国外追放で戦闘を見る
「おはよーってカーティスどこ行ったんだ……?」
リリスが朝起きて隣を見ても,カーティスはいない。普段はリリスの方が断然に起きるのが早い。彼女は遅刻した訳でもないのでカーティスを待っていた。
⦅もしかして誘拐……?⦆
そう思っていたが,扉が開いた。そちらを見てみると袋を持ったカーティスが帰ってきている。
「リリス,起きてたんだ……」
ほんの少しだけ,リリスは彼から異変を感じた。今までにないソワソワとしているような態度。そして正体不明の謎の袋。それが気になって実際に尋ねてみた。
「ねえ。それ何?」
「なっ,なんのこと?リリスには何が見えているの?」
焦り方からして絶対に何かを隠している。カーティスはリリスが手を伸ばす前にその袋を黒い箱に入れてしまった。
「中身なんなのー!」
「絶対に教えないからね」
時間が来たので朝食を食べることにした。
「リリスー!」
そう言って千鶴は飛びついてきた。
「今日の朝ごはんはなーにっかなー?」
「楽しみだね」
席に着くと,米粥と焼き魚が置かれていた。
「ほわぁ……!お粥だぁ」
リリスは素早く座布団に座って,食べ始めた。カーティスもそれを見てニコニコしながら食べ始める。
「うっ……」
「どうしたの,ってそれ。カーティスの嫌いな野菜じゃん」
箸で指したのは,粥の中に入っていた三つ葉だった。
「はい,あーん」
「勢いでそんなことしないっ!」
「はいっ,あーん??」
「あははー。リリスにそんな強引なことしたら殺すよー」
「ボスもノリに乗って三つ葉を押し付けないのください」
もう部下の男は隠す気がないらしい。リリスはその言葉に苦笑しながらも二人分の三つ葉をちゃんと食べてあげた。
朝食が終わってリリスとカーティスが席を立つと,千鶴も同時に席を立ち,部屋までついてきた。
「千鶴?」
「今日は私も暇やから……二人の観光に参加するでー」
* * *
二人は,千鶴に案内されて色々なところを観光した。
「ねえねえ!次はどんなところなのー」
「次は神社だよー。知っとる?神社って」
カーティスは首を横に振る。そんな様子の彼にも千鶴は笑顔で言った。
「神社っつーのは,神を祀っとるんや。ここに参拝することで神の恩恵を受けたり受けられなかったりー?まあ,神様信じていれば良いことあるんとちゃうか?」
神社の階段を上がっていくと,男が二人見えた。その二人組を見て千鶴は冷や汗をかいていた。
「(リリス,カーティス……今日は神社行くのやめとこかー)」
千鶴の様子に気づかない二人は大声で言った。
「私は,神を解析し……参拝したい!!」
「僕も参拝したい!!」
「二人とも声大きくしないの!リリスに関してはただの変態じゃん!?」
その二人の様子を見て,つい声を荒げてしまった。二人の男はそれに気付き,後ろを振り返った。
「君は……手配書で見た顔だね」
そう言いながら,千鶴に斬りかかってきた。別の男の方はリリス達に駆け寄ってきた。
千鶴と同じように戦闘に入るのかと思いきや,気づけば別のところへ転移させられている。
神社に隠れて二人の様子を見ていた。
「お二人は誘拐されかけていたのでしょう……可哀想に」
「あのぉーそうじゃないんですけど……」
リリスが小さな声で言うが全然聞いていなかった。
「それじゃあ,ここにいてください。僕は逆賊を捕らえに行きます」
そう言って,神社を飛び出した。境内で三人が争っていた。
「千鶴,捕まったら死刑かな……」
「そうだね。どうする?」
カーティスにそう言われて,リリスは即答する。
「千鶴には二度も命を救ってもらったもの」
一度目はリリスが転んだとき。戦車を真っ二つに斬って救い出してくれた。
二度目は本宮と戦ったとき。千鶴は【秘技】の弱点を教えてくれた。
だから今度は……
「今度は私が救う番!」
リリスは二人の敵の行動を観察して,弱点を探した。
「さて,二人はどんな攻撃をしているのかなー」
そう言いながら戦闘スタイルを解析するために術式を発動させる。ちなみに,魔術を使って神社から出ようとしたが,結界のようなものが張られていて出ることができなかった。
「あれ,使ってるの多分魔術だよね」
カーティスに言われて注意深く見てみた。そして,感じられたのは殺気と微かな魔力。
リリスは相手を魔術師だと仮定した。
⦅相手が魔術師なら魔術書を基礎としているはず……⦆
しかし,どの術式を見ても一致する魔術書は考えられなかった。リリスが導き出した結論。それは,
「魔術書から編み出した術式じゃない……?」
「そんなのあり得ないんじゃない?」
リリスは目を細めながらカーティスに言った。
「可能なはず……多分,あの人は聞いた神話だけで術式を構築している。そっちの人はこの国の神話を基礎にしてそう」
一人の方は術式の解析が終わったものの,もう一人の方は全くと言って良いほど分からなかった。
「うーん……分からない。せめて,基礎となっている神話だけでも分かれば強いんだけどなぁ」
カーティスは考えた後,こう口にした。
「なんとなく,分かったかも」
「本当!?」
「うん……自信はないけど」
そう言って彼は自分の推測を話していった。
「まず,あの男は様々な神の力を借りている。ここまではわかるね?」
リリスが頷くと,再び話し始めた。
「創世教は一神教だから違う。それでこの国にあった外国のものを思い出してみたんだ」
「どうして?」
「貿易のある国だったら神話とかも来てそうかなぁーって。それで,思い出したんだよ。ジマーニアにあったものが多いなぁって感じたんだ」
「つまり,ジマーニアの神話ってこと?」
カーティスは笑顔で頷く。それで思い出したリリスは少し青ざめた顔をした。
「そういえば,あそこって全知全能の神とかいなかったっけ……」
「魔術書が基礎じゃないんだとしたら,その人の思う全知全能が攻撃に変わるのか…」
二人の予測を千鶴に伝えた。
それを聞いた千鶴はありがと,とだけ言って戦闘に戻っていった。
それからはリリス達の知識の助力もあってか,千鶴は秘技を使わずに二人に勝つことができた。
しかし,神社に大勢の兵士と思われる人達が現れた。どうやら,術式で誰かに状況を伝えていたらしい。
リリスも応戦しようとしたが,千鶴は大勢の人を前に手を上げた。
「もうええよ。リリス」
「けど……死刑にされるんだよ?」
千鶴は儚げに笑った。
「それだけのことをしてきたんや。しゃーない,しゃーない」
そう言って千鶴の身柄は確保された。
* * *
二人はその様子を見終わって帰ろうとした。
「ねえ,ここ神社だからさ。お祈りしてから帰らない?」
リリスは前世の知識を思い出して参拝しようとした。カーティスもそれを見て,真似していた。
⦅願い……か⦆
リリスは少し迷って,こう願った。
もし千鶴が死んだとしても,来世では幸せな世界で暮らせますように,と。
カーティスも願い終わったので,旅館に帰ることにした。
「なんか厳つい人達が来たんだけど……何かあったの」
ジェイクがそう尋ねてきたので,先程あったことを話した。
「そっか……皆連れて行かれたってことは,犯罪してたんだね」
リリスはそれを聞いて辺りを見回した。旅館に来たときよりも明らかに人が少ない。ここに残っている人は本当に何も知らない人だったのだろう。
「あのっ!千鶴さんってどうなっちゃうんでしょうか」
後ろを振り向くと,いつも千鶴に付き添っていた男がいた。
「貴方は捕まらなかったんですね」
「はい。ボスが嘘を吐いたらしくて,僕だけ……」
悲しい沈黙が流れた。
「分かりません。けど……処刑は確定でしょうね」
カーティスが言った。
「僕,彼女に何もできなかったんですよ。今日,告白しようと思ってたのに……」
千鶴がいなくなり,旅館の中に笑顔はなくなった。




