国外追放で奇跡を見る
カーティスはリリスに正座させられていた。
「で,なんで右手が斬られていたの?」
「いやぁ……なんか色々あったっていうか……」
「ヘレンさんも!何か事情を知っているんでしょう?」
「私はなにも知らないよ!うん,私たちは何もしていない」
リリスはヘレンの言葉を聞いて,辺りを見回したが特に異変というものはなかった。これ以上問いただしても何も教えてくれないことが分かったので,この話を切り上げることにした。
「それにしても……ここってどこなんですか?なんか大樹があるんですけど,もう着いたんですか」
「まあ,そんなところ。この樹はね,『奇跡』の力を生み出すんだよねー。子供が生まれたときはこの大樹の下で一日を過ごすの。そして,一日経ったら赤ちゃんは立派な魔法使いになるのよ」
「へぇー」
そう言って樹の周りをぐるぐると回った。カーティスと一緒に。
「本当に大きいねー。魔力量も相当だねー」
「確かにー……」
神の力の一部だからもちろん魔力量もすごいことになっている。何周かし終わってヘレンに聞いた。
「この国って結構人口多いですよね。魔力って尽きたりしないんですか?」
リリスちゃんには話していなかったね,とヘレンはカーティスにもした説明を丁寧にしてくれた。
「へえー。じゃあ,私たち魔術師は『奇跡』の力の恩恵を生まれたときから貰っていないから魔法を使うことはできないんですか?」
珍しくその質問にはヘレンが苦笑し,カーティスがリリスから目を逸らした。
「普通っていうかほとんどの人は使えないんだけど……魔術で解析して強引に使うみたいなこともあったりなかったりー?」
そしてその大樹の紹介が終わった後は再び魔法学園に連れていかれた。
「あれ,実技の方には行かないんですね」
「二日連続で同じ場所に行ってもつまらないでしょ」
今日行くエリアは魔法の研究をしている人たちが集まったところだそうだ。『奇跡』の力の研究は当然だが,それを基本とし,神の実在を研究する人や魔術とはいつ分かれたのかを研究している人もいるらしい。
ヘレンもこの施設で『神の力』について研究を続けているようだった。
「ヘレン,研究施設に一般人を連れてきちゃ駄目って何回言ったら分かるの?」
「いや,待って待って。確かに一般人を連れてきたことは謝るけど……そこの人,すごいんだよ」
そう言ってヘレンはカーティスを指差して先程の決闘の話をした。
研究員の男性は興味深そうにカーティスの方を見つめる。
「………なんですか」
「ちょっとこっちに来てくれるかな」
カーティスが研究員の前に行くと,手を握ってきた。
「いや,本当になんですか!?」
「ごめんねー。フレデリクは言葉足らずだけど恋愛的な目で見ることはないと思うから。多分,今は君の魔力を測ったいるんじゃないかな」
ほんの十数秒でフレデリクは手を握るのをやめた。
「……確かに。魔術を使う人間か」
「すごいでしょ。私が発掘した才能ある若者なんだから」
この会話の内容についていけていない人が一人だけいた。リリスだ。
⦅今って魔法の話しているんだよね…?なんで魔術が出てくるの?⦆
カーティスとヘレンの戦いを見ていないから内容を理解できないのも当然だった。
リリスが理解しようと必死で三人の会話を思い出して反復していると,フレデリクはヘレンを半眼で見る。
「さっき,大樹付近で【爆炎】を見たっていう報告を受けたんだけど,その魔法をよく使う人間の心当たりが一人しかいないんだよね。どう思う,ヘレン」
「うん。全く分からないねー」
⦅この棒読み具合……!絶対に【爆炎】とか言う魔法を使ったんだろうなー。けどなんで使わないといけなかったんだろう⦆
リリスにはその理由が分からなかったのでその時大樹の下にいたカーティスに聞いてみた。
「ねえ,カーティスはヘレンさんが【爆炎】を使ったところを見たんでしょ」
それを聞くと,突然のことだったのかカーティスは動揺して答えた。
「みっ,見てない見てない」
「その反応……見たんでしょ」
残念ながらカーティスの嘘はリリスに通じなかった。二人に聞いても無駄と考えたリリスはフレデリクに尋ねた。
「あの,フレデリクさん」
「何」
「【爆炎】ってなんですか」
彼は溜息を吐いた。呆れられているようだ。
「魔法の一種だよ。火属性魔法の二番目に凄い魔法」
そう言うと再びカーティスの手を握った。
「次は『奇跡』の力の所有量を測っているね」
『奇跡』の力を測ることが出来るのは一部の研究者しかいないらしい。
測り終わると,リリスにも分かるくらいに動揺していた。しかし,冷静な口調でこう言った。
「予想通りと言えばそうだが……『奇跡』の力がほとんどないな」
「ねえねえ,フレデリク。リリスちゃんのも測ってみてよ」
ヘレンに強引にリリスの『奇跡』の力を測れといわれて仕方なく測った。すると,測り終わったと思われるフレデリクは突然リリスの頬を叩いた。
「……え?」
「何をした」
全ての言葉と行動に殺意が籠っている。しかし,そう言われたところで心当たりのないリリスは何もしてないと言うしかなかった。
流石にまずいと思ったのか,ヘレンが本気で止めた。
「フレデリク,旅人の方に対してなんてことをしているの」
彼は完全に怒った様子で言い放った。
「なんでこの国にいるのに『奇跡』の力が全く含まれていないんだ」
その言葉を聞いて三人は愕然とした。理由は簡単だ。この国に来たという時点で国民に比べるとないに等しいが,それでも微かに『奇跡』の力を所有する。しかし,大樹の下で寝ていたにも関わらず,『奇跡』の力を一切所有していないということはあり得ないのだ。
「もうここに来るな。気持ち悪い」
ほぼ初対面と言っても過言ではないが,その一言は流石に傷ついた。
研究室のあった学園からから出て,三人は次の場所へ向かいながら話をしていた。
「私,寝ている間になんかしてた?」
「いや何も。けど,その原因はリリスちゃんの意識の外にあると思う」
そしてヘレンは質問を変えて来た。
「じゃあ,最近解読した魔術書とか術式とかに『神の力』を使ったものは?」
そう聞かれ,リリスは思い出した。ジマーニアの塔で手に入れ魔術書,そして神の力と思われるものをそのまま放つ術式だ。
「その顔は……リリス,何か心当たりあるんだね?」
原因を解明させるために,仕方なくそれらについて二人に話した。
「そんなすごい魔術書が存在するんだねー。私,見たことないんだよねー,魔術書って」
「リリスは魔力量が多いから色々な魔術書が読めるんです」
カーティスがそう言うと,ヘレンは少し眉を顰めた。
「そこら辺が怪しいと思っているんだけど。なぜリリスちゃんは膨大な魔力を所有しているの?リリスちゃんが昨日使った皆を消し去った術式は昔,人に化けた神が言った最期の言葉だよね。なんでそんなものが術式の詠唱に組み込まれているの?」
しかし,その疑問を投げかけたところで答えることのできる人はここにはいない。
三人で考えているところで,目的地に到着した。そこは,とても古そうだが,丁寧に掃除されていて古い屋敷によくある怖さが全くなかった。
* * *
「婆ちゃん来たよー」
ヘレンがそう言うと,若い女が怒りながら登場した。
「誰が婆ちゃんだよ。めっちゃ若いでしょ」
「けど,生きている年数はざっと四桁」
その言葉にリリスとカーティスはつい苦笑してしまった。そして,女は二人に気付き挨拶をした。
「私はエリザベート。年齢って外見で決めた方がいいと思うんだけど」
⦅うーん……あれっ,けど私も転生する前は十四歳だったから……精神年齢三十二歳!?⦆
的外れな考えていたリリスは自分の年齢(笑)に戦慄した。
「僕っていうか全世界共通で一年が過ぎたら一歳,歳を重ねるっていうのは常識だと思……」
そして,カーティスの発言を止めてエリザベートと強く手を握った。
「貴女もこっち派なのね」
「ええ。年齢なんて関係ないです!だよね,カーティス?」
「う,うん……」
「リリスちゃんも意外と年取ってるのかな」
「取ってないですぅ!純粋でピュアな十八歳ですぅ!」
「純粋もピュアも同じ意味だと思うんだけど……」
カーティスはそうツッコミを入れたが,リリスには聞こえていなかった。
⦅でも転生した場合って精神年齢は成長するのかな……リリスとしては十八年生きている訳だし,そもそも記憶を取り戻す前の六歳までは純粋な少女として生きていた訳だしー!⦆
「リリスー。大丈夫ー?」
「うん。なんでもない」
リリスは自分を十八歳であると決めつけて話を進めた。
「で,ヘレンさん。そちらの方は?」
「ああ,この国に一人しかいない【魔女】エリザベート・ノータよ」
「「魔女って?」」
リリスとカーティスの知っている魔女とは魔力量が多くて悪魔と契約をして黒魔術を使う悪い印象しかなかった。
ヘレンは自慢げに言う。
「この国の魔法使いにはレベル分けがあってね。まず普通の魔法使いが全人口中の八十%で,次にすごい【魔法師】が十七%,それで私が所属している【魔法士】が大体六百人程度なんだ。そして魔法使いの頂点に君臨している全国民,六百万人分の一がこの人なんだよねー」
「そんなにすごい人なの!?」
「まあ,ヘレンに婆って言われてるくらいだけどね,あははっは……」
そう言いながら『奇跡』の力を軽々と使ってまだ明るかった空を満月の夜に変えた。
「えっ,まだ昼でしたよね」
「んー?魔法で夜に変えたんだよ。まあ,時間はまだ夕方なんだけどね」
⦅これが【魔女】の力……⦆
そう思ったリリスとカーティスだった。
そして三人はエリザベートの屋敷に泊まることにした。




