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猫の毛づくろい亭③

≪ムギュゥウウウウ!!≫


「ナナ、様ぁ、急に、何、を~ ああ、ナナ様いい匂い~」


「はぅぁあああ~こ、こんなに愛らしい生き物が存在しているなんてぇ‼」


ナナはもう、それはもう容赦なく、フォルテに抱き着いて頬をすりすりした。

事前の確認に意味があったのかどうかは別として、フォルテもまんざらではないのか、されるがままになりつつ、くんかくんかとナナの匂いを嗅いでいる。


ナナは昔から可愛い生き物には目が無かった。

捨て猫と出会うような奇跡こそ起きなかったが、ホームセンターに併設されたペットショップに捕まったナナを連れ出すのは、兄や祖父にとって人生最大級の難易度を誇るミッションだったのだ。


目を潤ませながらも決して『飼いたい』とは言わない健気なナナ。

だがその大きな黒い瞳は、幼い動物たちの姿を映して離れなかった。


そんなナナの目の前に現れたのは、猫耳の愛らしい少女である。


そして、互いを遮るガラスウィンドウは存在しなかった。


さらに、事前に本人から許可も得た。(若干怪しいが)


こうなるのは必然であった。


「お、おい、ナナ?」


「あらあら、これは眼福ですわね」


あまりの事態に慌てるニアンをよそに、マロンは頬に手を当てて、うっとりとその様子を眺める。


「マ、マロンさんまで……はぁ。

まあこれだけ見眼麗しい2人だと見ごたえある……オ、オホン。

おひねり追加かな」


ニアンはまた硬貨を数枚とりだすのであった。


ちなみにこのフォルテもふもふタイムにて、バケツのツルの存在が問題となった。

少女2人の柔らかい肌に挟まった固い金属の感触に、ナナが不満そうに顔をしかめたのだ。


だがしかし、その金属は決して外すことができない最重要装備、【深淵なる摂食】(つまりバケツ)の一部である。


もしここで外してしまったら、愛らしいナナの頭部からにょっきり生えたイケオジのインパクトに、この場にいる全員のメンタルにダメージを与えること間違いなしだ。

そして至近距離でそれを目撃することになるフォルテに至っては、後遺症を患う可能性すらある。

PTSD、つまり心的外傷後ストレス障害である。


ナナは逡巡した。

フォルテにそんなつらい思いをさせるわけにはいかない。

しかし、このままではフォルテを存分に堪能できない!


どうする!

究極の選択か!?


と思われたその時、ナナはおもむろにツルを掴んでぐるんと回し、おでこの前にカチッと上げた。

そして手を放し、もふもふを再開する。


((あ、それ留められるのか。というかあご紐外しちゃっていいのか(いいのであるか)?))


バケツを外せないナナを案じていたニアンとアイマーの思考が、どうでもいいところでまた揃う。

彼らの思考は意外に似通った部分が多いのだろうか。

……まあ、2人ともナナに振り回されている結果、ともいえるかもしれないが。


2人の心配をよそに、バケツはすりすりふごふご動き回るナナの頭部から、全くずれない。

どうやら装備を外すという意思がナナにない限り、外れないようだ。


あご紐 (ツル)は外しておでこの位置で固定可能。

不思議なバケツの新たな機能(しょうもないが案外実用的)が判明した瞬間だった。



    ◇



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