国外追放とプロポーズ
三年前,僕は女の子に恋をした。弟の文化祭にお忍びで行った時,ある女の子の笑顔に心を惹かれてしまった。
『すみませんっ!お怪我はありませんか……?』
『大丈夫です。ありがとう』
『リリスー!早く客連れてきてよー』
『はーい!……あの,私たちの教室に来てくださいませんか?』
本しか読まずに女性に関心も持っていなかった僕は,初めて幸せになれた気がした。
『(どうしよう!?お客さんが私の料理をご所望だよ……アリサがつくってくれない?)』
『駄目ですよ。これは修行を怠った罰です。しっかり受けてください』
『そんなぁ……』
話の内容が大体聞こえてしまった。話の内容から察するに,あの子が弟の話していたリリスという子らしい。しばらくもしないうちに,リリスさんが申し訳なさそうに料理を持ってきながら言った。
『本当にすみません!!ゴミみたいな料理で……』
僕は彼女のつくったと思われる料理を食べた。あり得ないほどに焦げているところと火が通っていないがバラバラだ。
『……ありがとうございます』
『へっ?』
『いえ,ちゃんと丁寧につくっていただいて,ありがとうございます』
『はあ……』
彼女は不思議な顔をしていた。
⦅面白い……また明日,来てみよう⦆
それから数週間後,街を回っていると明らかに前とは雰囲気が違っていた。リリスと仲良くしていたアリサというメイドもイリーナという友人も,リリスのことを悪と見做していた。
『カーティス,君には罪人の監視役をしてもらいたいんだけど……いいかな?』
父上がそんなことを頼んできた。僕は断る理由がなかったので,それを引き受けた。その罪人の顔を見た時に僕は驚いてしまった。リリス・スチュアート,その人だ。
『付き合ってください!!』
『陛下。この人,秒で矛盾しています!』
勢いで告白をしてしまった。それからリリスと共に旅を続けてきた。僕はリリスに冷たくあしらわれたこともあったが,悪くないなと思っている。だから,彼女に告白したときにイエスと言われたのがとても驚いた。
そして……
「僕の告白が成功しますように……!」
そう空に願いをかけて僕はリリスを起こすことにした。
* * *
真っ白な天井とカーティスの顔。それでリリスは飛び起きた。
「カーティスが起きている…… 今,何時!?」
「失礼だなぁ……まだ四時半だよ」
「なんだー。で,なにかあるの」
「あのさ,今日は二人で一緒に街を回らない?」
カーティスのその言葉を聞いて,リリスはニヤリとした。
「ついに話してくれるんだね!ねえねえ,どんな話?」
「それは……あとで言うよっ」
彼の案はすぐに賛成された。リリスは着替えて街を回る準備をした。
「どこに行くとか予定あるの?」
リリスのその質問にカーティスは自慢げに答える。
「そのために二日間,街を回ってたんだから!全力でリリスをエスコートするよ!」
「おぉー!」
三時間くらいカーティスと話をして,街巡りを始めた。
「最初はどこに行くの?」
「展望台かな。すごくいい眺めらしいよ」
彼の話を聞いて,疑問に思うことがあった。
「展望台って夜に行くものじゃないの?」
「どうやら魔道具で造られているプラネタリウムっていうのがあるらしいよ」
カーティスについて行ってから数分,大きな施設に辿り着いた。元の世界と同じような施設であった。
「あの突き出ているのが惑星を見ることができる『望遠鏡』だって」
「こんなところに入るんだねぇー。なんか今までの国と雰囲気が違う」
それは二人の共通認識である。『電脳の国』そして,『機械仕掛けの国』と協定を結んでいるのが光の国・リュミエールらしい。この情報は近くの本屋で仕入れた。
「入ろう!」
「うん。楽しみだ」
プラネタリウムのある展望台の周辺の施設に入ろうとしたとき,リリスはふと思い出した。
⦅そういえば暗い施設に入った時に起きていた覚えがないんだよなぁ……寝ちゃわないかな⦆
中学校の初めての校外研修,その時に行ったのはプラネタリウム。星について詳しくなることが目的らしい。ショーが始まってから三分くらいで寝てしまったらしい。唯葉が起こしてくれないと,先生からの説教コースだったかもしれないことを思い出した。そういえばあれが唯葉との出会いだっただろうか。
「リリス,そんな遠い目してどうしたの?」
「いいや……なんでもない……寝てたら起こしてね」
カーティスとリリスはチケットを二人分頼んで,会場へ向かった。
『………それでは開演したいと思います。まず,東の方に見えるのはオリオン座。これはグリーシア神話に出てくる話の一部としても語り継がれています』
リリスの記憶は,そこまではあったのだ。暗いということや,日々の疲れが溜まっていたことから眠りにつくのが早かった。目を開けると,真昼の時間帯の公園だった。カーティスが心配そうな表情でリリスを見つめている。
「あの……大丈夫,ですか?」
「なんで敬語?」
「だって起こしても全然反応しないから」
「えっと,私暗いところだと寝やすんだよねー」
「じゃあ暗いところの探索とか危ないね……」
「流石に立ってるから寝ないよ」
そして,次の目的地に向かおうとした。どうやら,次に行く場所は街の中にある商店街のような場所らしい。
「こんなところがあったんだ。昨日には来なかったかなー」
「そうなんだ。じゃあ,行ってみる?」
カーティスが指差した先には小物,魔道具店があった。リリスはカーティスの提案に笑顔で頷いて,その店に入って行った。
「何を買おうかなー………ん?」
リリスはあるものを見つけた。お揃いの指輪である。
⦅そういえば,カーティスの誕生日っていつだったっけ……公式本には書いていたと思うんだけど…⦆
彼女は必死に記憶から公式本の内容を引き起こした。隠し攻略キャラという存在は印象に残っていたから,誕生日情報も覚えていたらしい。
⦅そうだ……今日じゃん!?⦆
そして指輪をじっくりと見て,思いついた。
⦅カーティスから告白してくれたし……結婚くらいは私から…ってなんでそんな思考になっているのよ!!⦆
リリスは罪人だ。それに比べ,カーティスは一国の王子である。あり得ないほどに身分が違う。身分というものがなかったとしても,カーティスはプロポーズに引かないだろうか,国王は許してくれるのだろうか。そんな考えがリリスの頭によぎった。
⦅だめだめっ!カーティスに引かれたとしても,私の気持ちは伝えるんだ!⦆
そう思って,勢いでお揃いの指輪を買った。
それから夕刻が近づくまでは,商店街を見て回った。それから,カーティスは顔を赤くしながら時計塔の方を指差した。
「最後にあそこ,一緒に行ってくれない?」
「いいけど,珍しいね。そこまで強引なんて」
それから,時計塔の頂上まで上がった。そこからの景色を見たリリスは言葉を失った。
「………綺麗。どこから見た夕陽よりも綺麗」
「リリス」
「どうしたの,カーティス」
リリスが後ろを振り返った。すると,カーティスが下を見ながら箱に入っている,銀色に輝いた指輪をリリスに見せた。
「えっと……リリ,貴女のことが大好きです。結婚してください」
カーティスの言葉にリリスは目を見開いた。
「えっ,えっ」
「一生,愛せる自信があります!」
「いいけど……私,国外追放された罪人だよ。陛下に許可とかもらったの?」
「もちろん。国に戻ったら結婚式をしてもいいらしいよ」
リリスは用意周到なカーティスを見て,驚いた。そして,
「カーティス,誕生日おめでとうっ!あの,被っちゃうんだけど……」
そう言って,指輪を取り出した。
「なんで僕の誕生日知ってるの?」
「えっと,寝ている時に言ってた」
「ふふっ,昨日は渡す機会がなかったけど。これ,どうぞ」
そう言ってカーティスに渡されたのは,マフラーだった。恐らく,大和国で買ったのだろう。
「これは?」
「リリスって寒いの苦手でしょ。そろそろ,寒い時期になるかなーって」
二人は互いの顔を見合って笑った。塔の窓からは,夕陽が差し込んでいた。




