国外追放と聖夜祭
リリスは,魔道具屋を出て,寝ていた公園に戻って来た。そして,再びベンチで寝ようとすると人影が見えた。
「ミハイルさん?」
「ホテルに泊まっていないと思ったら……ベンチで寝るとかどうかしてますよ」
「そうですか?全然寒くないと思うんですけど」
家族と喧嘩したら,家に帰れなかったリリスにとっては,外で寝るということはほとんど日常と化していた。
「暖かいと思うのに……」
「はぁ……ホテルはまだ泊まらせませんが,これをどうぞ」
ミハイルは毛布をくれた。どうしたのか,とリリスが聞くと,ボソッと言った。
「うちの妻があなたのことを心配していたんです。妻は他人を心から嫌いになれないような人でね。こんな俺でも優しくしてくれる。そんなエレーナのことが大好きなんだ」
「は,はぁ……」
⦅急に惚気を始めた……適当に頷いていた方がいいのかな⦆
リリスがそう考えていると,ミハイルは急に語りだし,質問を投げかけてきた。
「なあ,お前は彼氏いんのか」
「お前……いや,まあいますけど……」
「いるんだ。なんか意外だな」
「失礼ですねっ!!」
ミハイルはエレーナの素晴らしさについて,再び語り始めた。しかも,三十分経っても終わらなかった。
「しかもさー。料理も上手くてさ,聖夜祭の時には素敵なマフラーを編んでくれたんだよ。可愛すぎない?まじエレーナ天使……」
⦅眠っ……そろそろ眠っていいかな⦆
リリスは眠すぎて,後半の十分は全然聞いていなかった。
「おい,聞いてるか」
「すみません。全然聞いてませんでした」
「はぁ……とりあえず,エレーナに感謝しておけよ」
ミハイルにそう言われてから一分後,貰った毛布をかけてぐっすりと眠ったリリスだった。
* * *
「昨日もよく眠れたなぁ……」
朝早くに起きたリリスは,布団を亜空間に詰め込んで歩き始めた。そして,氷でできた塔が見えてきた。
「なにこれ?この国に来た時はこんなのなかったと思うんだけど」
そう思いながら,塔の中に入って行った。しばらく階段を登り続けると,最上階らしきものが見えてきた。走ってそこまで行ってみると,綺麗な朝日が見えた。
「わぁっ!!綺麗な朝日ー!というか,なんで塔がこんなところにあるんだろ……」
最上階はとても広かった。最上階を探索していたリリスは,とある物を発見した。
「なにこれ……魔術書?内容は,っと」
魔術書に書かれていたのは,神の力を術式に組み込む方法だった。それを見て,リリスは驚いていた。
「こんな貴重なものをこんなところに置いておくなんて!」
そして実際に神の力を術式に組み込んだ【魔力分散】を放ってみた。すると,ものすごい光を放ちながら国の辺境へ行った。
「これまずいんじゃ……とっ【透明化】!!」
人体には影響を及ぼさないようにして【魔力分散】をみていた。すると,轟音が聞こえた。
「あの【魔力分散】が前世の核爆弾並の威力になってる……」
リリスの【透明化】の術式のおかげで,その地域の人間が怪我をするようなことはなかったが,建物などはそうはいかなかった。
「あっ……建物崩れてる。どうしよう!?」
責任を取れと言われても言い訳のしようが無いリリスは,頭をフル回転させた。
「……【復元】に神の力を組み込んだら早く治るのかな」
そんなことをしたら大騒ぎになるのは分かっているが,実験で町が瓦解してしまうというのは流石に申し訳なかった。
「【復元】!!」
リリスが町の方を指差してそう言うと,一瞬で町が元に戻ってしまった。
「うわぁ……本当に復元してる」
その光景には,魔術を使い慣れているリリスですら少し戦慄した。
他の最上階のところも探索したが,他には貴重なものが置いてなかった。そして,それを確認したリリスは塔を降り始めた。
「これは…ルーン文字?やっぱり魔術で構成された塔なのかな」
塔の壁をよく見てみると,ルーン文字のようなものが敷き詰められていた。それをじっくり見ているとカーティスとの待ち合わせ時間が近づいていた。
「うわっ!?遅刻するかも!!」
運動音痴なりに頑張って走ったが,約束の時間に十分ほど遅れてきてしまった。
「カーティス!!ごめん!遅刻しちゃった」
カーティスは半眼で言った。
「リリスが遅刻するのは慣れてるからいいよ」
「うぅっ……」
「まあそんなことよりさ,レストランを予約していたからそこに行こうよ」
レストランまでは歩いていけるほどの距離だった。そして,ウェイトの案内してくれた席に座った。
「じゃあ,早速プレゼント交換でもする?」
「あっ,いいよー。私からはこれ」
そう言って亜空間から日記帳とペンを取り出した。
「これは……?」
「日記帳だよ。ほら,カーティスって日記つけてたじゃん」
リリスがそう言うと,カーティスは「ありがと」と言った。
「じゃあ僕からはこれ」
袋を開けてみると,中に入っていたのは手袋だった。
「リリスのつけてる手袋って魔道具じゃないんでしょ?それ,魔道具だよ」
そう言われてすぐに魔力を見た。
「本当だ…高かったんじゃないの?」
「まあ,ちょっと高かったけど…思ったほどじゃないよ」
「ありがとっ。早速つけてみるね」
リリスがそう言って手袋を脱いだ瞬間。リリスの手が紫色に変色していたことに気づいた。
「リリス!?それどうしたの!?」
「本当だ。うーん……あの術式の反動なのかなぁ」
「あの術式って?」
リリスは塔の中にあった魔術書や神の力のことを話した。
「そっか……とりあえずその術式は使用禁止ね」
「はぁい……」
それからは,普通に食事をした。ステーキはとても美味しかった。
「じゃあまた明日。次に行く国のことも考えよう」
「おやすみ」
そう言って別れようとした時だった。リリスは思うように動けず,倒れてしまった。
「大丈夫!?」
カーティスの心配する声だけは聞こえたが,ついに気絶してしまった。
* * *
カーティスはリリスからプレゼントを貰えて幸せな気分だった。そして別れようとした時,リリスが倒れたのを目撃した。
⦅どうしよう…とりあえずあの二人の家に泊まらせてもらおう⦆
そう考え,エレーナとミハイルの家に急いだ。
「すみませんっ!リリスが倒れて……」
その言葉に一番早く反応したのはエレーナだった。
「症状はどのような感じでして?」
「あっ,はい…レストランから出た時に倒れて…」
「その前にあった異変などは?」
「そういえば手が紫色に変色していました。彼女は魔術の反動だと言っていたんですが」
カーティスのその言葉を聞くと,エレーナは考え始めた。
「魔術の反動だったとしてもそんなに酷い副作用なんて聞いたことないわ。それにリリスさんは一級魔術師の中でも魔力がずば抜けて高かったはず…」
そう言いながら,リリスの体に触れた。
「なにこれ!?とても冷たいじゃない!!」
「確かに冷たいな,とは思っていましたが……」
「この症状は多分,凍傷か低体温症よ!そういえばリリスさんは私達と会った時にはコートを着ていませんでしたわね……とにかくぬるま湯を用意して」
「はい!けど低体温症ってことは長時間寒い環境にいないとならないんですよね?ホテルに泊まっていたらそんなことにならないと思うんですけど…」
カーティスにそう言われて,エレーナはミハイルを睨みながら言った。
「ミハイル……知っていることがあったら話して」
エレーナにそう言われたミハイルは俯きながら話し始めた。
「……ごめん。エレーナを傷つけたあの子が憎かったんだ。だから国中のホテルに連絡して出禁にさせた」
「……そう。確かにリリスさんは憎いわ。けど,誰かに八つ当たりしちゃだめだよ。リリスさんはちゃんと努力して一級魔術師になったんだから」
「あのっ,ぬるま湯の準備が出来ました!」
「分かりましたわ。じゃあ,リリスさんを目覚めさせるために頑張りましょう」
そう言って,エレーナは【回復】とぬるま湯を準備した。




