VR,そして策謀
「カーティスもう一回やるの?」
「そろそろ克服しないと……!」
ゲーム『幽霊屋敷』の内容はパズルを解いて叫ばずに曰く付きの屋敷から脱出するというものだった。問題のパズルも,二人にとってはすぐに解くことが出来るものだ。
それよりも大変なのはやはり幽霊である。まず,一番最初の幽霊に慣れるのに五回かかった。心拍数が測られないだけましな方だろう。
リリスはカーティスの方を見る。とても具合が悪そうだ。
「カーティス,もう止めよう?すごい顔が青いけど」
「…………やめよっかな」
そう言って,二人はアプリを切った。そしてゲーム選択画面へ戻る。どうしようかと相談していると,あるゲームアプリを見つけた。詳細を見てみると,MMO系統のゲームだということが分かった。ホラーゲームではない。それを確認したカーティスはほっと一息をつく。
早速アプリを起動する。二人の体は光に包まれ,目を開けると街が広がっていた。
「わぁ……なんか平民街に似ているね」
「カーティスは行ったことあるの?」
兄と一緒にお忍びで行ったことがあるらしい。というか,カーティスが王子だということはバレていないので平民街にあった本屋に往き来していたという。
ちなみにリリスは師匠と何回か行ったことがある。カーティスに平民街にあったりんご飴の話をすると頷いてくれた。彼も食べたことがあるようだ。話が盛り上がっていたところ,リリスの肩にポンポンと叩いてくる手があった。
「君たち,初心者だよね?」
「そうですけどなんで……」
「だって,初期装備だもん」
二人は自分の体を見た。リリスにはローブが無かった。
「私はリーシャ。今からダンジョンに潜るから一緒に来ない?」
「行きますっ!行かせてください!」
カーティスは首を傾げたが,とりあえずリーシャへついて行くことにした。
彼女について行って気がついたことがリリスにはある。それは,街にいたプレイヤー達が三人をジロジロと見ていることだ。そのプレイヤーの中から気になる言葉が出た。
「(なんでトップランカーのリーシャさんが初心者なんかを……)」
というものだ。なるほど,それはジロジロ見られてもおかしくはない。リリスも前世では相当名を馳せていたプレイヤーであり,ゲーム内の街を歩いていたときはギルド勧誘をよくされたものだ。もちろん全て断ったが。
「一回火龍を討伐してみよっか。レッツチャレンジ!!」
チャレンジと言われても困る。何せ,レベル上げもしていないのでスキルが一つしかないのだ。初期装備でリリスは片手剣,カーティスは魔法使いの杖を選んだ。
火龍なので当然だが火属性の魔法を口から吐いてくる。そしてリリスには竜王殺しが使えないという状況。
リリスは火龍へ飛び乗り,ザクザクと鱗を切っていった。カーティスは火龍に対して効果二倍の水属性の魔法を放っていく。とても時間はかかったが,なんとか倒すことができた。
「すごいねー!今のダンジョンボスだよー」
「やっぱりそうなんですか……」
「見て,リリス!ここに杖と短剣があるよ」
そこには短剣が刺さってあり,【龍の短剣】と書かれてあった。また,龍装備というのもある。装備は防御のためにつけているのだが,リリスには攻撃を避けることもできるしカウンターもできる。よってそれはカーティスが装備することになった。
ダンジョンを抜けると,決闘の申し込みが次々と入ってきていることに気がつく。リーシャに同行しているということで実力者だと思われたのかもしれない。
⦅ちょっと試してみるか⦆
「決闘申し込まれてるよねー。一戦やってみる?」
半ば強制で一番上にあった人の認証ボタンを押された。そういえばレベル順に並んでいた気がする。
* * *
「君がリーシャさんの認めた実力者……」
「違いますけど……」
リリスは訂正をするが,少し楽しみでもあった。目の前にいる男のレベルを見る。LV.80と書かれていた。トップランカーであるリーシャのレベルが110だったことを踏まえると相当な実力を持っていることが考えられる。少し苦笑して,構えの姿勢に入った。龍の短剣の攻撃力は中くらいのものだ。そして大剣を取り出した。
実際に戦ってみて,レベルも高いしステータスによるスピードも速かったが,リリスにも避けられるものだった。リリスは捌いていく。彼の攻撃を。男は目を細めた。攻撃が当たりそうなのに紙一重で避けられてしまう。
「地道にHP減らすのもいいけど……やっぱり奪うか」
リリスは男の死角をとって,腰にさしてあった短剣を奪った。攻撃力はリリスの短剣の二倍だ。奪い取った短剣を両手で持ち,心臓部分にグサッと,突き刺す。徐々に男のHPが減っていき,二人は光に包まれて決闘会場から消えた。
「リリス,大丈夫!?どうなったの!?」
「勝ったよ。レベル差はあったけど,楽しかった」
「この人,レベルすごい少ないのにバグってるんだけど……」
男は呆れた顔でリリスを見ている。リーシャはニコニコとして決闘の動画を眺めていた。ふふっ,と笑ってぶつぶつと何かを言い始める。時々独り言が聞こえたが,攻撃の角度が……とか言っていた気がしなくもない。リーシャにどうしたのかと尋ねると,彼女はリリスの手を握って質問をし始めた。カーティスと先ほど戦った男は半眼で二人を見つめている。
どのようにしてあの動きをしていたのだとか,色々と二人は戦闘に関してたくさんのことを話した。
* * *
「さて,どうやって兄上を殺すか……」
リリス達がゲームで遊んでいた頃,カリヤルは綿密な計画を練っていた。彼と同じ部屋にいたイワンはくだらないと思っていたのだろう,若干うとうとし始めている。ノアにはそんなことが出来ない。イワンは王族にとても近い,公爵だからある程度の無礼が許されているのだ。
リリスがいない間に,ノアの家は没落した。カリヤルによって冤罪で両親は処刑された。リリスに協力した嫌疑がかかっていたらしい。自分の命を守るためにはカリヤルの言いなりになるしかなかった。
「セシル,何か案はあるか?」
「そうだね……大切な人が死んでいるのを見て動揺させるとかかな」
「兄上がそんなことで動揺するとは思えないし,そもそも大切な人なんているとは思えないけど」
カリヤルが見ているカーティスの顔はいつも冷酷だった。笑顔など見たことがない。ずっと,カリヤルに対しては厳しかったのだ。
あ,とセシルは思い出す。カーティスはずっとリリスといたではないかということを。それをセシルがカリヤルに話すと,ニヤリとした表情を浮かべた。
ゾワっと。ノアから冷や汗が流れる。
⦅……まずい⦆
ノアがそう思った瞬間,カリヤルもセシルもノアの方をジロリと見た。そしてカリヤルは歩いて彼の方へ来る。ポンとノアの肩を叩いた。
「ノア,俺は兄上を殺すから。君がリリスを殺してくれないかな?」
「……セシル様は駄目なんですか」
「僕はマリアに嫌われたくないからね」
自分勝手だ。そんなこと,できるわけないじゃないか。
「それじゃあ,明日頼んだよ」
ノアは頭を抱え,眠りについた。




