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無限収納③

ニアンはテーブルに出現した金貨を手に取り、詳しく確認する。


さすがに一枚一枚の見分けがつくわけではないが、確かにルビウス王国で使用されている金貨である。

おそらくニアンが渡した数枚、そのものだ。


「てっきりバケツのどこかが蓋になっていて、その中に小物を収納できるスペースがあるとか、そういうものだと思っていたんだが……ほ、本当に収納しているのか?」


「うん、たぶん。自分でも不思議だけど。

……もしかして、なにか変なことをしちゃった?」


ナナはニアンが何に驚いているのかわからず、自分が何かまずいことをやらかしたのではないかと不安になる。


ナナにとってももちろん、【深淵なる節食】の機能は理解できるものではない。

とはいえ異世界ならそういうこともあるのかなーと、考えなしに受け入れてしまっていたのだ。


だが、ニアンの反応を見て、自分の認識がどこか間違っているということには気づいた。


「変も何も……バケツに、入れる、動作、やってない……だろ?」


ニアン自身も頭の中を整理できていないのか、とぎれとぎれに言葉を紡ぎ、手を頭に近づけるジェスチャーを交えて疑問点を説明する。


「あ、だって、収納したいと思ったモノを収納できる機能みたいだし」


「……触らずに、入れたり出したり、できるのか?」


「うん。……変、かな?」


「……少なくとも俺は、そんなモノの存在を聞いたことは無い。

俺もマジックバックは持っているが、あれだって、袋の口から入れる必要はある。

……いや、【罪マシ】に似た概念があったか……?」


「ツミマシ?……罪増し? え、なにそれ?

もしかして何か悪いことしちゃった⁉ 捕まっちゃう⁉」


『罪マシと言ったかぁあああああああ!

忘れておったわ。

そういえばこやつ、我に挑戦するためにわざわざ魔王城まで足を運ぶほどのツワモノ!

……今ここでヤっておくべきか』


『殺っちゃだめぇえええ』


【伝心】ごしに、アイマーの殺意……とはちょっと違うが、威圧のようなものを感じたナナ。

思わず彼の行動を阻止する。

どうやら、ニアンとアイマー、この2人の間には何かしらの因縁があるらしい。


必死そうに慌て出すナナを見て、ニアンは不思議そうな顔をする。


「ん? いや、なんで捕まるんだ?

【罪マシ】は別に違法ではないぞ。

昔から世界中で遊ばれているカードゲームだ。

だがまあ今は詳しいことは置いておくとして、そのカードの中に【4次元収納】っていうレアカードがあるんだ。

俺も図鑑で見たことがあるだけだが、見た目からは想像できないほど、どんな大きな物でも瞬時に出し入れできる装置らしい。

そんなものが現実に存在するなどにわかには信じがたいが……もしそのバケツが同じような概念の魔道具だとすると、見た目より大きなものを収納する力がある、ということで合っているか?」


『4次元で収納……どこかで聞いたことがあるような……?』


『ほほぅ……それを知っておるとは、やはりこやつ、侮れん。

そもそも【深淵なる暴食】は、【罪マシ】の【4次元収納】カードの概念にヒントを得て開発したものであるのだ!

【罪マシ】の世界観は素晴らしいぞ!

……ああ我の大事な【4次元収納】カード……なぜ燃えてしまったのだ……』


ナナとニアンのやり取りに、バケツの意外なルーツをポロリと明かすアイマーであったが、同時に自らが保有していたレアカードを失ったことを思い出し、失意の底に沈んでいく。


『魔王……まあいっか』


「うん、そう。

元々は違う目的の魔道具だったんだけど、ちょうどよか……ゴホンゴホン、事故、そう事故でたまたまそういう機能を持った魔道具に変わったの。

生き物は入らないけど、それ以外なら……たぶんなんでも入るよ」


ナナはアイマーをちょっと心配するも早々に救出を諦め、ニアンにバケツ誕生の経緯を(若干事実を湾曲しつつ)説明する。

ちなみにこの時、ここまでのニアンの反応から、【深淵なる節食】のような魔道具が珍しいものであると判断し、一応その容量については明言しないことにした。


「やはりそうか。

では、責任は俺がとる。

このベッドが入るか試してもらっていいか?」


「いいけど、取り出せなくなったら、ほんとにごめんね?」


ニアンの提案に、ナナは失敗した時に備えて一応事前に謝っておく。


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