アバト到着③
「おい! めっちゃくちゃ可愛いじゃねぇか‼ おぉん?
さてはニアン……彼女だな?
そうなんだろう。そうじゃないなら俺に紹介しろぉ‼
ふ、だがさすがの俺も、ダチの彼女に手を出すような趣味はねえ。
そんなことより、オメェにもようやく春が訪れてくれて俺はうれしいぜ‼
で? どこまで進んだんだ?」
予想外なセリフに、ナナの頭に『?』が浮かぶ。
たくさん浮かぶ。
バケツの無限収納でも収納できなくなるほど浮かぶ。
ニアンがナナに寄せる好意から、賢明な読者の方々はすでに察していただけているとは思うが、この世界では恋愛のスタート年齢が低い。
そもそも結婚適齢期が13~22歳ぐらいなのだ。
18歳前後の彼らにとって、12歳の少女は法的にも嗜好的にも、十分にドストライクゾーンである。
ロリコンと言うなかれ。
何を恥じらうこともなく、堂々と求愛すべき対象なのである。
それどころか、まだ幼いからと成長を待っていては、確実にライバルに奪われる。
「なっ⁉ おい、サイッ!
いきなり飛ばしたこと言うな!
そういうのは順序があるだろ!」
(かわいい、ニアン、かのじょ、……わたし?)
ニアンの慌てた声で我に返ったナナは、先ほどのサイの言葉を脳内で反芻し、徐々に赤くなっていった。
実はナナは恋愛には耐性がない。
兄の鉄壁のガードによって、ナナに群がる虫は徹底排除されていたのだ。
そのためその美貌にもかかわらず、ナナはこれまで異性から好意を伝えられたことが無かった。
ニアンを無視したサイが、耳まで真っ赤なナナに話しかけてくる。
「嬢ちゃん、こいつは異様に強い上に立派な立場もある。
おまけに……妙に紳士で見た目もいいときた。
つまりけっこう優良物件なんだ。
だから恨めしいほどよく女から言い寄られているんだが、女に興味が無いのか、取り付く島もなく全部断っていてな――」
「待てサイ。誤解されるようなことを言うな。
俺は女性に興味がないわけじゃない。
今まで俺に声をかけて来た女性の誰もが、俺の肩書だの外見だのが目的だと分かったから断っていたんだ!」
「へいへい、わかってんよ色男ぉ!
まあ理由はともかく、恋とか愛とかに極端なほど無縁な奴だったんだ。
そんな奴が嘘みたいに可愛い嬢ちゃんを、大事そうに連れ歩いてるときた!
そりゃあ、こいつにとって嬢ちゃんは普通の女の子じゃねぇんだろ。
いやぁ、俺も嬉しいぜ!
これからもニアンをよろしく頼んだぜ‼ 彼女さん」
突然の核爆弾投下に、ナナの文明的な思考能力は跡形もなく吹き飛んだ。
(ふぁ、かのじょさん……わたしが……)
しかしそこに救世主が現れる。
『か、彼女だとぉおおお⁉
まずは我に挨拶を通してからにせんかぁあああああ‼』
平常運転のアイマーである。
もちろんアイマーには、溺愛する娘に対して唐突に彼氏宣言をするような輩を許す度量は無い。
娘に頭で栽培されているくせに、厄介な父なのである。
アイマーのその言葉で『ハッ!』と我に返り、復活したナナ。
『ってまてまてええええい‼
危なかった! 納得しかけてた。
ありがとう、魔王! おかげで助かった。
とりあえず否定しないと!
サイさんの想像の中の私達がこれ以上大変なことになる前に‼
私はともかく、ニアンに申し訳ないもん!』
先ほどからニアンの抗議も虚しくまったく考えを変えないサイ。
でもさすがに初対面の自分の話くらいは聞いてくれるだろうと思い、ナナは勇気を振り絞って声を上げようとした。
「サイ、これ以上はやめてくれ。
そういうのは俺の口から告げたいんだ」
だがナナの言葉は口から出る直前、ニアンの発言が生み出した衝撃で押しとどめられた。
そして一方のサイは、目を丸くして呟いた。
「まさか……そんな……嘘だろ?
嘘だと言ってくれ」
次の瞬間、サイは頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
ナナの耳にサイのつぶやきが届く。
「予想以上だ。
ここまでこいつが恋愛下手だったとは……見ただけでわかるほどに信頼も好意も寄せ合っておいて、まだ告白もしてねーのかよ!」
ニアンとサイのやりとりを聞いて、ナナの脳内は再び処理能力を失う。
(ふぁ、ニアンの中でも、そっちで、確定なんだぁ、かのじょ、わたしが……ふぁああ)
ナナは動揺したまま固まり、ニアンはナナをかばうように前に立ちふさがる。
そしてサイは頭を抱えて地面にしゃがみ込んでいる。
はたから見たら、何かの修羅場かと思えるような光景だろう。
「おい、サイ。どうした、大丈夫か?
それで、街に入りたいんだが、通っていいのか?」
ニアンがそう声をかけると、我に返ったサイは立ち上がる。
「……ああ、すまねえな。大丈夫だ。
オ・マ・エ・は、大丈夫じゃねーがな! あとで説教してやる!
嬢ちゃんもすまねえ。
だが俺が言ったことは忘れなくてもいいぞ。
ちょっと早まっちまった感はあるが……だいたいその通りなんだからな。
ほら、門は通ってくれ。
ニアンは急ぎの報告があるんだろ?
また話聞かせろよ?」
そしてサイは門まで2人を案内し、そのまま一切のチェックもなく街の中に迎え入れ、そこで手を振って別れた。
あっけなく街に入ることができたナナ。
しかし、街のセキュリティ的にはちょっと心配になるレベルである。
まぁ、ニアンと共にいたから大丈夫だと判断されたのかもしれないが。
街の中には人族が多いが、獣人やエルフもおり、多種多様な人々が行き交っている。
その様子にぼんやり目を奪われていたナナだったが、その思考の大半を埋めるのはニアンであった。
(なんなの? もぅ、異世界ドキドキ!)
……とはいえそれは、異世界でも元の世界でも共通の、普通の恋愛話である。
◇ ◇ ◇
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