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悪役令嬢は国外追放で旅をする  作者: 駱駝視砂漠
戦の国編
54/106

国外追放とボス

 朝になって珍しく早起きのできなかったリリスはカーティスに起こしてもらった。


「んー……起きれないー」

「起きてー!千鶴さんとの約束の時間,もうそろそろだよ!」


 二人は大和国へ向かうために千鶴たちと合流の約束をしていた。


 こんな調子で既に二時間が経過している。寝ぼけているのか,リリスは突然意味不明なことを言い出した。

「カーティスー。着替えさせてー」

「そんなことくらい自分でやれっ!!」

 流石のカーティスでもテンパってしまった。その間にも,すやすやと寝てしまった。


「はぁー……寝ぼけているのかなぁー。けど,流石に無防備すぎだよぉー……」

 カーティスが時計を見ると,約束の時間まであと十五分を切っていた。


「リリスっ!本当に起きて!」

「大丈夫,まだ眠れるー」


 本職の殺し屋である千鶴とその部下。そしてリリスを追い詰めたドミニク。少なくともカーティスよりは剣術に長けているジェイクを怒らせるとどうなるか分からなかったので強行手段に出た。


「んー……ん!?」


 リリスが朝一番に見たのはカーティスの瞳だった。

「なっ,なんでキスなんかしてるのよ!っていうか今何時?」

「集合まであと十分」

「なんでもっと早く起こしてくれなかったの!?」

「ちゃんと起こしたわ!!」


 リリスは急いで着替えてご飯を食べずに外に出た。すると,何故か約束をしていた四人が扉の前に立っていた。


「とりあえず間に合ったぁー!」

「リリスさん,全然間に合ってないからね。ほら,五分遅刻」

 ジェイクに言われて部屋を出たリリスとカーティスは時計を見た。


「「あっ」」

 そんな二人の様子を見てジェイクはくすくすと笑っている。


「二人とも珍しいねー。寝坊するなんて」

「本当っ,みなさんごめんなさい!」


 千鶴は笑顔でリリス達を許してくれた。

「そんな謝らなくてもええよ。二度目はないけど☆」


 ドミニクはまだこの国にいるらしいが,国境までついて来てくれることになった。

 六人で『大和国』まで行くということになり,リリスは来て心強かった。


「リリスさん,なんで遅刻したんですか?」

 そう聞いて来たのはドミニクだった。隠しても仕方がないことなので正直に話した。


「カーティスが寝坊はよくあることだけど,真面目なリリスさんが寝坊は珍しいよね」

「昨日はほとんど寝ていなかったから……」

 リリスは自分の失敗に苦笑する。千鶴は看板を指差しながら皆に聞こえる様に言った。


「あそこが国境や。まだ見えんかもしれないけど」

 カーティスに双眼鏡を貸してもらったが,全く見えなかった。


「なんで分かるの……」

「ここに何回も来てると分かるようになってくるんですよ」


 代わりにドミニクが答えてくれた。

「国境付近は今まで以上に敵が多いので気をつけて下さい」


 実際に国境へ行くと,街の中心部よりも悲惨な状況になっていた。死体があちこちに散らばっているのに誰一人として気にしている様子はない。

 この状況を気にしているのはカーティス一人だけだった。


「酷い……」

「カーティスさん,これはしょうがないことだと思いますよ。弱かったから死んだ。それだけです」

 ドミニクは淡々と言った。国境前には数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者が沢山いる。


 さあ,全員で生き抜こう。


 * * * 


「生き残っていたか」

「あれ,佐々木さん?と戦っていませんでしたっけ」


 本宮はなんでもないような口調で言う。

「あいつは我が殺した。弱かったんだ,死ぬのは仕方ない」


 その言葉を聞いて,リリスは本宮に怒った。そして,彼の前に立って今まで持っていた杖を日本刀に変えた。


「弱かったから死ぬっていうのは,間違っていると思います。だって人間である限り誰だって死ぬじゃないですか」


 リリスは刀を鞘から抜き,振り下ろして言う。

「じゃあ,私が証明しましょう。弱い人間だって強い人間を討ち取れることを!!」


 リリス達が困っていた時,佐々木悠凪という男は助けてくれた。

 リリスが勝ったって,彼が救われるわけではない。しかし,目の前の男・本宮成一を倒すことで彼に復讐心があったとしたら少し楽になるのではないかと考えた。


「勝負を始めよう」


 本宮のその一言と共に戦いが始まった。

⦅そういえばVRゲームで日本刀を使ったことだけは無かったなぁー⦆


 リリスは【変幻変化の杖】で日本刀に変えたのはいいものの,戦い方がよく分からなかった。本宮は彼女の動きを見て驚いている。

「……初心者か?」

 基本的に,敵に情報を教えるつもりはないのだが,流石にバレていそうだったので正直に言った。

「ええ,刀に触れるのはこれが初めてですが……なんとかしますよ」


 リリスは元日本人らしく,魔術などを使わずに刀だけで戦うことを決めた。

⦅ふぅ……そろそろ刀に慣れてきたかな。もっと変則的な動きを…⦆


 リリスが本宮の方へ行こうとした時,彼は近くにいるリリスにしか聞こえないような声で言った。

「秘技・弐の太刀,霞」


 そう言った瞬間,辺りにいる人,物はほとんど吹き飛ばされてしまっていた。



「まずい。あいつが【秘技】を持っているんやとしたらほとんど勝てない」

「昨日も言っていましたけど,【秘技】ってなに?」


 カーティスは千鶴に尋ねた。


「秘技はな,大和国の有力者の末裔たちに受け継がれていった必殺の攻撃や。それぞれ一つだけ欠点があるとされているんやけど,それを見つけるのが難しいんや」

 その説明を聞き,カーティスは少しでもリリスの力になればと必死に本宮の行動を解析していた。


「あのさ。リリスと戦っている方の人,少し動きがおかしくない?」

 カーティスは気づいた。本宮が一定の動きしかしていないことに。

「前に出てから右に避けて後ろに引く。本当にそれしかしていない」


 カーティスのその言葉に千鶴は目を細めて笑った。

「多分,していないんやない。出来なかったんや。恐らくあいつの【秘技】の欠点は一定の動きしかできないようになること。それをリリスに伝えればええんやけど…もうこの際,気付かれてもいっか」


 彼女はリリスに向けて大声で言う。

「リリス,右に刀を向けて!!」


 そう指示され,リリスは言うとおりに右へ刀を向けた。すると,今まで優勢だった本宮に刃が刺さった。

「気づいたか……」

 彼のその一言でリリスも欠点に気づいてそのまま戦いを優位に持っていき,心臓を一突きした。

「……っ!」

「終わりです」


 そうして本宮は地面に倒れた。

「首を…斬ってくれ…」

「分かりました。その前に遺言とかあったりしますか?」

「ない………そうだ,最後に戦ってくれてありがとう」

「感謝しないでください。私は貴方を殺すんですよ」


 彼は潔い表情で会話を続けた。

「強い,才能のあるものに負けるのはいいことだ。今後も頑張れ……以上だ」


 そう言い終わると,リリスは彼の首を掻き切った。

「……神のご加護が在らんことを」


 そう言ってリリスは戦いを見守っていた五人の方へ走っていった。


 * * * 


「すごいなあ。【秘技】持ちの人をただの剣術で倒すなんて」

「僕はここで。皆さん,良い旅を」


 ドミニクはそう言って立ち去ってしまった。

「さて,千鶴。大和国へ案内してー」

「りょーかいっと。まあ,この国境トンネル越えたらもう『大和国』なんだけどね」


 トンネルに入って十分,ようやく明るくなって目を開けると春の国よりも満開の桜が見えた。

「ようこそ!和と闇の国・大和国へ!!」


 三人はこの風景に驚きながら,入国した。

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