国外追放と甘味処
「………着物,崩れてる」
リリスは彼女に抱きついていたカーティスの腕を解いて着崩れを直した。もう眠くなくなったと思い,持ってきた魔術書を取り出して読んでいるとカーティスも起きてきた。
「おはよう。朝早いのに何読んでるの」
「これ?『薔薇の書』って言うの。少し前にあったとされる魔術結社の長が書いたとされるんだよ。」
リリスの説明を聞いたカーティスは驚いた表情で質問をする。
「じゃあ,それを解読すれば結社の長を召喚することができて,それでその人は全人類の救済をしてくれるってこと?」
「そういうことになるね。私は召喚系の魔術書の解読は苦手なんだけど……任されちゃって」
リリスがそう言うと,カーティスが隣に座って微笑みながら言った。
「僕も協力するよ。どこ解読すれば良い?」
カーティスが協力してくれたお陰でそこからおよそ三時間で魔術書の解読は終わった。
「終わったぁー!これを交信術式で翠蘭さんに送れば……」
「翠蘭さんってフリューリンクであったあの人?」
「うん。『薔薇の書』の執筆者が住んでいたとされる国に行ったらしくて,解読を頼まれたそうだよ」
「ちょっと気になっていたんだけどさ……『薔薇式暗号』となんか関係あるの?」
「わかんないけど……そこの国の教会を巡っていたら薔薇式暗号に酷似している書物が見つかったんだって」
二人で考察していると,部屋の扉が開いた。リリスが扉の方をみると,千鶴が笑顔でリリス達の方を見ていた。
「起きるの早いなぁ?昨日寝坊していたのが嘘みたい」
「あれは本当に疲れてたんだよー」
「そう。あと少しで朝ご飯やから,準備しといてなー」
そう言って千鶴はどこかに行ってしまった。
「どうする?ちょっとしか時間ないけど何もすることないし」
「これを畳めば良いんじゃないかな。帰ってきてこれがあったら邪魔な気もするし」
カーティスにそう提案され,リリスも布団を丁寧に畳んだ。
「そろそろ時間かなっと」
二人は立ち上がって朝食会場へ向かった。
* * *
「ち,違うんだってわざとじゃないよ」
「それは知ってるけど……リリスに道案内を任せた僕が馬鹿だったなって思っただけ」
⦅またやっちゃったよー!⦆
リリスは,カーティスに会場までの案内を任されたが,見事に迷ってしまった。
「見た感じだと旅館,そんなに広くなかったから迷うはずないって思ってたけど……まさか迷うとは」
「ごめん。とりあえず見取り図ない?」
リリスがカーティスに言うと,懐から見取り図を取り出して覗き込んだ。
「あれ,こんな場所これにはないよ」
「本当だ。じゃあ,別の場所に行っちゃったってこと?」
「わかんないけど,とりあえず出口を探してみよう」
二人はそうして色々な扉を開けまくった。
「うーん……今度こそ!!」
そう言ってリリスが扉を開いた先には赤黒い血と倒れている男,そして刀をしまった男が見えた。
リリスは殺人現場に遭遇することはよくあったが,完全に油断していたので声を出してしまった。
「ひぃっ……」
「見られたなら,殺すのみっ!!」
リリス達に向けて刀が振りかざされた。二人はそれを避けて必死に逃げ回った。しばらくすると,見覚えのある間取りが見えてきた。
再び人に遭うことを恐れてか,刀を持った男は消えていた。
「これはー…忘れた方がいい記憶ってやつだよね」
「うん。今度は僕が連れていくからさ。忘れよう……そうしよう」
二人は今度こそ道に迷わずに進んでいった。解読した魔術書の話をしていたらその記憶も薄れていった。
「ようやく到着ー!カーティス,ありがと」
「今度からリリスは一人だけで歩かない方がいいよ」
遅かったなぁ,と千鶴が言う。リリスは苦笑しながら敷かれていた座布団の上に座った。
食事を始めて少し時間が経った頃,会場の襖が開いた。リリスとカーティスはそのことに気づかず,黙々と食事をした。
「(それで,目撃者は見つかったんかいな)」
「(いえ,部隊が総力を挙げて捜索していますが……)」
千鶴の会話が気になって正面を覗いた。すると,目の前には千鶴と人を殺してた男がいた。
「あぁぁぁっ!?」
「どーしたのリリス……うわっ!」
カーティスも気づいた様で,立って後退りしていた。
千鶴は三人の方を順々に見て悟っていた。
「なるほどねー。うん…あんた,捜索はやめろと他の者にも伝えておけ」
「はい。それではこいつらの処刑は私が……」
「そんなことをせぇへんでも……」
そこまで言ってリリス達の方を見てにっこりとした。
「ね,もちろん周囲に伝えたりしないよなぁ?」
表面上は笑っていたが,明らかに殺気が滲み出ていた。何も知らないジェイクですらも目を強張らせて懐のナイフを取り出そうとしていた。
「もちろんだよ。誰にも伝えない……絶対に」
リリスは必死にそのことを約束して,朝食が終わった。
「千鶴が怖かったぁ……」
「さっきの男,部下っぽい人だったからー。なんかマフィアのボス的なこと言ってたし」
二人は大和国を回ることにした。リリスとカーティスが着物で街を回っていると,色々な人が彼女らをジロジロ見てきた。
『なんか,いろんな人に見つめられているねー』
『僕はあんまり人に見られるの好きじゃないんだけどなぁ……』
『確かに。私も好きじゃないかも』
二人は大和国の人に聞こえないようにローゼンタールの言葉で話した。案の定,二人の話している内容を理解できた人はこの場にはいなかった。
大和国は一日中闇に包まれていて,灯篭の中に火をつけただけでぼんやりとしている。
「リリス,見てよこれ」
「何それ。『花火大会のお知らせ』……?」
「面白そうじゃない?火で花を描くのかなぁ…」
「まあ,どんなものかは実際に見てみるといいよ」
リリスはそう言って軽快に歩き始めた。
「日本………じゃなくって,大和国といえば茶だよねー」
「紅茶?それなら色んなところで楽しめると思うんだけど」
リリスは自慢げにチッチッチッと言った後に話した。
「大和国にはねー。緑茶っていうのがあるんだよ。カーティスが好きかどうかは分からないけど」
カーティスはその話に興味を持った。
「その緑茶ってどんな味がするの?」
「苦い感じかなぁ……とりあえず一回店に入ってみよう!」
そう言って二人は『甘味処』と書かれた幕を潜って行った。
「いらっしゃいませーっ!」
女給は笑顔で接客してくれた。しかし,彼女がカーティスに惚れ惚れしていたことを二人は見逃していない。
「ご注文はどうされますか?」
「とりあえず,どら焼きと茶をお願いします。カーティスはどうする?」
「同じのをお願いします」
カーティスはどこかで習っていたのか,大和国の言葉をスラスラと話せていた。女給が注文を聞いてルンルンで厨房へ行っているのを見てからリリスは微笑んだ。
「カーティスは人気だねぇ……私よりもっと魅力的な人がいても私と付き合って欲しいな」
「そんな!!リリスよりも素敵な女性なんているはずないし,ずっとそばにいるから」
その言葉を聞いてリリスは嬉しがった。
「どら焼き二つと茶が二つでーす!」
そう言われて女給の方を見ると,温かそうな茶と笹のようなものに包まれた何かが置かれた。
「これがどら焼きなんだ」
「……私が思ってたのと違うね」
そう呟いたリリスに,女給は説明をしてくれた。
「どら焼きというのは銅鑼っていうものの上で作られたからどら焼きっていうんですよ!最近,巷で流行っているんですよねー」
リリスがカーティスの方を見てみると,とても食べたそうな表情をしていた。




