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3 完結


避難所で私は先生の無事を祈り続けた。


酷く長い時間だったと思う。何度も外から騒音が聞こえて、その度気が気じゃなかった。もっと私が強ければ先生と共に戦えたのに、そう思うと悔しくて仕方なかった。


そしてついに、


「魔物の討伐完了しました!」


援軍として、いつの間にか来てた騎士団の方が避難所で縮こまってた私たちを呼びに来た。


「負傷者手当します!こちらへ来てください!」

「人数確認したいのでみな早急に集まるように!」


避難所にいた人たちは皆歓喜の声を上げて思い思いに部屋から出た。そんな生徒たちをまとめるよう各所各所で、指示が飛び交う。


しかし私はそんな指示を聞いてる余裕なんてなかった。


(先生が、いない)


救護テントにも、私たちを呼びに来た人の中にも、どこにもいないのだ。


ドクン、ドクン、と胸が嫌な音を立てる。


「っ先生!」


ただ探し回ってるだけじゃ不安でしかなくて無駄かもしれないとわかってても必死で声を上げて探し回った。


―――あれは?


地面に横たわってる黒い人のようなもの。先生は、今日黒い服着てて。


無意識に呼吸が浅く、早くなった


そんな、うそ。絶対違う。


髪色が先生に似てるなんて気のせいだ。それに、こんなに生徒思いの先生が倒れてるのにほっとかれるわけが無い。


自分を落ち着かせながら震える足で黒い物体に駆け寄る。


あぁ、あぁ


「―――先生!」


なんでどうしてやっぱり先生だ。ボロボロ泣きながら何度も

先生!と呼びかけると


「っネットウィー、さん…?」


とうっすら目を開けた。


「せんせ、どうして」


どうして腕がないの?どうしてそんなに血が出てるの?どうして誰も先生を救護室に連れてかないの?


言いたいことは沢山あったが涙に飲まれて言葉にならなかった


すると先生はこっちを見てふっと笑うと


「みんなが、あなたが無事でよかった」


そう言って目を閉じてしまった。


「先生?ねぇ、先生!!」


いくら呼びかけてももう反応してくれない。嫌だよ、先生。行かないで


「誰か!誰か!先生を救護室へ!」


必死で呼びかけた。なのに、なのに誰もこっちを見てくれない


誰かがつぶやく


「嫌ですわ、闇魔法使いの体に触るなんて。のろわれてしまいますわ」

「闇魔法使いにふさわしい最後だな」

「これで王家も邪魔な物を排除できたな」


それは、みんなのために必死で戦った先生に向けるような言葉じゃなくて、私は先生の耳を塞いだ。


かろうじで、息はしてる。脈もある。まだ、まだ助かるかもしれない。


だれも先生を救護室へ運んでなんてくれない。だったら私が何とかしなくては。


「先生、絶対死なないでね」


そう言って立ち上がり全速力で救護室へ駆けて行った。


「失礼します!怪我人がいます!動ける状態じゃありません。どうか、ポーションだけでも分けてください」


私が大声で、そう叫びながら救護室へはいると部屋にいた神官たちは嫌そうな顔をしてこちらを見た。


「聖女様をいじめた女の娘を誰が助けるか。出ていけ」


そしてこう言われ全く相手にされなかった。


「私じゃありません!生徒のために一生懸命戦った教師のためです!お願いです!」


でも私だって引く訳には行かない。必死に言い募った。しかし


「あの穢れた闇魔法使いの事か。ふんっあいつを私たちが助けるわけがないだろう。2度はない。去れ」


そう冷酷無慈悲に言われ追い出されてしまった。


絶望感で頭がいっぱいになった。私には何も出来ない。

ふらふらと先生の元に駆け寄る。


「ごめ、ごめんなさい!先生、ごめんなさい!私、なんの力にもなれないっ!!私に癒しの力があれば」


さっきより明らかに弱くなってるけど今はまだかろうじで息をしてる。でもこのままじゃ時間の問題だ。

でも何も出来ない自分が悔しくて悔しくて泣き続けた。


するとどこからか


『 力を望むか』


声が響いた。


「え?」


私は咄嗟に空を見上げるけどそこには誰もいない。それどころか私以外に反応してる人は誰もいない。


『癒しの力を求める者よ。お前は力の対価として何を支払える。我ら精霊は対価を貰わねば力をかさん 』


最後まで聞かず私は即答した


「命でもなんでもあげるっ!だから、だから先生をっ!」


助けて、そう叫ぼうとしたら声の主が笑いだした。


『 迷わず命を差し出すか、娘よ。気に入った。お前の水魔法の代わりに癒しの光魔法を使えるようにしてやろう』


声の主がそう言うと私は体がピカーと光り出した。

何かが抜けて言って何か暖かいものが入ってくる感じがする。これがきっと光魔法。


今なら何をすればいいのかわかる気がした


先生の手を握り


「お願い、先生を助けて」


そう言って必死に祈った。すると無くなっていた腕の辺りやお腹頬の細かい傷に至るまで全てが淡く光り出した。


そして光が収まった時、先生の腕は元通りになっていた。


「う」


さっきまで気を失っていた先生が目覚める。


「先生っ!良かった。良かったよぉ」


私はそんな先生に抱きつき大声で泣いてしまった。


先生はそんな私に驚いたような顔をしたが嬉しそうに微笑むと私の背中をポンポンと叩いてくれた。


「何が起きたかは分かりませんが、あなたが私のために頑張ってくれたことは伝わります。ありがとうございます」


先生に褒められて涙がさらに溢れてくる。


「先生こそ、私たちを守ってくれて、ありがとうございました」


うっ、うぅと言葉につまりながらもなんとか感謝の言葉を述べる


「私はあなたにそう言って貰えるだけでも報われます」


「なんで先生はそんなに聖人なんですかぁ」




そんなやり取りをしていると、1人の女子生徒が私たちの前に立ちはだかってきた。そして


「〜〜なんであんたが!なんであんたが光魔法を手に入れて!そいつを治してんのよ!」


と叫んできた。

見上げるとそこにはピンクブロンドの可愛らしい女の子がいた。しかしその顔は怒りで真っ赤だ。


「え?」


何を言われてるのか分からなくて呆然としてしまう。


「というか!あんたはこの乙女ゲームにいないはずでしょう!?なんで存在すんのよ!そのせいで私は虐められないし、殿下に興味も示されなかった!それにこのイベントで私を庇って怪我した殿下を治すために光魔法を手に入れるのは私のはずだったのに!殿下は私なんかお構い無しで護衛に保護されてんのよ!?おかげで私は冴えない騎士に助けられたわ!

それに、私が手に入れるはずだった光魔法を手に入れてどうしてそんなやつを治してんのよ!!あんたが、あんたのせいでシナリオがめちゃくちゃよっ!」


色々言われたがやっぱり何を言われてんのか分からなくて呆然としてしまう。しかしなんでこんなこに…と言いながらめそめそするかわいい女の子を無視することは出来ず


「ご、ごめん、なさい?あの、なんの事だがよく分からないけどあなたはとっても可愛いからきっといい出会いがあるわ」


と適当な慰めをすると


「なんで存在するかも分からないキモイ存在に慰められたー!!うわぁーん!」


とさらに泣き出してしまった。そんな少女にほとほと困り果てていると


「彼女はこの騒動で気が動転してしまったようですね。すみません。僕が連れていきますのでどうかご容赦を」


そう言って騎士さんが彼女の手を引いた。

そんな彼を見て少女は


「どうしてこんな冴えない、ただの幼なじみが、かっこよく見えるのよ!ありえない!私、殿下と恋に落ちる予定だったのにー!!」


とまたまたうえーんと泣き出してしまった。そして騎士さんはそんな少女を愛おしそうに見つめるとぺこりと頭を下げていなくなってしまった。


「…」


私たちの間に沈黙が落ちる。


「なんだかすごい勢いでしたね」


「ああ」


そこで私たちは顔を見合わせてふふっと笑う。


「なんにせよ皆が無事でよかった」


「ええ、先生が無事でよかった」


そんなこんなでこの騒動は終わったのだった。




***


なんで魔物が学園に侵入してきたのか、それは、たまたま結界が緩んでしまったこと、それと同時に小規模なスタンピードが起きていたこと。魔物は魔力が多い人間を襲う傾向にあるから学園に1番魔物が集まってきやすかったことが原因らしい。

ただ、結界が緩んだ理由は謎のままだ。


そしてその後はと言うと


「先生っ!」


私は先生と会うことが再び可能になっていた。光魔法に目覚め、聖女となった私に先生にあったくらいで殿下も文句を言えなくなったのだ。


「なんですか?」


それに先生もあの事件の後から前よりももっと穏やかな笑みを浮かべるようになり私の心臓が壊れそうになる回数は増えた。


「今日はここを教えて欲しくて!」


私がそう言うと


「ええ、あなたの質問ならいくらでも答えましょう」


先生はそう答えてくれる。


私たちはこうして穏やかな時間を過ごした。


そして卒業の日。


「先生っ!」


私はいつものようにそう言って先生に駆け寄る。


「先生!私はもう卒業しました!先生はもう先生じゃありません!」


そして笑顔でそう告げる。すると先生は目を見開き少し寂しそうな顔をした。


「そうですね。貴方と会えなくなるのはやはり寂しいですね」


先生は、どうやら私に男として好かれているという自覚がないらしい。先生として好かれてるくらいにしか思っていないようだ。全く、鈍すぎるのも乙女を傷つけるんだぞ。そう思ったがそんなところも愛おしくて仕方なかった。


これから言うことを考えると、心臓がバクバクして死んじゃいそう。でも私は絶対に言わなくてはいけない。


「先生、いえ、レグリス様。私はあなたの事を好いています。どうか、どうか私とお付き合いしてください!もう生徒じゃないので!!」


そう言ってガバッと頭を下げる。しかし先生は困惑したような表情をし己を卑下し始めた。


「ネットウィーさん。僕なんかでほんとにいいんですか?僕はあなたより8つも年上だ。それにあなたはとてもかわいい。僕なんかよりずっといい人と付き合える。冴えないし、暗くて惨めな闇魔法使いなんかよりーーーーーー」


「レグリス様!」


そんなレグリス様の声を遮るかのように大声を上げる


「私は、あなたより優しい人を見たことがありません!なんの対価も求めず人を助けられる人が、自分のことをなんかなんて言わないでください!あなた"で"いいんじゃないです。あなた"が"いいんです。他に好きな人がいるなら諦めますけど、そうじゃないなら私、ずっとつきまといますからね!」


するとレグリス様は泣きそうな顔をして


「とっても、嬉しいです。こんなわたしを選んでくれたのなら、私は一生をかけてあなたを幸せにします」


そう言って笑ってくれた


「〜!〜!大好きっ!私もあなたを守ります。一生離れませんから!」


その笑顔のあまりの尊さに思わず抱きついた。




こうして私たちは付き合い、闇魔法使いと聖女という組み合わせは人々の関心を呼んだ。


しかし、私たちの幸せそうな笑顔を見て人々は今までの闇魔法使いへの偏見は間違いだったと知ることとなる。


闇魔法使いと居ても不幸になることは無い。


リーナは計らずとも闇魔法使いへの差別を無くしたのだった。


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