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アバト到着②

魔法修練のアドバイスに従う素直なナナにより、大量の暖かい水たまりを作りながら進む一行。

ほわほわと白い湯気を背負う彼らがなだらかな丘を登り切った時、ついに街らしきものが見えてきた。


「うーん、んん⁉ 見えた!

見えたよニアン! あれがアバトだよね!」


城壁に囲まれたその街を発見し、ナナは磨き上げられた黒曜石のような瞳をキラキラと輝かせ、ニアンに振り返って問いかける。

大草原にそびえ立つ城壁に囲まれた都市。

そんな冒険心溢れる光景に、ワクワクしているのだ。


ちなみに、中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーな景色にテンションを上げているナナだが、特にファンタジー好きというわけではない。

文芸部に所属していたこともあり、もちろん異世界ファンタジー系の小説も嗜んではいたが、そこに憧れを持っていたわけではないのだ。


そもそもナナが文芸部に入っていたのは、ナナが通う学校の文芸部の活動が緩かったというのが主な理由だ。

と言うと聞こえが悪いかもしれないが、ナナとしては当たり前の選択で、単純に家事や勉強との両立を狙ったのである。


運動部については、スポーツは得意だが特に好きだというわけでもなく、何より拘束時間が長いという理由で最初から除外していた。


その点、文芸部は基本的に自由だった。

作品の提出は任意であったし、ずっと読書をしていても良かった。

校内誌の印刷製本作業がある時期は忙しいが、作業は持ち回りだったので大きな負担にはならない。

それに、図書室に通って本を読み漁ることを習慣としていたナナにとって、その習慣をそのまま部活動の時間に変換できる文芸部は、まさに聖地だったのである。


ナナはそんな穏やかな部活動の時間に、たまたまヨーロッパ各地の古都の風景を収めた写真集を読んだことがあった。

その景色は日本で暮らしていたナナには衝撃的で、『いつかは行ってみたい!』と、密かに思っていたのだ。


ニアンは小躍りしているナナの様子に、思わず唇の端を上げて答える。


「ん? ああ、そうだ。見えてきたな。

ふふっ、ナナ、喜びすぎじゃないか?」


「だってだって‼ こんなすごい街、見たことないんだもん!

嬉しいんだよぉ。

それより、早く、早くいこうニアン!」


そう言ってナナは走り出す。

ここまで歩き通しだったにもかかわらず、底なしの体力である。

ニアンも苦笑しつつ、ナナを追って走り出した。



    ◇



衛兵がこちらに気づき歩み寄って来たのは、ナナとニアンがアバトの南門の手前、30メートルぐらいの距離ににさしかかった時だった。

時刻は昼過ぎで、衛兵の他に人影はない。

アバトの南側には街道がなく、この時間帯にこの門を利用する者はほとんどいないのだ。

朝か夕方であれば、依頼を受けた冒険者とすれ違うこともあったかもしれない。


城壁はすこし赤みがかったグレーの石造りで、高さは10メートルほど。

厚みは5メートルはある。

年季を感じさせる佇まいだが、ところどころに新しい傷跡が付けられている。

真新しく修復されている部分もあるが、多数の破損個所が放置されているところを見ると、補修作業が間に合っていないようだ。


(衛兵さんって、治安が悪い地域だとむしろ警戒すべき相手だったりするよね、大丈夫かな……)


突然の衛兵の行動に、ナナはどう対応すべきか判断できず不安になる。

ニアンがいてくれるので基本的には任せておけばいいが、ナナ自身が原因となってニアンに迷惑をかけるのは避けたい。

でも、ここは日本ではない。

衛兵が門を守っている街など見たこともないし、ましてその衛兵が自分たちに近寄ってくるという状況も経験したことがない。

このまま待っていていいのか、逃げるべきか……実際にどう動けばいいのかわからないのだ。


だがそんなナナの心中など構わずに、険しい表情の衛兵は大股で近づいてくる。

そして大声で話しかけてきた。


「おーい、ニアンじゃねえか!

今回は長い旅になるんじゃなかったのか?

なんか忘れ物でもしたのかぁ?」


どうやら衛兵はニアンと知り合いのようだ。

ナナはニアンの後ろに隠れながら、なんとなく顔を伏せる。

結局のところ、衛兵の対応はニアンに任せるのが吉と判断したのだ。


「いや、忘れ物ではないが……急いでギルドに報告したいことがあるんだ。

サイ、通してもらえるか?」


「おう! そりゃもちろん構わね……ッ⁉」


言葉が不自然に途切れたのを不思議に思い、ナナが顔を上げる――と、サイと呼ばれた衛兵とばっちり目が合った。

全身を革鎧で包み、その背丈を超える長さの槍を片手に、ナナを見下ろしている長身の青年。

刈上げて短髪ツーブロックにされた藍鉄色の髪からは快活な雰囲気を感じるが、その切れ長の琥珀色の目は笑っていない。


そして次の瞬間、放たれた言葉にナナの体が強張る。


「おい、待てニアン。

この嬢ちゃん……荷物持ちで雇ったポーターじゃねえな」


サイの眼が鋭く細められ、声も低く、怒気を帯びる。


ポーターというのは、冒険者のサポートをする役割の者で、主に荷物の運搬や連絡役を担当する。

ポーターの中には小柄な体格の者もいるが、その場合は体力に優れた獣人族であることが多い。

それに彼らは必ずと言っていいほど、体格に不釣り合いなバックパックを背負っている。

ナナのように小柄な人族で、鞄を持たない手ぶらな少女、という条件では、明らかにポーターには見えない。


実はどんなポーターよりも荷物運びが得意になれる装備、【深淵なる節食】というバケツを所有しているのだが……残念ながら現時点でのそれは、ただの怪しさ増し増しマシンとしてしか機能していない。


(ヤバい、何がヤバくてヤバくなったのかわからないけど、これはヤバい状況だよ!)


焦りで語彙力がヤバくなっているナナの脳裏を、警戒アラートが駆け抜ける。


ナナが持つ何らかの要素が、サイの警戒に引っかかったのだろうか。


街の住人ではない少女、異世界人、見慣れない服装、荷物を持たない少女、無一文、バケツ、そして頭頂部で魔王を栽培している。

簡単にはバレないモノから見たまんまのモノまで、違和感を与えるような要素は大小各種取り揃えてある。


ナナの背中に冷や汗が流れた。

サイの突き刺すような視線が恐ろしい。

何をされるのだろうか。

もしかして拘束されて牢屋にぶち込まれるのだろうか。


実際にはほんの数秒だが、悪い想像でナナが涙目になった時、ようやくサイが言葉を発する。


ponの小説を読んでくださってありがとうございます!

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