国外追放と妖精
急いで中央のリルの家に戻って獣人居住区で欲しがっていたものをあげた。そして地図を見て妖精が住んでいる泉へ向かう。
「うーん。ここら辺だと思うんだけどなぁ」
それらしき泉に到着したリリスは辺りを見回した。妖精どころかどの生物も見当たらない。
的外れかと思って残念がりながら別の場所を探してみようと泉に背を向けた瞬間。鐘が鳴った。そして,泉からザバん!という音がし,振り返ると泉の中から巨大な花が出現する。
リリスがそのままじっと見ていると,たちまち開花して中から妖精が飛び出した。
「結界補強の人だねっ!何を持ってくれば良いのかな?」
種族間でもコミュニティがあるらしくリリスとカーティスのことも話題になっていたようだ。
リリスは泉の現象を不思議に思っていたが,ディアナという妖精の種族長の面会許可が出て彼女の住居に向かうことになった。前に行った三つの居住区のどこよりも幻想的で夢なのではないかと時々思う。
「失礼します」
「ようこそ。とりあえず今晩はわたくしの家に泊まってください。行動するのは明日にしましょう」
ディアナにそう言われてリリスは思い出す。狼男を倒してから一睡もしないないのだ。とりあえずメモを開く。明日,集めるものを確認するためである。
《妖精居住区で欲しいもの》
一,種族長の羽
一,魔女術
一,グレムリンの羽
これをお願いします
魔女術は置いておいて,羽に関しては危険が及ぶのではないだろうか。獣人のようにすぐに回復するものなのだろうかなどとリリスが考えていると,ディアナがリリスの後ろへやって来てメモを見つめていた。
少し笑っている。
「あの……羽とかって大丈夫なんですか?すぐに回復するとか……」
「そんなことはないですよ。けど,この世界のためなので」
リリスは返答に困ってしまう。ディアナはとても自己犠牲をしそうな人物だった。そのディアナ曰く,グレムリンとはとあることがきっかけでイタズラするようになってしまった悪い妖精らしい。
ディアナが食事を用意してくれる。リリスが彼女と一緒に食べていると,ディアナは突然,質問をしてきた。
「貴女の付近から神の雰囲気がチラチラしているんですけど」
リリスは首を傾げる。碧帝のことだろうかと思って一旦出現させてみる。すると,ディアナは目を大きく開いた。碧帝のことが見えるらしい。
久しぶりに出現した碧帝は仙人の中でも一番位の高い神により近い仙人になったようだ。
「魔力が高くて困っていることはないですか?天啓だと言っているのに信じてもらえないとか」
「ないで……」
「リリスは冤罪で国を追われていたんだよ。家族とは縁切られているし,あ,聖女様のせいでね?あとは天使の召喚の失敗をリリスのせいにされたり,付近にいて魔力が高かったからとある国王の暗殺の冤罪着せられてほとんど食べてなかったらしいし」
リリスは穏便に済ませたかったのだ。しかし,碧帝が全てを言ってしまった。記憶の共有の悪いところである。
碧帝の話を聞いたディアナは大粒の涙をこぼしていた。
「あぁ,魔力が高い故に皆から魔女と謳われ恐れられているなんて……」
「全然そんなことないんですけど」
だが,碧帝が言ったことは事実でもある。少し前後が消えているが。
食事を終えると,ディアナはリリスにハグをした。明日,魔女術とグレムリン討伐を一緒にしてくれるそうだ。ディアナが抱きついたまま,リリスは眠りにつく。
* * *
「あぁ可哀想なリリスさん。貴女のような方のためならわたくしの羽の一枚なんて喜んで差し上げますよ」
物騒な単語と音が聞こえてきて目を開けた。ベッドの上でディアナと見つめあっているという状況だ。それを理解してリリスはバッ,と飛び起きる。ディアナはリリスを見て頬を撫で,キスをする。
「今日は魔女術とグレムリンの討伐ですねっ」
「すごく急いでいるように見えますけど,何かあるんですか?」
「獣人居住区に行くときに恋人が怪我をしてしまって……」
すると,ディアナの頬に前日よりも大粒の涙が大量に流れる。魔女と言われて恐れられているリリスを助けたというところに感動しているらしい。
ディアナが突然立ち上がり,薬を指に塗る。そして,何もない場所から大量の本を取り出した。
「これ,午前中に読んで記憶してください」
魔女術の本の中には膏薬やハーブを使って魔術を行使する方法や,自身の指定した影を使役する方法が書かれてあった。魔術書としても魔女の歴史を知るにも十分すぎる代物だったので疲れずに最後まで読み切ることができた。
最後のページには,『魔女術を使用している間の如何なる善行も悪行も三倍となって返ってくる』と書かれていた。リリスは自分の昔を思い出す。数々の魔物の殺戮,周りの人を守るためとはいえ殺人。禁書指定されていた本を王立図書館の立ち入り禁止の場所から盗んだり。
結構悪行しまくっていないか,と。
ディアナも気がついた。
「これは見方の問題で,こじつけでも良いんですよ。貴女は不幸な目に遭ったことがあるんですし,魔女術を使っているとき限定ですから」
試しに薬草を調合し,足首に塗ってみた。すると,リリスの体がふわっと浮いたではないか。飛行術式だって使っていないのに。
「わぁっ,これが妖精種族長の厄災ですか?」
「違いますよ。わたくしの厄災は凶悪ですので」
ディアナによると,プラシーボ効果のようなものらしい。リリスもそういう術式を使えると言った。それはグレムリンなる妖精との戦いで見せよう。
綺麗な泉の先の,濁った泉に妖精はいた。魔女術と最近あまり使っていなかった術式を使って戦ってみようと思った。
「久しぶりだなぁ」
「久しぶりだね。羽を貰いにきたよ」
リリスは即座に膏薬を作り,足首に塗る。手と腕で刀のようなナイフのような形を作った。グレムリンは首を傾げる。刀にも,ナイフにも,鞭を扱っているようにも見えたからだ。
その瞬間,彼には斬り傷と刺し傷と何かに叩かれたかのような跡が現れた。思い込み。その形を作ったらこういう攻撃が飛んでくるだろうという思い込みでこの術式は成り立っている。
しかも,対象以外には攻撃すら見えないのでとても便利である。
「お前……厄災まで教えたのか!?これでも食らえ……!!」
グレムリンは見たこともない兵器を取り出してリリスに照準を合わせる。それにはリリスも攻撃を止めてしまった。
そしてリリスは地面に降りて彼の手を握り,
「すごいです!そんなの見たことがないです!どうやって作ったんですか!?」
これにはディアナもため息を吐いてしまった。
「好奇心があっていいね……」
「もちろんですよ!だって,見たことない兵器ですよ?すごいじゃないですかっ!!」
今のリリスに語彙力など存在しない。兵器の素晴らしさと感動を感情のままに伝えているだけだ。グレムリンは少し怖がりながら設計図を懐から取り出してリリスに見せた。彼にありがとうと笑顔で伝えた。
「…………」
「どうしたんですか?」
「自分に感謝してくれる人が珍しいなって。他の人どもは感謝すらしないんだよ」
この先にある電脳の国や機械仕掛けの国に二神戦争以前の知識を教えたらしいが,次第に感謝してくれなくなったそうだ。リリスは何百回も彼に感謝をした。彼がいなければ科学技術がそこまで発展していなかったはずだ。照れ始めてやめてとまで言い始める。そして羽をちぎり,リリスに渡す。
「いいんですか?」
「停戦協定。もし感謝しなくなって自分をぞんざいに扱ったらすぐに世界中の機械を故障させるからね」
いつのまにか,中央へ転移されており,リルの家に入った。結界はほとんど完成しているらしく,リリスが残りの妖精の素材を入れるだけと言う。魔女術はどうしたのかとリリスが尋ねると,リルは一日で魔女術を習得できるのかを試したかっただけだそうだ。
とりあえず,乾いた笑いをしながら一回リルを蹴っておいた。




