほどリリスは面食いではない。
「プレーメスさんもついてくるんですか?」
『ちょっと面白そうだからね。あと,俺は旅の守護神だったりするからね……ついて行っていいかな?』
「いいと思いますけど…」
プレーメスは少し驚いていた。
『俺のことを好きにならない人間なんていたのか』
今までの旅のことを話していると,円柱状の建物が見えてきた。何やら,騒々しすぎる音がしている。
「ここは?」
「なんか……戦ってそうだよね。うん」
『合っているよ。神達が自分の実力を試すために定期的にやっている殺し合いだ……あそこが特等席なんだけど。リリス,一緒に見ない?』
「プレーメスさん,何言ってるんですか。僕の婚約者ですよ?僕が一緒に見ます」
『リリスさんのことを恋愛対象として見ていると?……まぁ,合ってなくもないけど。大丈夫,手は出さないから』
リリスは何故そんなに言い争いをしているのかが分からなかったが,ゼルセピナが誘ってくれたので彼女と一緒に座って見ることにした。
* * *
「はあ……なんでこいつと一緒に殺し合い見ないといけないんだよ……」
『こんなのと隣で観戦は地獄よりも酷いわ』
カーティスとプレーメスの席はリリスとゼルセピナの席と真反対にある。
『さあ!一回戦目はー……雷神VS風神です!!さあ,一体どちらが勝つのか!?』
一回戦目は雷神が勝っていた。雷神の生み出した電磁波が強力すぎてしばらくリリスに帯電していたというのはカーティスに内緒である。
『二回戦目はー。時の神VS狂気の神だぁっ!ここで皆様にご忠告です。えー…時の神も危ないですが,狂気の神は全てを破壊する可能性があるので,結界張って観戦することをおすすめしまーす。それでは,スタートっ!!』
解説がそう言った瞬間。時間が止まり,建物のほとんどが破壊された。リリスは結界を張っていなかった。しかし,彼女は無事である。
『怪我はないかな?私がこのまま結界を張っとくから,安心して見ていてね』
「あ,ありがとうございます」
結局,優勝したのは狂気の神だった。解説は周囲を見回すと,嬉しそうな声で言葉を続ける。
『なんと皆様!本日は,主神二柱が来ています!……戦っているところ,見たくはないですか?』
周りがざわざわとし始めてきた。どうやら,二柱の戦いがそれほど見たいようだ。確かに,主神同士の戦いが気になる。そう思ったリリスはゼルセピナの方を見た。
『戦って欲しいのかな?』
「ちょっと気になりますけど……なんか,嫌だったら辞退してもいいと思いますよ」
リリスとゼルセピナは正面を見た。プレーメスはノリノリで下に降りていった。
『……これは戦わないといけなそうな雰囲気だね』
「ゼルセピナさん,頑張ってください!応援しています!」
笑顔で下に降りていったゼルセピナを見て,リリスは少し安心していた。
『敵として目の前にいるのは久しぶりだね……何万年ぶりだったかな』
『さっさと戦おう。彼女にいいところ見せたいし』
そう言うと,火花と氷塊が建物の色々なところに出現した。




