魔術師vs魔法士
朝起きて,目を覚ますために街を回ろうとして扉を開けると前にマリアが立っていた。
「あー。いたんですか。それじゃあお元気で」
「無視しないでよ!カーティスさんはいるの?」
「いるけど,寝てるよ」
マリアは男子に囲まれていた時よりも生き生きとした声でしゃべり始めた。
「リリスの前世とかよくわからないけどさー。あの【乙女ゲーム】やってたなら攻略対象の中でカーティスさんが一番だと思わない訳?」
「待って……カーティスって攻略対象だったの!?」
「知らなかったの?」
「いや,えぇっとー……友達に隠し攻略キャラがいるってことは聞いてたんだけど」
リリスがそう言うと,マリアは呆れたような眼で見てきた。そして,リリスを嵌めたとは思えないほどに丁寧に説明してくれた。
「はぁー……。まずカーティスさんと会うだけでカリヤルの好感度を最大まで上げないといけないんだけどね。そこからの方が大変なのよ。まず,彼の恋愛フラグを片っ端から倒していって,三年生の時のダンスで一緒に踊ることになったら告白確定なんだけど。デートとか勉強会とか,そこの仕草がめっちゃ尊いんだよねー」
このような話が二十分くらい続いていた。そして,話が終わると即座に切り込んだ。
「ごめん。長すぎて全部忘れちゃった。それじゃあ私は外に出てるから」
「待って!私もついて行くわ!」
走ってホテルを出たが,マリアは疲れた様子もなくついてきた。面倒くさかったのでうざがりながら,一緒に街を回ることにした。
「マリアって私のこと嫌いじゃなかったの」
「追放前に言ったでしょ。私は貴女のことを恨んでいる訳じゃない。ストーリーに絡まなくなった以上,私が貴女を虐めたおす理由はないじゃん」
「はあ……」
前世の話をして盛り上がったらあっという間に散歩は終わってしまった。別れ際,マリアは笑顔で言った。
「こうやって話せるのって楽しいねー」
「いつもはこんな風に話してないの?」
「話す人全員貴族だからこんな崩れた言葉喋っちゃだめでしょ。聖女としての役割もあるから」
聖女は国だけでなく世界の中でも信仰されている。そのため,威厳や上品さのない言葉は公では使わないように指示されているそうだ。
ホテルの階段を登り切り,自分達の部屋の前で別れた。そして扉を開けるとカーティスが仁王立ちしていた。
「どこ行ってたの」
「ホテル周辺を飛んでました」
「誰と一緒に街を回ったの?」
「マリアと一緒にぶらぶらしてた」
リリスが正直に答えると,カーティスは呆れ返ったような目で見てきた。
「馬鹿なの?お人好しも過ぎるんじゃない?」
「マリアが勝手についてきたのよ!意外と性格悪くなかったし」
そう言うと,カーティスは抱きついてきた。
「いい?もし,聖女達に自分の安全を最優先してね」
「うん。いいよ」
二人の間に沈黙が流れた。気まずいと思ったのか,カーティスはリリスに明るい声で提案した。
「も,もう朝食は出来たらしいよ!早く行こう」
「もうそんな時間なの?」
「日が昇るのが遅いらしいよ」
二人は朝食会場まで行き,席に着いて話していた。席は円卓になっていて空席がまだ七つもある。再び話し始めた。
「ヘレンさん,良い人だよねー。次はどんなところ案内してくれるのかな」
「国の中心に大樹があったから聞いてみたいね」
目の前の空席に誰かが座った。
「兄さん、まだいたんですか」
「なんだカリヤルか。リリス,移動しよう」
「勝手に席決めれるわけじゃないと思うけど……」
これには座ろうとしていたマリアも驚いていた。
「食べ終わったから。早く行こう」
「早っ!?」
そう言いつつ,リリスも食事が終わったので早々に退散した。
「マリア、あんな奴らに騙されるなよ。ただでさえお人好しなんだから」
カリヤルのその言葉を聞いて、リリスは苦笑してしまった。マリアの本性を知っているから正直に受け取れなかった。
「それじゃあ、私たちはここで失礼します」
そう言って二人は席を離れた。
* * *
朝食を終えてそのままホテルを出ると,すでにヘレンは目の前にいた。
「やっほー!よく眠れたかな?」
「はい。素敵なホテルを紹介して頂きありがとうございます」
リリスが丁寧にそう言うと,ヘレンは少し嬉しそうな表情をした。そして今日行く場所を教えてくれた。
「今日はあの大樹に行こうと思ってるんだけど,良いかな?」
「「もちろん良いですよ!」」
天空都市の中央に存在している大樹へ向かうことになった。そしてそこに着くまで三人で話していた。
「ヘレンさん。昨日リリスが戦っていた時に魔力を消していた人がいたんですけど,そんなことって出来るんですか?」
⦅確かに。今考えれば一級魔術師でもあんなに魔力を消すことは不可能だよな……⦆
カーティスの問いにヘレンは即座に答える。
「魔力を消すことも『奇跡』の力だと簡単に出来ちゃうんだって」
その答えに十年くらい魔術を研究しているリリスはショックを受けた。今まで,色々な魔術書を解析して新しい術式を生み出してきたのだが,魔力の存在を完全に消すことと大勢の人数下での完全な魔力操作だけは不可能だった。しかし,魔法使いだけが使える『奇跡』の力はそんなこと,最も簡単に出来てしまうらしい。
「私の……長年の研究がぁ……」
「リリスー,生きてるー?」
カーティスがそう聞いても返事はない。この状況を見てヘレンは少し自慢げに言った。
「魔法は魔術と違って『奇跡』の力の量で魔法の強度が変わってくるからね。あんまり魔力量は関係ないって最近の研究では出てるんだよねー」
そして,カーティスの地雷となる言葉をヘレンは発してしまった。
「まあ,魔術と違って神の力を貰っているわけだからね。魔法使いは誰しもが神に選ばれているんだよ。たかが一級魔術師やらなんやらと一緒にされちゃ,困るよ」
「貴女に魔術の何の素晴らしさが分かるんですか」
リリスほど行かなかったとしても,カーティスも魔術のことは愛していて馬車の中では一緒に魔術書の解読をしていたくらいだ。理論のないものなんて意味がない。それがカーティスの考えだった。
そしてリリスも所属している一級魔術師を馬鹿にされて腹が立っていた。
気づくと大樹の下に到着していた。今まで,国境の門の前以外には地面がなかったのに大樹の下にはとても硬い土の地面があった。
カーティスはショックで気絶してしまったリリスを地面に置き,立ち上がってヘレンに向かって堂々と言った。
「僕は貴女に決闘を挑みます。もし貴女が負けたら魔術を馬鹿にするような発言はやめて下さい」
「いいけど。決闘だからね?死んだって私を罪に問うことはできないよ」
ヘレンは意外と好戦的な性格のようだ。彼女の言った開始とともにカーティスは裏に回った。そして得意の氷魔術を叩き込んだ。
「……っ!?【爆炎】!」
ヘレンの攻撃を軽々と避けてカウンター攻撃を入れる。彼女の足元に突き刺さった氷はさらに尖り,足の骨を砕いた。
「【回復】」
魔術でも使うものだが,魔法版の回復魔術はもっと治りが早かった。その回復力に驚いたカーティスだったが,すぐに落ち着きを取り戻して攻撃を続ける。
二人の戦いが始まってから二十分ほどが経った。カーティスが攻撃を当ててはヘレンが回復をしていたので中々決着がつかないでいた。
「そろそろ決着をつけようか……疲れてきたしね」
そう言うと,ヘレンは大樹に手を触れて叫んだ。
「大樹と接続!『神の力』,バースト」
彼女の雰囲気がガラリと変わった。外見は変わっていないように見えるが,目つき,口使い,彼女の周りにある空気など全てが重くなってカーティスの目に映った。そして,動揺しているカーティスにヘレンは襲いかかった。
『遅い』
「……っ!!」
⦅神の力……?あの大樹が何か関わっているのか⦆
そう仮説を立てたが正解しているところで今,彼にできることは何もなかった。
『殺す』
殺気を至る所に振り撒いているヘレンから逃げることに必死だった。その中で反撃の方法とタイミングを考えていた。
『殺す』
カーティスは全力で考えた。そのことに集中しすぎて右手が飛んでしまったが気づいていなかった。とりあえず使える魔術は全て使っていった。しかし,『奇跡』の力を行使しているヘレンには届きすらしない。
『殺す』
そして爆死覚悟でとある事をした。
「魔法解析……『奇跡』の力,バースト」
カーティスがそう言った瞬間,ヘレンの動きが一瞬止まってしまった。その隙を突いてカーティスは『魔法』を放った。
「『神の力』」
それはリリスの使っていたものの十分の一に過ぎなかったが,ヘレンの魔法を圧倒した。
カーティスに負けた彼女は地面に寝転び笑った。
「あははははっ!!すごいね。魔術師が魔法を使っちゃうなんて」
「状況が良かったんですよ。多分この大樹って『奇跡』の力を放出しているのではないでしょうか」
「よくわかったねー……リリスちゃんもすごい魔術師だけど貴方も努力家だよね」
そして,満面の笑みでこう言った。
「本当に二人はお似合いだと思うよ」
二人が話していると,リリスが目覚めた。
「ふぁぁぁぁぁ…」
「リリス!墜落しそうになってたけど大丈夫!?」
「大丈夫だよ。ショックもあったけど睡眠不足が理由だったと思うから」
リリスは起きてすぐにカーティスのあることに気づいた。
「カーティス!?手!右手がないよ!」
「「「………」」」
沈黙が流れた。そして急にパニックになった。
「とりあえず回復して!」
ヘレンの【回復】で完璧に修復され,落ち着きを取り戻した三人だった。




