武器選定②
「とりあえず、嬢ちゃんの好きな武器で切りかかってこい」
ガルフに連れてこられた訓練場の一角には、壁際に様々な形状の木製武器が立て掛けられていた。
ガルフはその武器を指し示し、ナナに選べと言っている。
(好きな武器って言われても……あっ)
少し悩んだナナだったが、すぐに先程の輝かしい未来像を思い出した。
そして少しウキウキしながら、短めの片刃剣を2本、つまり先ほどのガルフと同じ双剣を手に取った。
(――これ、木製なのに見た目よりかなり重い! 片手で1本ずつ持てるかなあ)
手にした木剣を真剣な眼差しで見つめ、ナナは思案した。
まだ何の訓練もしていない自分には、無茶なのかもしれない。
ナナはそっとニアンの表情を伺う。
「片刃剣2本か。
さっきのガルフみたいに扱えれば攻守共に優れた武器だ。
ただ、片刃の剣は1本でも扱いが難しい。
それを2本となると初心者向きとは言えないかな。
でもまあ最初だ。うまくいかなくてもいいから、試してみるといいんじゃないか?」
ナナの視線に気づいたニアンが双剣について説明した。
そして、ニアンの説明を聞いていたガルフからも声がかかる。
「ほぉ。俺の戦いを見てたのか?
双剣はコツが要るんだが、まあニアンの言う通り、合わなきゃ変えりゃあいい。
とりあえず全力でかかってこい!」
ガルフは大振りの両手剣を構え、ナナの動きに備える。
上級者としての余裕は見て取れるが、その動作には一切の隙が無い。
「はい!」
ナナは良く通る凛とした声で答えた。
そして壁際から離れ、ガルフの正面に移動した。
見慣れない少女が武器を持ち、ガルフの前に立ったことで、周囲の冒険者や見物客の注目が集まる。
「おいおいなんでバケツ被ってんだ? そんなもん兜の代わりにはなんねーぞー!」
「誰だ? 見た事ねえ嬢ちゃんだな。あんな細い腕で戦う気か?」
「おい見ろ、双剣なんか持ってるぞ? どこのお嬢様だぁ? 怪我する前に帰んな!」
「嬢ちゃんあぶねーぞー! せめて1本にしとけー!」
「嬢ちゃんなら、弓の方がいいんじゃねーか!」
と、ナナをからかったり心配したりする声が聞こえてくる。
が、ナナは気にせずに集中する。
(失敗しても大丈夫。
でもやっぱり木剣がちょっと重いかも。
あ、そうだ。魔王が言うには武器を自分の一部にすればいいんだっけ。
といってもどうやって……【気配操作】で剣にも私の気配をまとわせればいいのかな)
刹那、ナナの両腕にずっしりと感じられていた木剣の重みが、ふっと軽くなった。
というより一切の重量を感じない。
ナナは思わず両手に持つ木剣を見つめる。
2本の剣は相変わらずそこにある。
ナナは試しに、右手の木剣を正面左上から右下まで軽く振ってみた。
≪ビュン!≫
想像よりかなり高い風切り音が聞こえた。
「「「「「――っ⁉」」」」」
心なしか、周囲の喧騒が鎮まったように感じた。
ナナはその後も何度か左右の木剣を振ってみたが、重量に振り回されたり、違和感を覚えたりすることもないようだ。
まるで自分の腕の延長のように自在に扱える。
『うん! これなら! シミュレーション通りに動けばいいよね!』
『――お主まさか、武器の自己延長化を成し遂げたのか⁉
ふ、ふはははは! お主には本当に驚かされる。
無論、やってみるがよい。お主ならば成功させるであろうが、な』
ナナは先程目にした双剣の構えを脳内に呼び起こす。
アイマーも驚きつつだがナナの作戦に合意した。
ちなみにナナを見守るアイマーであるが、彼はナナが引き起こす信じられない事態について、既にけっこう慣れて耐性ができていた。
これぐらいの事であれば笑って済ませられるのだ。
まあそのせいでナナが常識はずれな事態を引き起こすことを、彼は阻止できないのだが。
(よし、魔王もOKくれたし、イケる!)
ナナはまっすぐにガルフを捉え、構えた。
一連の動作を見ていたガルフが、ニヤリと笑みを深める。
「これは……ほほう。いつでもかかってきな。
それにしてもやるじゃねえか。
剣速は十分。構えも随分、堂に入っ――」
≪ザザッ‼≫
ナナは一瞬でその身体を急加速させ、まっすぐにガルフの足元に潜り込む。
ガルフは驚いたように目を見張る。
「――なっ⁉」
しかし、引退したとは言えさすがは元熟練の冒険者。
動揺しつつも隙が現れることはなかった。
大剣をやや自分の身体に引き寄せ、防御態勢をとる。
――そして次の瞬間。
≪ガガガガガガガキィイイイイイイイン‼≫
「ぐぬぅっ⁉」
ガルフの巨体が、勢いよく土煙を上げて後方に滑る。
ナナ達のことを見ていた見物客や冒険者たちが、そしてガルフ自身も、大きく目を見開いた。
ガルフは己が目に映った信じがたい光景を思い返す。
黒髪の少女が熟練の双剣使いがみせるような構えをとった後、体重移動を駆使して瞬時に加速し、次の瞬間には自分の足元で跳躍体勢に入っていた。
そして、自らの身体を竜巻のように高速回転させつつ、両手に持つ木剣の刃で連続攻撃を仕掛けて来たのだ。
その無数の斬撃は回転中にも関わらず、そのすべての刃が正確にガルフの方向を捉えていた。
ガルフは知っていた。
ナナが見せた動きは、彼自身が直前の戦いで使用した高等技そのものである。
スキルではなく、純粋な技量のみで繰り出す剣技だ。
もちろん、初心者が真似してどうこうできるようなものではない。
だが、目の前にいるバケツを被った珍妙な少女は、それをやってのけたのだ。
なんだあのバケツは、とちょっと言いたくなったがそれどころではなかった。
少女がガルフの前に立つまでの体運びには、戦闘経験のある者特有の動きは全くと言っていいほど見受けられなかった。
どこからどうみても、明らかに初心者だったはずだ。
あるいはそう装うことができるほどの手練れか……。
そこまで考えてガルフは首を振る。
あの歳の少女にそんな真似ができるわけはない。
もしやニアンのような鬼才の類いだろうか。
ナナという名のその少女は、両手の木剣を下げて半身で立ち、ガルフを見つめている。
「「「「「………」」」」」
訓練場全体が沈黙に包まれていた。
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