国外追放と神霊現象
「……師匠……?」
リリスの前には,彼女が今まで一度も勝利したことのない相手,師匠がいた。彼は容赦なくリリスに襲いかかってくる。師匠に攻撃に,リリスは逃げることしかできなかった。
「やっぱり強っ……カーティス,ジェイクさん!先に森出てて!」
二人にはそう言い,無秩序に森のものを破壊する師匠の前に立った。
「久しぶりに,戦いましょう?」
リリスの言葉を聞くと,ニヤッと笑った。
「あれ……師匠,昔よりも弱くなってる?」
煽ったわけではない。本当に弱くなっていたのだ。しかし,弱くなったと言ってもリリスと同等の実力になった程度。確実に勝てるという相手ではない。
師匠は詠唱をせずに『死霊使い(ネクロマンシー)』を使ってくる。その間もニタニタと笑いながら接近戦を仕掛けてきた。リリスは師匠から殺人術も学んでいた。彼の得意としていた魔術を使ってこないことに少し違和感を持ちながら思考を停止して戦った。
「あれ,実体がある」
リリスは驚いていた。霊というのは魂が身体から抜けたものが地上を歩き回るものだ。この男,本当に死んでいるのかと思った。しかし,喋ってもいないし生気が感じられなかったので死亡していると判断する。
「【魔力分散】」
そう言ったが,師匠には何も効いてない。
⦅ですよねー⦆
魔術は互角くらいの実力になっていたが,彼を倒すためには肉体を殺さないといけない。魔術は魔力が減っていたから弱体化したものの,暗殺術に関してはそういうものの介在する余地は一切なく,リリスは実力で師匠に勝たないといけないのだった。
「嘘でしょっ!?」
師匠は容赦なく懐からナイフを取り出してリリスに畳み掛ける。それに応戦するが,全く敵わない。
⦅今の実力じゃあ,師匠を倒すことは出来ないっ……!どうすれば……⦆
その時,思い出した。全人類を救済することのできるとされる術式の書かれている書物,『薔薇の書』を解読していたではないか。必死に術式の内容を思い出して応用の内容を考えた。
「全人類を救済する……その力を今,この場面だけに注いだら?」
一極集中で救済する力を自分に注ぎ込んだらいい。リリスはそう考えて詠唱を始めた。
「救済をもたらす薔薇の長よ。その力を我に貸し給え!!」
リリスの周りに白い薔薇と,赤い薔薇の花びらが舞った。それと同時に攻撃のスピードが上がる。師匠は苦しい顔をしながらただ避けることしかできなかった。少し時間が経つと,立場は逆転してリリスは師匠にナイフを振り下ろした。
「さよなら」
そう言って,霊になっていた師匠を殺した。結構長時間戦って疲れてしまったリリスはその場に倒れ込んでしまった。
「疲れたぁー!けど,久しぶりの全力は楽しいねぇ」
「リリス,大丈夫だった!?」
リリスは急いでやってきたカーティスの質問に頷いた。しかし,それでも心配をしていたカーティスはリリスを『お姫様抱っこ』した。
「わっ,血出てるよ。回復するから……じっとしてて」
カーティスに【回復】をしてもらい,自分で歩こうとしたリリスだったが,カーティスがなかなか下ろしてくれない。理由を尋ねると,「少しはかっこいいところ見せたいじゃん」とのことだった。
少しの沈黙ののちに,最初に話し始めたのは笑顔のカーティスだった。
「リリス,ようやく師匠に勝てたんだね」
そう言ってくれるが,リリスは考え込みながら神妙な面立ちで言う。
「違う。あれは師匠なんかじゃない……魔力が昔より減ってる」
「死んだら魔力って減るんだったよね?」
「正確にいうと,死者の国に行ったら魔力が減るって仕組みだと思うんだよ」
カーティスに,一日目に見た幽霊が魔術で攻撃した時のことを話した。それを聞いたカーティスもリリスの方を見つめて話し始める。
「つまり……?」
二人はしばらく考えて,とある一つの『考え』に至る。
「この人には私よりも強い魔力を持った『何か』が憑いていた……?」
リリスは少し考えたが,結論が出なさそうだったので諦めた。
「わかんないや。それより,森の出口まであと少しだね」
「うん。このまま走っていくね」
* * *
リリスの師匠とリリスの対決を見ていた男がいた。そこは地上ではなく,地下でもない。天界からその様子を楽しそうに見ていた。
「さっきから何を見ているんですか」
天使が質問をする。神の忠誠を確かめるためだけに,悪魔を部下に置くほどのものだ。
「いやいや,彼女の様子を見ているだけだよ」
そう言いながら,玉座から降りて詠唱もせずにリリス達を映し出した。
「その娘は貴方にとってどんな存在なんですか」
「うーん……難しい質問だね。だけどこれだけは言える。とても深く愛している。そして,あの子とカーティス君の邪魔をするつもりはない」
映像の中のリリスと目が合うと,男は幸せそうに笑う。しかし,リリスは何にも気づかずに視線をカーティスに戻してしまった。
「僕の愛する娘。あの男を『依代』にした甲斐があったよ。君はカーティス君と幸せになりなさい」
男の言っていることは,地上にいるリリスとカーティスには届かない。男の言葉に天使は苦笑する。
⦅全く,こんな父親を持ったリリスは大変そうだな⦆
マスティマは知っている。この男がいかにして世界を創ったのかを。
「そういえば……マスティマ君,僕が天界にいなかった数年間,他の天使たちと協力してこの世界を管理してくれてありがとうね」
神は笑顔になった。笑っている部分は特にリリスという娘と似ている。
「けど,あんな可愛い娘をあのスチュアート公爵とやらのところに生まれさせたのは間違いだったかなー。リリスと性格も外見も何もかも違うんだよね。それだけで呪われた人間って言われて蔑まれていた。メイドさんは庇ってくれたらしいけど,あんな奴らには『不幸』を与えないとね」
そう言って神は手から禍々しい色をした球体を生み出し,ローゼンタールの方向へと放った。
⦅本当に,この方を怒らせてはいけないな⦆
当たり前のことを考えたマスティマは少し,気になったことを話した。
「天界にいなかった時,娘さんと何をしていたのですか」
「もちろん!僕は本当の父親だからね。依代を使って魔術書を読ませたり,暗殺術を教えたり……あと,料理の仕方も教えたんだけど……」
「どうなったんですか」
神はマスティマから目を逸らす。
「僕だって,本気でつくろうと思えば死ぬほど美味しい料理つくれるし!!別に料理音痴って訳じゃないし!」
「はぁ……」
「他にも,未知の場所を冒険したり……公爵家がどっかに行った時は,僕の家に泊まってくれるんだよ!もう可愛すぎる……」
「未知の場所を冒険するって,ただただ道に迷っただけですよね。すごい無防備というか……」
リリスの方向音痴と料理音痴は神から引き継がれたものだった。
「というか,あれ。処刑されたとき以来に地上に行ったからなぁ……歩くっていう感覚を忘れかけてたよ」
神はあることを思い出す。
「娘に僕のかっこいい所,ほとんど見せてないじゃん」
神はその事実に頭を抱えた。
しばらく昔話を聞いていると,リリスたちが動き出した。
「なんであの二人に干渉しないんですか」
「だって,面白くないじゃん。それに……」
神は悪戯を思いついたような顔で地上にいる二人を見つめる。
「僕は二人の行く先が気になっているんだ。二人には幸せになってほしい」
マスティマの目の前に立っている神は楽しそうに笑っていた。マスティマ自身も二人の行く先が気になっていたので,神と一緒に見守ることにした。
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