武器選定③
「――ふ、ふふふ、ぶわははは‼ いいねえ、いいじゃねーか‼
おいニアン‼ この嬢ちゃん一体何もんだ?」
沈黙を破って上機嫌に笑い始めたのはガルフ自身だった。
彼は考えるのをやめた。
そしてニアンに答えを求めた。
ガルフは生粋の脳筋であった。
自分でも本当に脳が筋肉でできちゃってるんじゃないかと少し思っちゃうぐらいには脳筋だった。
蓄積された経験を活かして若い奴らに助言を与えるのは得意だったが、それすらも脊髄反射のような感覚でやっているのだ。
故に考えるのはあまり得意ではない。(注:自分の脳が筋肉というのはガルフの勘違いです。ガルフに限らず、脳が筋肉でできている人はいません)
「ふ、ふふっ……すごいだろう。
ナナは剣を持ったこともないが才能の塊だ。
ガルフ、いくらアンタでも、油断していると足元をすくわれるぞ。
まあかく言う俺も正直びっくりしている真っ最中だけどな!」
ニアンは動揺を隠しきれない様子でガルフに答える。
彼は自分でも言っているがすごくびっくりしていた。
最初にナナが木剣を振った時の剣速は異常だった。
その剣先に一切のブレもなかった。
型は読み取れなかったが、明らかに達人級だ。
そしてそのことに驚いている間にさらなる驚愕のバーゲンセールが開催された。
その姿を見失う程の急加速からの回転連撃。
相手が熟練のガルフでなければ、木剣とは言え再起不能のダメージを負っていた可能性すらある。
ニアンはガルフに声をかけられるまで、口をあんぐり開けて固まっていたぐらいにはびっくりしていた。
「はっ! おもしれーじゃねーか!
おい嬢ちゃん、スキルも使って構わねーから、全力でかかってこい。
俺も本気でガードしてやる。
一発でも入れることができたら、武器代おごってやるよ!」
ガルフがそう言った瞬間、ニアンとガルフのやり取りをオロオロしながら見ていたナナの目が光った……ように見えた。
「それ、本当? 本当におごってくれるの?」
「ん? なんだ身なりの割に金に飢えているのか?
まかせろ、一番欲しい武器買ってやるよ!
ただし、このガルフ様に一発入れられたら、だ!」
(私の力が認められたら武器の代金をおごってもらえる……ほほう。
すでにスキル【気配操作】をちょっと使っちゃってたのはノーカウントだよね。
使っちゃだめって知らなかったからセーフだよね!)
ナナは少ない予算で生活をやり繰りしてきた経験から、お金の大切さは身に染みて理解していた。
いくらニアンが面倒を見ると言ってくれているとはいえ、高そうな武器を買ってもらうことには抵抗があったのだ。
だがしかし、自分の力で武器代を勝ち取れるというのなら、そこに躊躇はない。
「分かった! それじゃあ、本気で行きます!」
「おう! 来い‼」
ナナが再び構える。
そして――
≪ザザッ‼≫
再度ナナが一瞬でその小柄な身体を急加速させ、ガルフの足元に潜り込み、跳躍の準備態勢をとる。
「はっ、同じ技か!」
ガルフも今度は驚かず、余裕をもって防御態勢をとる。
≪ガガガガガガガキィイイイイイイイン‼≫
「なんだ嬢ちゃん、その技を打てるのはすげーが、同じ技が何度も通じるほど俺は耄碌しちゃいねーぞ!」
ナナの繰り出した技がガルフによって全て防がれる。
しかし、ナナは想定通りとでもいうように空中でスキルを発動させる。
(【気配操作】‼)
「なっ⁉」
刹那、ナナの姿が消えるとともに4体のナナがガルフの対角4方向に現れ、そのそれぞれが先ほどのナナと同じ竜巻のような斬撃を放つ。
「ぐおおおっ⁉」
ガルフはその包囲を切り抜けるため、とっさに右斜め前方のナナに剣の腹を向けて突進する。
ナナの分身の攻撃とガルフの大剣が衝突するかと思われたその瞬間。
いきなりナナの分身が掻き消え、勢いを殺し損ねたガルフがたたらを踏んだ。
≪トンッ≫
その首に、後ろから軽く木剣が当てられる。
驚いてガルフが振り返ると、いつの間にか他の分身体も消えており、そこには木剣をガルフの首筋に当てたナナが静かに佇んでいた。
「――ま、まいった」
ガルフの敗北宣言を確認したナナは、ホッと肩の力を抜き、ガルフの首から剣を離した。
ナナの身体がふらつく。
(えっ? っく!)
倒れる前になんとか踏みとどまったものの、ナナは突然のことに困惑した。
ナナは地球でのこれまでの人生で、めまいを経験したことがなかった。
ピラステアに来てから時折発症するこの症状は何だろうか。
(やっぱり、私どこか衰弱しているのかな……)
しかし周囲はナナのその様子に気が付かない。
「「「「「――う、うおおおおおおおおおおおお‼」」」」」
割れんばかりの歓声が、訓練場に巻き起こった。
「すげーじゃねーか嬢ちゃん‼」
「ガルフの爺さんが、ちっこい嬢ちゃんに負かされたぞおおおお‼」
「おおおお! 嬢ちゃん何者だああああ‼」
見物客や冒険者が一斉にナナの周りに集まってくる――が、その動きが不自然にピタリと止まる。
彼らとナナの距離は五メートルを切っていた。
「そこまでだ。ナナは俺の連れなんだ。詮索はよしてもらおう。
もしどうしても気になるなら――俺がこの剣で話し相手をしてやるが?」
(((((剣使ってお話しって何ぃ‼)))))
興味のままに押し寄せようとしていた彼らは心の中で叫び、青ざめた。
彼らの前には、半分抜いた剣と共に強烈な威圧を放っている、ニアンが立っていた。
ニアンはナナを支え、かばいながらナナの身を守れるよう位置取っている。
固まったままだった冒険者の1人がなんとか口を開く。
「い、いや。お前さんの連れだって知らなかったもんだから、ついな。
だ、大丈夫だ、俺たちゃ、お前さんの連れに手を出すほど馬鹿じゃねーよ!
な、なぁ、お前たち‼」
「「「「「お、おう! その通りだ‼」」」」」
SSランクのギルドマスターの弟子でもあり、若干18歳にしてAランクに到達した凄腕冒険者であるニアンの名は、この街では知らぬものがいない程度には知れ渡っている。
その実力も本物で、ここで見物をしている連中では全員でかかっても絶対に勝てない。
そんなニアンに威圧されたかわいそうな見物客や冒険者たちが縮みあがったとして、誰も責められないだろう。
「ほーれ散った散った!」
ガルフの大音声で人だかりが散り、訓練場は徐々に普段の姿に戻っていく。
その様子をジトっとした目で見ながら、ニアンはナナにしか聞こえないくらい小さな声で問いかける。
「ナナ、ふらついていたようだが、大丈夫か?」
(さすがニアン、よく見てくれてる!)
よりニアンへの尊敬の念を深めながらナナは首肯する。
「うん。もう大丈夫だよ。回転しすぎて、目が回っちゃったのかな」
「そう、か。ならいいが、くれぐれも無理はするなよ」
ナナの答えにニアンは納得いかないようだったが、すぐに切り替え、注意を促す。
「うん! 大丈夫、無理はしないよ。心配してくれてありがとう」
ナナが満面の笑みでニアンに応え、2人の間に柔らかい空気が漂う。
微笑みあっていた2人を現実に戻したのは、武器を片付けて戻ってきてニヤニヤしているガルフだった。
快活な声が2人の間の空気を霧散させる。
「うし! じゃ、約束しちまったからな。武器はおごってやる!
今から冒険者ギルドへ登録に行くんだろ?
俺は大体ここにいるから、そのあとにでも買いに行くか!」
そう言ってニカっと人の好い笑みを浮かべたガルフを見て、ナナとニアンは我に返った。
そして照れ隠しにお礼を言い、冒険者ギルドへ向かうのだった。
◇
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