国外追放で凍えるⅡ
ジマーニアのホテルの全てがリリスの宿泊拒否をしているのには,どうやらミハイルが圧をかけたかららしい。
「まあ,めちゃくちゃ暖かいこのコートもあるし大丈夫だよね!というか最早寝なくてもいいんじゃ…?」
リリスはうっかり寝てしまわないように,街をぶらぶらと歩いていた。
「夜はもっと冷えるねー……ん?」
声が聞こえてきたので,その方向へ行ってみた。すると,兄弟と思われる二人組が抱き合いながら話していた。
「寒いねー」
「お兄ちゃん…このままじゃ,僕死んじゃうよ…」
兄弟はさらに近づいて暖め合っていたのを見たリリスはコートを上げることにした。
「君達!これ,あげるよ」
リリスがそう言うと,兄弟は少し申し訳ないような顔をした。
「けど,お姉さんはどうするの?」
「大丈夫だよ。また新しく買えばいいんだし」
そう言いながら兄弟にコートをかけてあげた。とても暖かそうにしているのが嬉しかった。
「さて,またコートを買いに行こうかしら」
そう独り言を呟きながら,近くにあった店に入った。
「あのー。暖かいコートが欲しいんですけど」
その要望に,店員は優しく応えてくれた。少し待っていると,分厚いコートを持ってきてくれた。
「これでお願いします」
「はーい。二万ゴールドなんですけどー」
そう言われると,財布の中から二万ゴールドを店員に渡した。そして店員は倉庫の中へ入り,新しいものを出してくれた。
「ありがとうございましたー!!」
店を出てから,コートを身につけるために袋の中から包まれていたコートを取り出した。そしてその中身を見たリリスは唖然とした。
「薄っぺらい……」
詐欺に遭っていたのだ。買った店に戻ろうとしたが,取り合ってくれなさそうだったので諦めて着ることにした。
「この紋章って……魔道具士ロレンシオさんのコートじゃん!?」
魔道具士ロレンシオとは,何世紀も前の魔道具士だが,性能は現在の魔道具の何倍もすごかったのだ。そして,リリスは贋作ではないことを確かめるためにコートに【魔力分散】を放った。すると,コートの周りに結界が張られた。
「本物かぁ…しかも一日五分だけ使えない魔術を使えるようになるの!?」
説明書にはそれに付け加えて,『その術式の体系を知っているが使えない魔術に限る』と書かれていた。
買い物に満足したリリスは,暖かいコートを買うのを忘れてしまっていた。そして,夜が明けるまで公園のベンチで座っていた。気づくと,リリスは眠ってしまっていた。
「はっ……!やっぱ睡魔には勝てなかったか」
急いでカーティスとの待ち合わせ場所へ向かった。
「はぁっ,はぁっ…カーティス,待ってた?」
到着すると,既にカーティスは待っていた。
「いいや。まだ待ち合わせ時間は来てないし…それよりコートはどうしたの?」
カーティスにそう言われてやっと思い出した。
「あー。あれね……寒がってた人達に渡したんだ。その後にコート買ったらさ,その…詐欺られました」
途中からカーティスは呆れていた。
「はあ……それじゃあ本末が転倒しているよ。とりあえず,これ着て」
「カーティスは寒くないの?」
「僕は火属性の魔術だったら最低限使えるから」
リリスはカーティスの着ていた上着を貸してもらった。
「暖かーい!こんなに暖かいのは何時間ぶりだろう」
「何時間って……どこのホテルに泊まっていたの」
カーティスを心配させたくなかったリリスは,適当に嘘をついた。ちょうど泊まっていた部屋の暖房が故障していたということにして,歩き始めた。
少し歩いていると,後ろから話しかけられた。振り返ってみると,エレーナとミハイルだった。
「エレーナさん,ミハイルさん。おはようございます」
「なんで貴女は男性用のコートを着ているんですの?」
「あぁ……コートを買おうと思ったら詐欺に遭ってしまいまして」
リリスがそう言うと,エレーナは嘲笑した。
「あら,なんて愚かなんでしょう!一級魔術師でもあろう貴女が詐欺に遭うなんて!!そうは思いませんこと?ミハイル」
「そうだね。実に馬鹿馬鹿しい。ところで…昨日はよく眠れましたか?」
「はい!ベッドもふかふかで,温かかったです」
ミハイルは驚いていた。こんな回答がくるとは思っていなかったのだろう。ベッドの話は嘘だが,温かかったのは本当だ。
「そう,ですか…」
そう言ったミハイルの隣のエレーナは微笑んでいた。
「エレーナさん,なんで笑っているんですか?」
「笑ってないわよっ!!」
「そうですか?それは置いておいて……はいっ!これどうぞ」
リリスは腕輪をエレーナに手渡した。渡されたエレーナは,少し警戒の表情を見せている。
「これはなんですの?」
「それはですね……花で作った腕輪です!」
「そんなの見たらわかるわよ!なんで私にくれるのかを教えなさい!」
「ローゼンタールの国花です。二人を泊まらせてくれたので,感謝を伝えたくて。あっ,それには私の魔力が込められているので枯れませんよ」
受け取ったエレーナは嬉しそうにしていた。
「嬉しそうですね」
「何も嬉しくないわよっ!ただ,貴女の魔力を解析して戦いを有利にさせれるからはしゃいでいたのよ!」
「エレーナ。そろそろ行こう」
「分かりましたわ。それじゃあ良い旅を」
「行っちゃったねー」
「うん」
二人は再び歩き出した。
「流石にもう聖夜祭のムードだよねぇ。リリスはなんか買った?そのローブ以外で」
そう言われると,リリスはきょとんとした顔になった。
「聖夜祭って神の子の誕生を祝う祭りじゃなかったっけ」
「そうだけどさ。家族で集まってプレゼント交換とかしなかった?」
「プレゼント交換……?」
元の世界でもクリスマスという行事があったが,リリスの親が忙しすぎて家にいないのが日常だった。そして今の世界でも,彼女の親は妹とマリアを愛していた。もしかしたらあの二人とだったらそういう事をしていたのかもしれない。
「なんか……ごめんね」
「いいんだよ,カーティス。これはただ単に私の経験不足だったってだけだから」
「じゃあ僕とプレゼントを交換しようよ」
そう言って色々な店を巡ることにした。
⦅カーティスってどんなものが好きなんだろう……⦆
考えたことがなかった。カーティスは完全無欠みたいな人間なので,好きも嫌いあるのかと考えてしまった。
「うーん……無難なのはお菓子とかなのかなぁ」
学園にいた時も,お菓子の交換は毎日のように行われていた。
「けどなぁ……消耗品はなんか嫌だなぁ」
カーティスも,この店で買いたいものはなかったらしく,次の店へ向かった。
* * *
「結局,あんまりいいもの見つからなかったねー」
「僕は買ったよ?」
⦅いつの間に買っていたの!?⦆
リリスは驚いていた。
「じゃあ明日は…午後に集まることにする?」
「そうだね。私にプレゼントを決める時間をもう少しちょうだい!」
午後の三時に再び集合することを決めた二人は,『聖なる木』の前で解散した。
「何がいいのかなぁ……カーティスって」
独り言を呟きながら,リリスはジマーニアの夜を歩いていた。そして面白そうな店を見つけた。試しに入ってみると,古びた店だった。
「………いらっしゃいませ。何か用はありますか?」
部屋を見回してみた。すると,魔力の含まれている商品がほとんどだった。
「もしかして魔道具屋だったりします?」
「ええ。よくお気づきで」
店の中を探していると,古めかしい日記帳が見つかった。
「これはなんですか?」
「それですか,見ての通り日記帳ですよ。それに付与されている術式は…特定の術式が組み込まれている魔道具に近づけると神の子に近い威力の魔術が撃てるんです」
⦅魔道具の方はカーティス,要らないと思うけど…日記をつけていたはじだからいいかもな⦆
「これ下さい」
「……無料でいいですよ」
「いいんですか?とても実用性はあると思うのに」
「ええ……この店に来る人が少ないので,来てくれただけでも嬉しいんです」
そう言われたので無料で日記帳とぺンを貰った。
「ありがとうございました…また来てくださいね。『神の子』のリリスさん?」
そうして魔道具屋・ロレンシオを後にしたリリスだった。




