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誤字脱字、気に入らない設定などあれば教えてください。頑張って次回に生かします
私、リーナは男爵令嬢だ。よくある成り上がりとかじゃなくて古く正しい歴史を持った男爵家の。狭い領地だが男爵家は領主として清く正しく振る舞い領民を守ってきた。
観光や特産物なんてないけど領民により良い暮らしをさせよう、と今までやってきた我が家では贅沢は禁物だ。領民と同じ程度の食事をし、使用人も必要最低限のみ。パーティー用のドレスはあるけれど普段は質素なワンピースを来て生活している。街ですれ違っても貴族だなんて思われない。良くていい所のお嬢さんくらいだ。
幼い頃から我慢はいっぱいしてきた。他のお家のお茶会に招待される度、自分と他の家との落差に惨めになった。話が合わなくてお友達なんて出来なかった。欲を言えばもっと色んな服が着たい、貴族らしい食事がしたいなんて思ったこともあった。
でもそんな私の欲望や苦悩なんてどうでも良くなるくらい
「あぁ、今日もお前達を領民を守れてよかった。私は最高に幸せ者だ。」
ちょっとお酒に酔うと心の底から幸せそうな笑みを浮かべて頭を撫でてくれる父がかっこよくて大好きだった。
「領主様!今年は作物がこんなにも!これで少し贅沢が出来ますね!」
なんて貴族と平民の会話とは思えないほど穏やかに笑い合えるこの関係が大好きだった。
(あぁ、私はこの生活が大好きだ)
こんなにも幸せでいいのかと泣きそうになる。そして胸に熱い炎が灯る。私も、私が父の護ってきたこの平和な領地を引き継いで彼らを護りたい。
そんな思いをもって勉強に励み、両親から使用人から領民まで。周りの人全てに愛され全てを愛してきた私は晴れて16歳となり魔法学校へ入学することとなった。
領地は田舎も田舎のド田舎。家から王都にある魔法学校へ通える訳もなく私は必然的に寮ぐらしとなった。
敬愛する両親と離れるのはほんっとーうに寂しかった。
16歳なのに年甲斐もなく
「お父さん、おかぁさん。私行きたくないよぅ」
と言ってめそめそと泣いてしまったくらいだ。そんな私を見て父はあたふたとし
「そ、そうだ!リーナが行きたくないなら行かなくてもいいんだぞ!お父さんだってとっても寂しいんだからな!」
涙目になった。そんな父を母は愛おしそうに見つめて
「もう、あなたったら。魔力が確認された以上魔法学校にいかないわけには行かないというのは知ってるでしょう?リーナがこれ以上不安にならないようしっかりしてちょうだい?」
と父の背中をポンポンと叩いた。
もう絵に描いたような幸せ家族だったと思う。
「リーナがいなくなるなんてとっても寂しくなるわね。魔力持ちだなんてさすが私の娘ね」
母はそう言ってふふと笑ったと思うと、ふと目を伏せた
「王都はこことは随分勝手が違うから苦労することもあると思うわ。それに、私のせいで辛くあたられることもあるかもしれない。…本当にごめんなさい。リーナ、辛くなったらすぐに帰ってきて。あなたは私の愛する娘なのだから。私は私の全てをかけてあなたを守るわ」
そういって握り締められた母の手は震えていた。
「バーベラ…」
さっきまで情けなく涙目になっていた父が母の肩を優しく抱き寄せる。私なんかよりもよっぽど寂しそうな2人を見ていたら何だか落ち着いてしまった。
「お父さん、お母さん。」
2人にそう声をかけてニコッと笑う
「お母さんが学生の頃何があったのかちゃんと教えてくれてわたし嬉しかったよ。その頃のお母さんがした事は確かに悪いことだったのかもしれない。だけどね、私の知ってるお母さんはお父さんと一緒に支え合って私の大好きな領地を一生懸命護ってる最高に尊敬できる人だから。過去なんかどうでもいいの。大したことしてないし。私はお母さんが大好き。何があったってお母さんを恨んだりなんかしないよ」
そう言って母に抱きつくと母は
「リーナぁ」
と情けない声を出して泣き出してしまった。
「それに私お母さんのおかげでとってもかわいくに生まれたし?月の女神って領民にしたわれてるお母さんの娘で私は幸せ者です」
あんまりにも母が泣くから私は茶化すようにそう言った。なのに母は目を見開くと再びぶわっと涙を流して
「私の娘が天使すぎる〜」
とぎゅうぎゅうと私に抱きついてきた。
「ああ、バーベラもリーナも女神と天使のように綺麗で可愛いぞ!俺は幸せ者だー!」
そう言って父が私たちを包み込むように抱きついてきた。
私たち全員涙で顔がぐちゃぐちゃだった。…特に父。正直母は涙で余計に儚さがまして美しかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈あー、あの時は幸せだったなぁ
と遠い過去に思いを馳せてみたが現実は残酷。目の前の男がこちらを睨みつけているという事実は変わらない。
「おい、お前はなんでこの学園にいる?」
お見事!って拍手したくなるくらいの綺麗な碧眼からは温かさが消え失せ目線だけで私を射殺すかのごとく睨みつけてくる。あ、無駄に金髪もさらっさらだな。
「第2王子殿下に挨拶申し上げます。私はネットウィー=リーナ。ネットウィー男爵家の長女でございます」
なんでこんな怒ってるのか分かるけど分かりたくないから分からないふりをして無難な挨拶から初めてみた。
すると目の前の男はさらに不機嫌になりこちらを見る視線が強くなった
「そんなことは聞いてない。何故母上を虐め、遂には殺そうとまでした女の娘がここのいるのかと聞いている」
そんなことも分からないのかこの阿呆は。思わず半眼になってしまった。あなたがた王家が魔力持ちはこの学園に必ず通うよーに!って言ってるからでしょう?
そう言いたくて仕方がなかったけど私はそれをグッと飲み込んで
「申し訳ありません。ただ魔力が発現してしまったので通うしかなく…なるべく殿下のお目には入らないよう努力致します。それでお見逃ししてくださらないでしょうか?」
と平謝りをしてみた。すると意外にも効果はあったようで
「ふんっ。本来なら母上を傷つけた女の血を引いているお前が俺と同じ空間にいるだけでも吐き気がするが。身の程を弁えてるならそれでいい」
殿下はこういってすぐに立ち去っていってくれた。マザコンで周りが見えなくなっていただけで意外にも話のわかるまともな男だったのだ。
その後も明らかに私を避けてはいたが特に接触されることもなかった。ただ問題がひとつ。
第2王子殿下に盛大に嫌われている悪女の娘。そんな私に友達なんてできるわけがなかったのだ。
それどころか嫌がらせも酷かった。殿下の為♡なんて言って可愛く私の教科書盗んだり足引っ掛けたり池に突き落としたり。
池に突き落とされた時はさすがにびっくりした。私が水属性の魔法を使えなきゃ溺れていたところだ。
そしてさらに問題が
「お前が我が公爵家の恥さらしの娘か。」
あれ、私たち兄弟でしたっけ?って言いたくなるくらい母に似てるサラッサラの銀髪の男が仁王立ちで私の前に立ちはだかっているのだ。
いやー似てる。めっちゃ似てる。
私は暗めの金髪という普通の髪色の父の影響で母の青みがかった銀髪を受け継げず、どちらかと言うと黄味がかったプラチナブロンドとなり、母の深海のような深みのある神秘的な瞳は見る影もなく父の水色の瞳がそのままはめ込まれてるけど。造形自体は母に滅茶似なのだ。
母男版!って感じの目の前の男と私も色彩が違うだけでめっちゃ似てるのだ。鏡の中の自分を銀髪で短髪にして男っぽくしたらもろこれになりそうだ。
なんて見当違いなことを考えていると
「お前は男爵の領地でまるで貧乏人のような暮らしをしているらしいじゃないか。いいか、血は繋がっているとはいえお前は恥さらしの娘。貧乏から抜け出そうなんて考えてどうにか公爵家と繋がろうなんて思うなよ」
と絶対零度の瞳で睨まれてしまった。うん。そんなこと考えてないからそんな睨まないで。ちびるよ。
「い、いえ。、そんなこと。滅相もありません。私は慎ましやかに生きていく所存でございます。」
怖すぎてペコペコ謝った。そんな私を男は軽蔑するように眺めると
「やはり卑しい血が混じると色彩も失い矜恃も失うか。」
と馬鹿にしたようにふっと鼻で笑った。
いや私は父も母の特徴を受け継いだこの色彩めっちゃ気に入ってるんですけど。
そして
「いいか、俺の前に二度と顔を見せるなよ」
と言っていなくなってしまった。
たまたま図書室で同じ席使っちゃったからってそんな怒んなくたっていいじゃないか。
友達いないからここがあなたの定位置だなんて知らなかったのよ!!
こうして私は図書室を気軽に使えなくった挙句私に近づく人がさらに減った。
まぁ、皆さんお察しかと思いますが母は巷で言うところの悪役令嬢だったのです。
当時、現国王陛下(当時は王太子)の婚約者だった母は現王妃(聖女)をいじめにいじめ、池に突き落とした。そして聖女といい感じだった国王陛下の怒りを買いこっぴどく婚約破棄されたらしいのだ。
そして母は辺境送り(貧乏男爵である父との強制結婚)にさせられ今に至るというのだ。
父いわく母は高飛車だったが常に何かに怯えている弱い人だったという。それがこの領地で暖かいみんなに囲まれて、生活していくうちに徐々に警戒心がとけ穏やかな性格になったという。これが本来の母の性格なんだろうとも言っていた。
母いわく自分はとても嫌な奴だったという。自分の立場を脅かすような人は全員敵。全員排除しないと落ち着かなかったそうだ。他の奴らはちょっと脅すとすぐ近寄って来なくなったというのに聖女だけは性懲りも無く元婚約者に近づいてムカついたからつい背中を押してしまった。そしたら思ったより盛大に吹っ飛んで池に落ちたという。
そして婚約破棄されて父の元に来て。私はとっても幸せものだ。と言っていた。カイン(父)のおかげで私は周りに感謝することができるようになったの。
と照れ照れと惚気まで聞かされてしまった。
幸せそうな両親を思い出しふっと笑う。
拝啓、お父さん。お母さん。
私は元気です。なんか1回私に絡まないと気が済まないイケメンたちが言いたい放題言ってくけどそれ以降は何もしてこないので特に害はありません。ただ友達もできません。早く領地に帰りたいです。
とここまで、書いて手を止めてくしゃくしゃと紙を丸めた。
こんな手紙かいて心配させ悲しませたくない。