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無限収納②

ニアンから(紛失しまってもいいモノ)を借りたナナは、リビングに戻ってきて、ソファーとニアン用のベッドに挟まれた木製のローテーブルの横に立つ。

ちなみに実験に付き合ってくれることになったニアンも、ナナの横に並んで立っている。


それはいいのだが、問題は、ニアンが貸してくれたモノだった。


ナナは自分の手のひらの上に載せたソレを見つめ、言う。


「ニアン、いきなり無理言ってごめんね。

でも……さすがに金貨は、まずくない?」


「いや、さっきのおひねりで小銭は使い切ってしまったんだ。

元々余計なものは持ってなかったから、そろえる手間を考えると旅の備品を消費するのも避けたい。

となると消去法でこうなる。

まあ、たとえ取り出せなくなっても問題ない。

もし取り出せたら、はぐれた時に備えてナナが持っていてくれ。

もちろん取り出せなくても別に渡そう」


「うん……そういうことなら……わかった。

でもね、お金は大切に扱わなきゃだよ?」


ナナはニアンの好意に感謝しつつも、お金をただのモノとして扱う行為には思うところがあるようだ。

限られた予算内で家計をやり繰りしていたナナは、お金に対して殊更シビアなのである。

そんなナナに対して、ニアンは誠実に対応する。


「ああ、わかっている。

相手がナナだから、信用して渡すんだ。安心してくれ」


「そっか、ありがとう。変なこと言ってごめんね」


納得したナナの態度が軟化したことを確認し、ニアンは気になっていたことを質問する。


「それより……その、バケツは逆さまだが、物を入れても落ちないのか?」


「うん、入れた物は落ちない……と思う。たぶん。

この機能はね、今まで使ったことがなくて、初めて試すから、うまく収納できるのか、そのあと取り出せるのか全然わからないの」


「なるほど、それで最近よくゴンゴン殴っ……調整してたのか」


ふむふむと頷きながら勝手に納得するニアンに、ちょっと申し訳なくなるナナ。


「で……どうやってそのバケツに物を入れるんだ?

俺は後ろを向いていた方がいいか?」


ナナが頭頂部を他人に見せてはいけない文化で育ったと思っているニアンが気を利かせる。


ナナはさらに申し訳ない気持ちになりながら、手のひらの上の金貨を見つめて答える。


「ううん。たぶん大丈夫。

このまま収納できると思うから」


「このままって……なっ⁉」


瞬間、ニアンは自分の目を疑った。


ナナの手のひらに置かれていた金貨が1枚、目の前で消失したのだ。


「やったぁ! 収納できた!

次は、取り出す実験だね!」


ナナは嬉しそうに空いている方の手でガッツポーズをとる。


「……え?」


ニアンは固まる。


「えっと、出すときはどうするんだっけ……?」


『取り出したいものをイメージするのだ。

収納した物は既に【解析】で情報取得済みとなっておるから、イメージするだけで、条件に合致するものが脳内に思い浮かぶはずだ。

あとは、出現させる場所を決めてから、取り出す、と念じればよい。

そのように組み上げておいた』


『なるほど、ありがと魔王!』


即座にフォローするアイマー。

こんな主体的な取扱説明書が地球にあれば、さぞかし便利だったことだろう。


「うーんと、金貨金貨……えい!」


≪ゴトッ≫


金貨がテーブルのすぐ上に出現し、そのまま落下する。

そして重さがしっかり伝わる低い音を立て、分厚い木製の天板に受け止められる。


「やったね! 取り出すのもできたよ!

うん、これ便利!」


実験に成功し、ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶナナ。

その姿は歳相応で愛らしい。


だが、普段なら真っ先にそのあたりに反応するニアンは、それどころではなかった。


「い、いやいやいやいや!

ま、まてナナ! 今一体何をした⁉」


「え? だから、バケツの収納機能を試す実験だよ? ほら」


そう言ってナナは、テーブルの上と、手のひらの上の金貨を全て、バケツに収納し、今度は全部きれいに重ねた状態で、テーブル上に音もなく出現させた。


目の前で消失と出現を繰り返す金貨を見て、ニアンはたじろぐ。


「⁉ そ、そんな、嘘だろ⁉」


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