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月夜の密会②

「セカンドプランが、使えなくなったわ」


「……どういうことだ?」


美女が告げた内容に、青年は眉根をしかめる。


「どうせすぐ報告が上がるでしょうけど……アイマーが、戦死したの」


「っ⁉ 魔王が⁉ なぜだ!」


驚いた青年が美女に振り向き、声を大きくした。

近しい者の死を悼むようにうつむいていた美女だったが、青年の態度に怒りを込めた声色で答える。


「それはこっちが聞きたいわ。

これは、あなたの弟子、あの勇者の坊やの仕業よ!

あなたは知らないでしょうけど、アイマーは、あの子は!

望まぬ役を千年も全うした上に、覚悟を決めていたのよ!

それを……っ!」


「馬鹿な⁉

いくら魔王軍が攻めてきているとは言え、そんな指示は出していない!

それに、あいつじゃ魔王に手も足も出ないだろっ!」


青年は信じられない情報に戸惑い、それが起こり得ない理由を並び立てる。


「魔王軍の動きは聞いているわ。

……あの子、何を考えていたのかしら。

私もあの子が統治を完成させて以降、連絡を取っていなかったから……失態ね。

でも起きたことは事実よ。

なぜこうなったのか、はっきりさせてちょうだい。

場合によってはいくらあなたでも、償いを受けてもらうことになるわ」


「……わかった。すぐに確認する」


「とにかく、これで魔王の座は空席となったわ。

これでもう、何が何でもファーストプランを実行するしか手段がなくなったの。

……すでに彼女の魂のエネルギーは尽きかけている。

必ずどこかにいるはず。

早く、見つけるのよ」


うつむく青年にそう告げて、彼女は窓に近づく。

その時、彼女の身体がぐらりと揺れた。

気づいた青年が慌てて駆け寄り、倒れる直前に抱き止める。


「どうした⁉ 具合でも悪いのか⁉」


心配して顔を覗き込む青年に、美女は少し恥じらうように顔をそむけ、微笑む。


「ち、近いわよ。

……少し疲れが溜まっていたんでしょう。

ふふ、そんなに心配そうにしなくても、帰ったらきちんと休息をとるわ。

あなたこそ、ちゃんと休むのよ」


そう言って青年から離れた美女は、現れた時と同じ様にふわりと月明りの中へ消えた。

刹那、美女が立っていた位置にわずかに黒い焔がひらめき、闇に溶ける。


「黒焔……だと?」


残された青年は、美女の体温が残る手のひらを見つめ、強く握りしめた。



    ◇  ◇  ◇



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