国外追放で街を巡る
「ということで……私が浮気と判断したら処罰してくれってカーティスさんに言われたんですけど…」
「アンネさんの浮気の範囲って,どこからどこまでなんですか?」
太陽が眩しかったということもあって,アンネの方を鋭く見てしまった。リリスの悪役顔と鋭い目つきに怯えてしまったアンネは半泣きしていた。
「ごめんなさいぃっ……!!そうですよね,私みたいなのは口を挟むべきじゃないですよね!」
「そこまでは言っていないんですけど……」
そんなことを話しながら,三人で街を歩いていた。
「なんでカーティスはあんなに一人行動したがったんだろう……」
「私はなんとなくわかっちゃいました」
珍しく自信のありげなアンネを見て,彼女の考えている理由を聞いてみた。
「ふふん。多分だけど,リリスさんを喜ばせようとしているんじゃないでしょうか……!」
「どういうことですか?」
「だって付き合っていていつもべったりしているんでしょう?なら,リリスさんを第一に考えて行動しているのではって思ったんですが。あはは,違いますよねそうですよねー」
「あながち間違いではないのかも。リリス,前にもそんなことあった?」
オリビアにそう問いただされ,今までの旅を思い出した。そこで,引っかかる記憶が一つだけあった。大和国の時だ。
「前にそんなことあった……」
「その時の違和感とかは?」
「袋があったね。小さい袋だったよ」
オリビアとアンネは笑いながら顔を見合わせていた。どうやら真相がわかったようだ。リリスは分からなかったので,二人に聞いてみる。
「ねえー。なんで二人だけ分かってるのー。教えてよー」
「これは秘密にしておかないと。多分,カーティスさんから直接聞いた方がいいと思いますよ」
「うん……そうだね」
アンネは照れながら言っていたが,オリビアの方を見ていると,なんだか複雑な表情をしていた。
「そんなことより,私おすすめの場所があるんです。リリスさんも行ってみませんか?」
アンネの案に賛成して,街の中心部を歩き始めた。
「今はどこに向かっているんです?」
「水族館と,展望台です!知ってますか,水族館って」
今の世界ではほとんど見なかっただろうか。展望台は星の移動を観察して魔術に応用したり気象を予測しているから研究職以外でもそこそこ知名度はあるが,水族館は見たことがない。リュミエールにある水族館も,海の生物を神格化している地域もあるという宗教的な理由や襲いかかってくる恐れや,魔術師による水操作で見ている客が命の危険に晒される恐れがあるなどの色々な問題点があったらしい。
「よく開館できましたねー」
「『機械仕掛けの国』と『電脳の国』ってところで造られた硬質ガラス?っていうのを使うことによって水操作とか生物が襲いかかってくるとかの心配はないんですって。すごいですよね。最新技術って感じで」
まただ。また,『電脳の国』が出てきた。あまりにも話を聞いてきたので,その国に行きたくなってしまうリリスである。
「着きました!ここが世界初の水族館です!!」
どうやって『水族館』などという名前を考えたのかとか聞こうとしたリリスだったが,少し虚な目をして諦めた。多分この世界はあの【乙女ゲーム】の続編なのだろう。ということは運営が考えた名前に違いない。と少しメタい考えをしてしまうリリスである。
「どうしたの?なんかこの世界の真相に気がついたみたいな顔してるけど」
「……なんでもない」
「それじゃあ,行きましょう」
アンネの掛け声と共に,水族館に入った。
「暗い……!」
「(兄さん,水族館では多分静かにした方がいいよ)」
ごめんね,と小さな声でオリビアは言う。そのまま奥の方へと進んでいった。
「アンネさん,これはなんという種類なんですか?」
「それはクマノミって言うんですよ」
「見たことも聞いたこともないですね……」
今,リリスが発言したことは嘘だ。しかし前世で見たことのあるオレンジ色のクマノミとは違い,完全に海と同化してしまうような青色をしている。次に屋外に出ると,リリスの全身に盛大に水飛沫がかかった。
「「「……………」」」
「すみません!今,イルカのショーの途中でして……」
「はぁ……」
「もし良ければ,見ていきますか?このショー」
飼育員に言われ,三人は空いていたベンチに腰掛けた。
『それでは,モモちゃんのショーを再開しまーす!』
そう言ったのは,イルカを撫でている飼育員だった。
「すごい。よくここまで声が聞こえてくるね」
「どうやらこの水族館は『電脳の国』と共同でつくられたらしいですね。あちこちに見たことのないものが散らばっています」
もしかしたら,魔術じゃなくて最新兵器で戦いが起こる世の中になるかもしれない,そう思った一級魔術師のアンネとリリスだった。
「それじゃあ水にかかりたくないそこの皆さん!!全力の水操作魔術で避けてくださいねー!」
⦅………え?⦆
唐突にそう言われて困ってしまうリリス。何を隠そう,リリスは総合魔術と呼ばれる戦闘に向いたもの以外は微塵も使えないのだ。その事実をアンネもオリビアも知らない。
「リリスさん!?水にかかりたいんですか!?」
⦅どうしようー!?⦆
二人のどちらかに頼るという考えはリリスになかった。そして,ほんの数秒の間でリリスの服はさらにびしょ濡れになってしまった。
「あー……ちょっと場所移ろうか」
オリビアは気まずそうにリリスにそう言った。
「水魔術,使えなかったんですか……」
「ちゃんと会議の時に伝えられなくてすみません。つい,見栄を張りたくなってしまって」
アンネは驚いた顔をしながら話した。
「いいんですよ。それより,替えの服はどうしますか?」
「それなら,ホテルに戻ったらあるので大丈夫です!」
そうですか,とアンネ。二人はリリスをホテルまで送ってくれるとのことだった。
「あの塔はなんですか?」
「あれですか?時報を教えてくれる鐘です。一番上まで登れるんですよ」
そんなことを話しながら二十分,リリスの泊まっているホテルに到着した。
「今日は楽しいところに連れて行っていただき,ありがとうございます」
「それじゃあ,また今度」
そう言って,リリスと二人は別れた。
* * *
リリスが部屋に戻ると,カーティスはすでに戻っていて扉を開けた途端に仁王立ちをしていた。
「リリス……って大丈夫!?服,すごいびしょ濡れだけど!?」
「水族館に行ってたらこうなっちゃったんだよねー……くしゅんっ!」
とりあえず別の服に着替えたが,咳は止まらなかった。
「結構この時間帯冷えてるからね。リリスはもう寝た方がいいよ」
「……そうする」
そう言ってリリスはベッドに飛び込んで寝てしまった。
「明日,これ,渡せるかなぁ……」
そう言って,カーティスは黒い箱から赤い立方体の箱を取り出した。中を開けてみると,そこには指輪があった。所々に和が組み込まれている。
「ここなら良さそうなんだけどなぁ……」
そう独り言を呟いていたカーティスは,なんとなく窓を見てみた。今日の空は満月でいっぱいだった。そこに少しばかりの影があった。人影だ。
「カーティスさん……ですよね?」
「えぇっと…アンネさん?どうしてこんなところに」
「リリスさんは寝ているんですね。つ,伝えたいことがあって」
そう言ってアンネは息を吸い,再び話し始める。
「告白頑張ってください!!」
「なんでそのことを?」
「なんとなく,です……ただ,リリスさんとカーティスさんはお似合いだなって…だからその,応援しています!」
彼女のその一言で少し安心したカーティスだった。アンネはベランダから離れ姿を消した。
「成功,するといいな」
そう呟いて,カーティスは結婚指輪を黒い箱にしまった。




