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捨てる理屈と、拾う屁理屈

ミイア達と和解した日の翌朝。

ナナがギルドへ向かうともうすでにミイア達は揃っていた。


ちなみにニアンはあと4日は帰ってこないので、ナナは【猫の毛づくろい亭】での時間をフォルテと共にお風呂を楽しんだり、アイマーと魔法の練習をしたりして過ごしている。

日中も宿でじっとしているように言われているが、タダ飯喰らいをすることに耐えられないナナは、昨日ミイア達と約束したこともあり、今日も元気に冒険者ギルドにやってきたのだ。


「おはよう! もうみんな来てたんだ。ごめんね、待った?」


ナナは手を振ってミイア達に近付く。

ナナの声にミイア達は振り向いて手を振り返す。


「おはようございます、ナナ! わたくし達も先ほど来たばかりですわ」

「おはよう、ナナ!」

「おはようございます、ナナ」


そう返すミイア、アレン、リアムの3人。


昨日、ナナに救出された直後は、3人ともナナを崇めるかのように『ナナ様』と敬称を付けて呼んでいたのだが、ナナが必死に説得して呼び捨てにするよう変えてもらった。

その代償に、ナナも3人を呼び捨てにすることになっている。


(うん! ミイアもアレンもリアムも、元気そうだね、よかったよかった!)


やる気に満ち溢れている3人の様子を見て、一晩経ってもあの恐怖が再発していないことを確認し、ナナは安堵した。


ミイアは時間がもったいないとでも言うように、行動開始を提案する。


「では早速、受ける依頼を決めに行きましょう」


「うん! まずはこれから1週間、レベル上げできる依頼を集中的に受けるんだよね!」


昨日のこと。

ナナはミイアから、このアバト領を揺るがそうとしている悪い貴族がいることを聞いた。

ミイアはその貴族のことをロリコン野郎と口汚く罵っていたが、どうやら40を過ぎているにもかかわらず、まだ少女であるミイアのことを、舐め回すように見たり、繰り返し結婚を迫ったりして来るような困ったというか、鬱陶しい小太りの男らしい。


(うーん、それぐらいならまあ、そこまで忌避するほどでもないけど、そういうのは人それぞれだもんね。

うん、相手が嫌がることをしちゃダメだよ、ロリコン野郎君も。

もっと自分を磨いて、正面からアプローチしなきゃ)


……アイマーが頭部に生えたことでOSSAN耐性が大幅アップし、もはや男性の許容範囲がガバガバになっているナナ。

ミデールに脳内でアドバイスをしているが、仮にミデールがその言いつけを守って自分磨きした上で正面からナナに求愛した場合、はたしてナナはその好意を受け入れるのか……?


い、いや、話がそれたようだ。


とにかくそのミデールという男がミイアの弟のテオを魔道具で洗脳し、いずれアバト領を乗っ取る算段を立てているとのことだった。

もちろんそれを知ったミイアは父であるアバト領主に報告したが、全く信じてもらえなかったそうだ。


そこでミイアは冒険者となり、レベルを上げてミデールを現行犯逮捕することにした。

できるだけ目撃者も用意することで、自分の言葉だけでなく、多数の大人の証言を得ようというのだ。


『ふむ、確かに。現時点で証拠を得られぬ状況で、犯行の日取りも確定しているのであれば、現行犯で押さえるのは効果的であろう。

だが、リスクは大きいぞ。

制圧できなければそのテオとやらは洗脳されてしまうのだからな』


アイマーもミイアの案に賛同するが、同時にリスクが高いこともナナに告げた。


『うん、私達も協力して、できるだけミイアの力になってあげようね!』


『まあ、そうだな。娘の友人のピンチとあらば、手を貸さぬ理由などあるまい。

では、それまでにできる限りレベル上げをするのがよかろう。

最後に物を言うのは力であるからのう』


『そうだね! ありがと!』


そしてナナとアイマーは、ミイアに協力することを決意したのだった。


その後4人で話し合った通り、今日から1週間は魔物討伐の依頼を中心に受けて、経験値と報酬を稼ぐ予定だ。

ナナはニアンのパーティに所属しているが、一時的にミイアのパーティに仮加入した状態になって行動することとなった。

冒険者の間ではよくある事らしい。


4人は依頼掲示板の前に移動し、依頼を見て回る。


「やっぱり昨日のこともあるし、できるだけレベルに見合った依頼がいいよね?」


ナナはそう言いながら、そういえば昨日戦ったことで自分のレベルに変化があったのかを確かめるために、自身にバケツ【深淵なる節食】の装備スキル【解析】を使用する。



◆名前:ナナ・カンザキ ◆種族:人族? ◆性別:女

◆年齢:12歳 ◆出身地:日本 ◆職業:Eランク冒険者

◆状態:衰弱(極)

◆レベル:8

◆HP:156/156 ◆MP:246/246

◆筋力:28 ◆敏捷力:76 ◆器用さ:31

◆知力:141 ◆魔力効率:25

◆運:932

◆魔法属性:空、無、水、風、土

◆スキル:気配操作、気配探知、時空間転移(使用不可)、分裂体(ERROR)、伝心、無限収納(装備)、解析(装備)、魔力遮断、魔力探知、双剣術

◆称号:来訪者、適合者、バケツ姫



(やったぁ! レベルが1つ上がってる!

ステータスもちょっとずつ上がってるみたい。

あ、魔法属性も増えてる!

水と風はシャワーとかドライヤーの魔法使ってるからっぽいね。

土は……ボディソープとかで鉱物由来の材料使ってるからかなぁ。

双剣術も増えてる! これってスキル扱いなんだね――

って称号の【バケツ姫】ってなんだよぉ!)


ナナは向上しているステータスに喜びながらも、称号欄に増えた謎の【バケツ姫】にツッコんだ。


「そうですわね。でしたらレベルをお伝えしておきましょう。

わたくしのレベルは13、アレンが11、リアムが15ですわ。

ナナのレベルはおいくつですの?

あの戦いぶりですもの。相当高そうですわね!」


そう言ってミイアは瞳をキラキラとさせている。

よく見ると、ミイアだけでなく、アレンやリアムも興味津々なようだ。


「あ、あの、あんまり人前で言うなって言われているから小声で……」


そう言ってナナは3人に顔を近づけさせ、気まずそうに小声で告げる。


「期待させちゃったみたいでごめんね、私のレベルはまだ8だよ」


「「「…………ぇえええ⁉」」」


3人の驚きの声がギルド内に響く。

一気に視線を集めた4人は、あわててぺこぺこと周囲に謝り、なんでもないことを主張して事なきを得た。


「で、でも、実際にあの強さだったのですもの。レベルはあくまでも目安と言いますから、今回は私達3人の平均レベルに合わせた依頼を受けましょう。

ナナもそれでいいかしら?」


「そうだね、うん、魔物が相手なら大丈夫だと思うよ」


「では決まりですね。……でしたら、コレはどうかしら?

この魔物なら戦ったこともありますし、森のさほど深くない辺りに生息していますので、前回みたいな危険は少ないと思いますわ」


そう言ってミイアが指さしたのはフォレストボア3匹の討伐依頼だった。


「ボア……イノシシかな? うん、良さそう。受けてみよっか!」


そう言ってナナが依頼をボードから剝がそうとした時。


「おねがい! このままじゃ、おにいちゃんたち、しんじゃう‼」


受付の方向から悲痛な叫び声が聞こえてきた。

ナナとミイアはそちらに視線を向ける。

冒険者ギルドの受付嬢であるシイナの前で、5歳ぐらいの幼女が涙を浮かべて必死に頼み込んでいる姿が見える。

幼女は若菜色の長い髪を持ち、服装は麻のような生成りのくたびれたワンピースに、革をなめしたボロボロの靴をはいている。

髪の色はともかく、服装はアバトでは見かけない風体のようだ。


ナナは思わずシイナの様子を伺う。

あんなに幼い少女が、兄の身を案じて何らかの依頼を出そうとしているのだ。


(シイナさんなら悪いようにはしないよね?)


だが、幼女の懇願も虚しく、シイナは首を横に振る。


「お気持ちはわかりますが、あなたのお話だとお兄さん達をさらったのは大勢の盗賊だったのですよね?

でしたら、救出はかなり難しい任務になります。

持ってきてくれたこの報酬だけでは足りないのです。

残念なのですが、これも規則です。

これでは依頼を受けることができません」


そういってシイナは目を伏せた。

よく見るとカウンターの上には少額のお金と、古びた鍋やお玉が置かれている。

きっと幼女が、家からお金になりそうなものをかき集めてきたのだろう。


幼女はシイナのその言葉を聞いて、親に捨てられたかのような悲壮な表情になる。

そして近くにいる冒険者たちの顔を見る。

目が合った冒険者達は皆、首を横に振りながら、申し訳なさそうに目を逸らす。

それを見た少女は涙を流し、うつむく。


だが、ギュッと手を握り締めて、そのまま決死の形相でギルドを飛び出し、北門の方角へと走り去った。


ナナとミイアは顔を見合わせて頷く。

そしてすぐにシイナの元へ走り、受付に置き忘れられた幼女の荷物を受け取ると、幼女を追いかけた。

突然の2人の動きに取り残された男子2名はしばらくぽかんとしていたが、慌ててナナ達を追いかけた。


数分後、ナナ達はなんとか街の中で幼女に追いつくことができた。

幼女を呼び止め、受付に置いていったお金と調理器具を返し、そして詳しい事情を尋ねる。

幼女は驚きながらも、おずおずと話し始めた。


ナナ達が幼女から聞き出せた事情は、かなり凄惨な内容だった。


幼女曰く、5日ほど前、幼女が住んでいるハンナ村が盗賊団に占拠され、村人が10人程さらわれてしまった。

その中に幼女の兄も含まれていた。

幼女の両親は他界しており、兄と2人暮らしだったため、他に頼れる肉親もいない。

村の大人達は盗賊団に怯えているのか、家から出ようとしない。

村には衛兵が駐在していないため、事件後すぐ、1人で街道伝いに夜通し歩いて、なんとかアバトまで助けを求めに来た。

親切な門番が助言してくれて、騎士団は今すごく忙しくて相手をしてもらえないから、冒険者ギルドに助けを求めた方が良いと言われた。

だから冒険者ギルドの場所を聞いて、どうにか辿り着いて受付で相談したが、報酬がないから依頼は受けられないと言われた。

お金があれば依頼を受けてもらえると思って、急いでハンナ村に戻り、家に残されていたありったけのお金と、お金になりそうな金属製の調理器具を持って、再びアバトの冒険者ギルドまでやってきた。

だが、それでも額が足りず、依頼を出せなかった。


ナナ達が冒険者ギルドで聞いた幼女の悲痛な叫びは、この2度目の依頼のやり取りだったようだ。


大きな翠色の瞳から大粒の涙を流しながら語る幼女。

煤けている上にやつれているが、健康な状態であればかなり整った顔立ちをしている。


「――ひどい。こんなの、絶対に許さない!」


ナナはしゃがんで幼女を抱き締め、その小さな頭をそっと撫でた。

幼女の身体は骨ばっており、栄養が足りていないのか動きがふらついている。


(こんなに瘦せ細って……ろくに食べ物も無い中で、こんなに幼い子が1日かかる距離を何度も往復したんだよね。

お兄ちゃんを助けたい一心で。

……もう大丈夫、あなたの願いは届いたよ!

私が絶対に何とかしてあげる!)


そして微笑みながら、優しい声で告げる。


「もう大丈夫、私達があなたの依頼を受け――」


「駄目ですわ」


だが、ナナの言葉はミイアによって遮られた。


ナナの抱擁によって落ち着きつつあった幼女の身体がビクリとひきつる。


ミイアの突き放すような物言いに驚いたナナは、目を見開いてミイアを凝視した。


ミイアはナナから視線を外し、幼女に向かって言葉を続ける。


「この子の事情は、わたくし達には関係がないでしょう。

助ける義理はありませんわ。

なにより、わたくし達は冒険者ギルドに所属する冒険者なのです。

ギルドの規則で、冒険者は依頼人から直接依頼を受けることはできませんわ。

もし仮に、わたくし達がギルドを通さずにこの子の依頼を受けた場合、わたくし達が罰を受けることになってしまいますわ。

ですから、わたくし達はこの子の依頼を受けることはできませんの」


そう言ってミイアは幼女からも視線を外し、明後日の方角を見る。


ナナによって目に光を取り戻しつつあった幼女の身体から、力が抜けていく。

淡い希望を何度も打ち砕かれ、今度こそ絶望し、生きる希望をも失くしつつあるのだ。


ナナは幼女を安心させるため、その身体を優しくさすりながら、ミイアを見つめる瞳に怒りの炎を灯らせた。


だが、その炎は続くミイアの言葉によって霧散する。


「……ここからは独り言です。すぅーはぁ。

それにしても最近色々あって疲れましたわ。

そうですわ! わたくしは今、とても癒しを求めていますのよ!

そう、こんな騒々しい街中ではなく、農村の穏やかな景色が見たい気分ですわ!

ナナとアレンとリアムも連れて、久しぶりにハンナ村に遊びに行きましょう!

どこかにハンナ村への道を知っている人はいないかしら。

依頼人から冒険者が直接依頼を受けてはいけませんが、冒険者が依頼してはならないなんて、そんな決まりはありませんものね。

あなた……そういえば、あなたのお名前は?」


若干頬を赤く染めたミイアが、そっけない感じで屁理屈をこね始めた。

ミイアの意図を理解したナナに満面の笑みが浮かぶ。

幼女の方はミイアの言葉を全部理解できていないものの、どうやらその雰囲気からまだ可能性が残されていることを感じたようだ。

それでもまた抱いた希望を捨てられることを恐れて、身を震わせながら答える。


「……れに」


「そう、レニ。わたくし、レニに依頼したいことがありますの。

わたくし達をハンナ村まで案内していただけるかしら。

代金として……あら、手持ちのお金が無いですわね。

うーん、仕方がありませんわ。

ではお金の代わりに、あなたのお兄さんを探して差し上げるというのはどうでしょう?」


「……え? おねえちゃん、れにのおにいちゃんをたすけてくれるの?」


「レニ、あなたは賢い子ですね。でもそうではありません。

お願いをしているのは、わたくしですわ。

レニがわたくし達をハンナ村に案内してくれたら、お礼にレニのお兄さんを探して差し上げるのです。

わたくしの依頼、受けてくださるかしら?」


ミイアの言葉に、レニは瞳を輝かせて答える。


「……⁉ うん! れに、むらまでのみち、わかるよ! れに、あんない、できるよ!」


ナナの腕の中で、力を取り戻したレニがはしゃぐ。


「ちょっと疑っちゃった。ごめんねミイア、大好き!」


ナナは片手でレニを抱いたまま、もう一方の手を離してミイアの手を掴んで引き寄せ、強引にミイアも抱き締めた。


「なななにをしますのナナ!

わたくしはただハンナ村に癒しを求めているだけですわぁ!」


「あ。照れてる。可愛いよ、ミイアっ♪」


「わ、わわわわ、わたくしは照れてなんていませんわですのよおおおおお⁉」


「うんうん、私もハンナ村が見たーい! 優しいミイアとハンナ村に行きたーい!」


すでに若干赤かったミイアの顔が、どんどんリンゴのように真っ赤に染まっていく。


「あ、あの! ありがと、みいあおねえちゃん、ななおねえちゃん!」


レニの上目遣いに、ミイアとナナのハートは鷲掴みにされた。

いや出会った最初から鷲掴みにされているからこその2人の言動であったのだが、ついに抑えが効かなくなったようだ。


「ナナだけ、ずるいですわ」


そう言ってミイアはナナに抱かれたまま器用に姿勢を変え、優しくレニを抱き寄せた。


3人が抱き合う様子を見て、アレンが真剣な顔のまま小声で呟く。


「あれ? ここ天国っす? なあリアム、俺死んだっす? 天使っす、天使が3人もいるっすよ?」


アレンのたわけた発言に、常識人のリアムが呆れた顔でツッコむ。


「何を言っているんですか、違います。地上に天使様方が降臨なさっているのですよ」


……唯一の常識人枠と思われていたリアムだったが、どうやらそうでもなかったようだ。


(……阿呆かこやつら。まあ、天使のようであることは間違いないが)


事態を傍観しているアイマーだけが、心の中で唯一常識的?なツッコミを入れていた。


抱き合う3人の少女達と、それを見守りつつ小声でささやき合う2人の少年達。


噂の黒髪のバケツ姫に、有名な赤髪の領主の娘を含んだその一団の様子は、当然ながら街の人々に遠巻きにされてばっちり注目され、新情報として拡散されていく。



    ◇


ponの小説を読んでくださってありがとうございます!

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