国外追放で聖女と会う
「いーやーだー!行きたくなーい!」
「リリス。暴れないの」
「あはははー。本当に嫌なんだね」
「だって,殺されかねないんだもん。私はここにいるから,カーティスとヘレンさんは行ってきて」
二人がかりでリリスを謁見の間へと連行した。玉座を見上げると,聖女・マリアがいた。そして,その周りには見知った攻略対象が彼女を囲んでいる。
リリスを見ていたアリサとイリーナは少し目を見開き,カーティスを見ていたカリヤルは軽蔑したような表情をしている。リリスは逆ハーレムのような状態にドン引きしていた。
「うーっわ。さすがに悪趣味がすぎるわね。そうやって男子ばっかりに構うから女子の人気がなくなっていくのよ」
「あら,そんなこと言っている余裕があったの?リリス」
「おい,愚者。マリアを虐めるなよ。兄さんも,そんな阿呆に現を抜かしているとどんどん知能が下がっていきますよ」
カーティスはカリヤルの方を向きながら嘲笑する。
「カリヤルも,洗脳されていることにすら,気づいていないんだね……あぁそっか。父上からは家族って思われていないんだったね。辛い気持ちにさせてごめん」
そうは言っているが,リリスがカーティスの表情を見ていると,完全に馬鹿にしていた。
⦅カーティスの,この表情見たことないなぁ……⦆
そんなことを考えていると,マリアは玉座から降りてきてカーティスに近づいた。それを見て,リリスは焦った。
⦅まずい……!恋人とはいえ,マリアは乙女ゲームの主人公だから男である限り攻略されてしまう!!なんとか阻止しないと!⦆
「カーティスっ……!」
「へえー。カーティスさんって言うんですね!そういえばカリヤルに似てる気がします……この綺麗な瞳とかっ」
「気安く触るな。触っていいのは,リリスだけだ」
そう言ってリリスの腕に抱きついた。急だったのでとても驚いてしまった。リリスが玉座付近を見ているとノアが少し苦しそうな表情をしていた。
「兄さん!?マリアにそんな態度するとか正気ですか!?」
「誰を好きになるかは自由だと思うんだけど」
兄弟の喧嘩が続いていた時,リリスは何をしていればいいのか分からなかった。それはヘレンも同じだったらしく,二人で話していた。
「そういえばこの国って国王とかっていたりするんですか」
「いないよ。国民の中から選挙で首相が決められるの」
「魔法使いって何してるんですか?」
「他国に行った時とかは魔法使いってバレないように過ごしているねー。で,普段は修行したりかな」
そんな会話をしていた時,リリスはアリサに手を引かれて謁見の間の外に連れ出された。
「アリサっ…!何してるの」
「ごめんなさいリリス様。こんな手荒なことはしたくなかったのですが…」
⦅今,謝った…?おかしい,洗脳されていたら私に対してそんなことしないのに⦆
リリスの疑問はすぐに解決することになった。
「リリス様,疲れてないですか?あんな旅の始まりで寂しくなかったですか?」
「アリサ,洗脳される前の記憶…持ってるの?」
「それはアリサだけじゃないよっ!久しぶりだね,リリス」
どこからともなくイリーナが現れてそう言った。
「どういうこと?追放の前は完全に自我を失ったみたいな感じだったのに…」
その疑問にはアリサが丁寧に答える。
「はい。しかし,あれから一年は経っていると思います。マリアはそこまで魔力を操作できるわけではなかったので女性の皆さんは洗脳の力が薄まったんです」
その次の話をイリーナが引き継ぐ。
「けど,男性はそうはいかなかったの。特にカリヤルとイワンとセシルと…それからノアは,うん今もマリアにゾッコンって感じ」
「そう……」
アリサは少し残念がっているリリスを見てフォローしようとした。
「けどっ,ノア様はちょっと思い出してきているんです」
話の途中にヘレンが現れて急いだ口調で言った。
「聖女様が探しているわよ。三人とも早く戻ってきなさいだって」
「はい……アリサ,イリーナ。思い出してくれてありがとう」
「感謝されるようなことはしていません!最後に一つだけ。良い旅をです」
「恋人さんと頑張ってね!」
ヘレンによって謁見の間へと連れ戻されたリリスは疲れ切っていた。
しかし,その後は何事もなく謁見が終わった。マリアが何もしてこなかったのは,少し謎だったが。
カーティスがヘレンに質問した。
「なんで聖女信仰なんてされているんですか」
「この世界で一番奇跡の力を行使してるでしょ。まあ『神の子』が存在していれば話は別なんだけど」
謁見が終わって,魔法学校の教室を覗くと,実技練習をしていた。
「これは今,なんの魔法について取り扱っているんですか」
「実際の戦闘を模したものだね。ここは天空都市だから強い竜も出やすいんだよね」
「普通の魔法で竜って殺せるんですか!?」
「ん,そうじゃないの?」
一般的な魔術では,竜の硬い鱗を貫くだけで何万発も撃たないといけない。竜王殺し(ドラゴンストライカー)は一発で殺せるが,一日に一回しか使えない。
「最近わかったことなんだけど,私たちの使う『奇跡』の力は『神の力』のほんの少しなんだって。けど,その権能を持っているから神に負けた竜にも攻撃が通じるんじゃないかって仮説が立てられているの」
⦅見たところ,魔法の威力はジマーニアで手に入れた神の力の威力よりも遥かに低い。ということは今,私が所有している術式は神の力そのものだったり……?⦆
考えたが,それを口にすると戦争が起こりかねないのでやめた。
「よければリリスちゃんも参加してみる?魔術でもなんでも使っていいからさ」
「いいんですか?」
リリスがそう尋ねると,ヘレンはにっ,と笑って部屋に響き渡る声で言った。
「みんなー!旅人の方が相手をしてくれるらしいよ!」
部屋にいた全員がリリスの方をじっと見つめた。その空気に少しまごついたが,ちゃんと挨拶することができた。
「あっ,魔法を見るのは初めてですが頑張りますっ!」
「じゃあ,最初に戦っていいですか!」
そう言って一番最初に前に出たのは男だった。ひょろりとしているが目つきからして相当な玄人だということがわかる。
「それじゃあ……開始!!」
担当の先生が合図をして,試合が始まった。リリスは動き出したが,男の姿は消えてしまった。
「えっと…魔力の多い場所っ!?」
そう考えて魔力を見たが,異変のあるところは特になかった。
そして振り向いた瞬間に男の放った魔法が当たろうとしていた。しかし,リリスはそれを避けた。
「なんでだろう…」
「どうしたんですか?」
「リリスの普通の戦法だったら先に相手の魔力を制御して畳み掛けるはずなんですけど」
観戦していたカーティスはリリスの異変に気づいていた。
「……もしかして【魔力分散】とか使っちゃだめって思ってないだろうね」
「リリスちゃん側にハンデがあったら困るね…」
ヘレンは戦闘に集中しているリリスでも聞こえるように言った。
「どんな魔術でも使っていいからねー」
案の定,リリスは【魔力分散】などの魔力を操作する術式は使ってはいけないと勘違いしていた。
「えっ!?使ってよかったなら使うけど…」
⦅対象の座標は(6,3)これを魔術式に代入⦆
そして言った。
「【魔力制御】!!」
魔力制御は魔力分散と違い,とても細かい術式を正確に解かないといけないのだが,効果は対象の魔力を完璧に操作出来るというものだった。
リリスの魔術を受けた男の生徒は倒れてしまった。
「だ,大丈夫ですか……?」
部屋の中は騒然としている。
「あいつが負ける…だと」
「もうこうなったら全員であの女性に戦闘を挑むしか」
ということで担当の先生も含めた部屋の全員vsリリスという戦いが始まってしまった。
「ヘレンさん。この戦いで人って死なないようになっているんですよね…?」
「それに関しては安心して。魔法で結界張ってるから」
そして三十五人対一人が始まった。
⦅全員の座標割り出して魔力制御をするのは面倒くさいし……人が死なないならいっか!⦆
そう割り切り,ある術を言葉にした。
「わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」
言った瞬間,結界の中にあったものは全て光に包まれ消滅した。
そしてヘレンの言った通り,リリスの攻撃で消滅したものは数秒したら全て元通りになっていた。
「今の勝負,リリスちゃんの勝ち……でいいのかな?」
勝負の結末を知っている人はリリスしかいなかったので,あやふやなまま終わってしまった。
* * *
二人はマーギア魔法学園を出て,ホテルを探し始めた。
「ヘレンさん,おすすめのホテルとかってありますか?」
「えっと,数分空を飛ぶけど許してね」
三人が空を飛んで到着したのは古き良きといった雰囲気のホテルだ。
「いい所を紹介してくださりありがとうございます」
「いいのよー。そんなにかしこまらなくても」
そう言ってヘレンはどこかに消えてしまった。
「さーてっと,部屋の中身を見てみよ……うわぁぁっ!?」
後ろから肩を叩かれて反射的に叫んでしまった。肩を叩いてきた相手を見て,リリスは青ざめてしまった。
「まっ,マリア……?」
「また会いましたねリリスさん!お向かい同士仲良くしましょう!」
⦅仲良くできる気がしないなぁ……まあ困ったときはアリサかイリーナに相談しよっと⦆
そして部屋の中に入り,荷物を出していった。
「リリス,大丈夫?」
「うん。何とかなるでしょ」
荷物を出し終えた二人はベッドに入って言った。
「「おやすみなさい」」




