国外追放で花見をする
「カーティス……なんか締まらない感じで犯人当てられちゃったね」
「うっ,うるさい!リリスは捕まっておいてその言い様?」
「ちょっとー二人とも喧嘩しないでー」
「「うるさい!!って,あっ……」」
リリスとカーティスがキレて八つ当たりしたのはまさかのローゼンタール国王であるアシュリー・ローゼンタールだった。
「二人とも……国王にそう言うのは不敬罪だと思うんだけど,ね?」
「父上!ごめんなさいっ」
⦅ひぃぃぃっ!?あの顔,殺されるっ!?⦆
アシュリーからは妙な殺気が感じられた。翠蘭はそれを察し,リリスの弁護に入った。
「ストップ,ストップー!?陛下もそこの男性も,とりあえず落ち着いてくださいっ」
そう言うと,カーティスは翠蘭の隣にいる,気絶した春雷を睨みながらリリスに話しかける。
「ねえ。隣の男,誰?」
「翠蘭さんの兄さんですよ。特に何もないからね?」
「リリスさぁん……寝かせて……」
「リリス?」
⦅圧!圧が凄いってぇ!?⦆
『おい,まだ犯人は捕まっていないぞ』
一級魔術師(仮)が五人にそうツッコんだ。ダンテだけが楽しそうにこちらを見ている。そして,リリスがじっくりと彼の手の方を見てみると,微かに動いていた。
⦅あの手の動きは……術式を組み立てている?となると,そこのローブ被ってる人は水で造られた無機物?⦆
その仮説を確かめるために窓を見ると,雨が降っていた。ダンテは水属性の魔術を得意としているので,人間のような物体を水で造るのも簡単だろう。
そんなことを考えていると,気づけば犯人に手錠がかけられようとしていた。その瞬間,その男は警官を強引に押し倒してリリス達の方へ走っていった。
「こいつらっ!!ふざけやがってぇ!?」
犯人がそう言うと,カーティスとアシュリーは悲しげな顔をした。
「あの犯人かわいそ……抵抗してなきゃ怪我なしで済むっていうのに」
「カーティス,しょうがないよ。彼は牢獄に行っても殴られる運命だったと思うから」
「どけっ,どけっつてんだろ!?」
焦っている犯人とは違い,翠蘭とリリスは苛ついた様子で話し始めた。
「あはっ,あはははー!!これ,正当防衛になるよねぇ!?後で兄様に一発殴る分も残しておいてね。リリスさん」
「はい。普通に殴りたいと思ったんですけど……やっぱ魔術で仕留めたいですねー。私達,三日間も食事をしていないから中途半端になっちゃうかもしれませんが」
戦闘狂気味になっている翠蘭と冷静になっているリリス。二人はこれでも一級魔術師である。本気で殺そうとすれば犯人どころか周りにいる人にも危害が及んでしまう。
「ふぁぁぁぁ……。あれ,二人ともどうしたの……あぁ真犯人か」
春雷は起きて,二人が襲われそうになっている状況を見て悟った。そして,彼の怒りの顔と共に手に雷のようなものが生成された。
「あーあ。あれ,兄様完全に怒ってるね」
「分かるんですか?」
リリスがそう尋ねると,翠蘭はあくまで真顔で言った。
「うんうん。見て見てー,ちょっと『神の力』ってのが見えない?兄様の術式は世界の神話に存在している雷神を降臨させて攻撃したり電力を操作しているんだよねー」
「それで春雷さんが怒こっていることが分かるんですか?」
「そ。兄様は普段人を傷付けないために神の力は封印しているんだよね。けど今の兄様は存在している雷神をほとんど呼んじゃてる」
二人がそんなことを話している間に,春雷は犯人を制圧していた。そして,リリスは焦っていた。
⦅こんなに早く制圧したら……一級魔術師ってバレるんじゃ!?⦆
しかし,その心配はなかった。
警察の人には一級魔術師だと疑っている人はいなかった。秒すぎて何が何だかわからなかったみたいだ。
* * *
「はあ,やっと外に出たー!」
「リリス,三日も食べてないんだ」
「なにかおすすめの店知らない?カーティス」
「知ってるけど……教えない」
カーティスはいじけているようだった。しかし,リリスはその理由に気づいていない。翠蘭と春雷は今の状況に疑問を持った。
「ねえねえ,兄様。なんで王族の方々と並んで歩いているんだろう……?しかもさっきの会話でカーティスさんもローゼンタールの王子らしいじゃん?ってことは第二王子!?」
「僕も思ってたよ。リリスさんも元公爵令嬢だったらしいから……」
「アンタたちも一級魔術師なんでしょ!?唯一凡人の俺の気持ちも考えて!!」
ジェイクは凡人が自分しかいないことを自覚していて,少し泣きそうな顔をしていた。
「さーさー。この国は花見っていう文化があるらしいですよっ!ちょっと険悪なムードになっていますけど……」
ダンテは一級魔術師会議の時と同じように皆をまとめようとしていた。だが,喧嘩をしているリリスとカーティス,国王が二人いる状況に戦慄している兄弟,そして凡人が自分しかいないという事実に呆然としているジェイク。そして,
「天才たちはなんていうか……まとめにくいよね。わかるわかる。まだ若いんだからまとめ上げる力は身に付くよ」
アシュリーはダンテをフォローしてくれた。
「ってことで,花見に行こう!ね,出所祝いでさ!」
五人はあろうことか先進国の国王である二人を完全に無視した。
「僕……やっぱ影薄いのかなぁ……」
「うわぁ……もう,みんなバラバラ行動しすぎ……」
意外と常識人であるダンテはため息を吐いた。そして魔術を使った水球で六人を持ち上げて花見会場まで向かった。
* * *
「……カーティス,なんでそんなに怒ってるの」
「怒ってないし。リリスはもう少し恋心を学んだ方がいいと思う」
「というと?」
リリスは首を傾げていった。ビニールシートの上に座ったカーティスは半眼で彼女を見た。カーティスは彼女に顔を近づけ,言った。
「……リリス,こうやって顔を近づけたらドキドキしない?」
「全然ドキドキしないけど?しないけどっ!」
「ふーん?そう言っている割には視線が僕の方を見ていないけど。焦ってる?」
「あ,焦ってない焦ってない!」
二人が仲直り(?)をしていると,他の三人の混乱も解けていった。
「ねーえ,リリス。桜って綺麗なんだね」
「そうだよ。カーティスと同じくらい綺麗」
えっ,とカーティス。心なしか,ダンテとアシュリーはニヤニヤしている。
「アシュリーさん,尊いですねー」
「そうだね。もう政略結婚した僕とはまるで大違い…恋愛結婚すればよかったよ」
酒が入って泣き上戸と化しているアシュリーの話を他の六人全員で聞いていた。
「大変なんですねー。国王って」
「大変なんだよ…」
「あはっははー!春雷兄様も,もっと飲んでー?」
翠蘭も酔って踊り狂っている。
「ちょっと翠蘭!目立つからやめてー」
「翠蘭さん,もう隣の人のビニールシートに行ってる……というか二十歳超えていたんですね」
「ええ。誤解されやすいんですが,れっきとした二十五歳です。リリスさんは何歳で……」
「リリス。他の男と接触するのきんしー」
なぜか酔ってそうなカーティスが話しかけてきた。彼が来た方を見てみると,アシュリーがワインを持っている。
お酒を飲んでいないリリスと春雷。飲んでもあまり酔わないダンテ,そして飲む気にもなれなかったジェイクは遠い目をしながら言った。
「「「「これが地獄か……」」」」
酔いつぶれた三人は何も知らずにはしゃいでいた。




