千年の微睡
魔族領の最北端。
隣接するルビウス王国との国境付近には、木々がまばらな明るい森が広がっている。
その森のとある場所。
地下深くにて冷気で満たされた真っ暗な部屋。
地の奥底で誰にも知られることなく、長き時を眠り続けたその部屋に今、わずかに光が灯る。
どこかの謁見の間を彷彿とさせる僅かな青白い光が、その天井の四隅から零れ出したのだ。
そして浮かび上がる、部屋の中央に据え付けられた棺。
棺と言っても蓋は無く、その内部には照明の色のせいか、生きているかどうかも疑わしいほど青白い顔の男が横たわっていた。
男に生気はなく、呼吸している様子もない。
だが続いて起こった事象により、その状態は変化する。
棺の内側から溢れ出ていた冷気が弱まり、棺は男の身体に魔力を補充し始めたのだ。
まるでコールドスリープから目覚めるように、かすかな呼吸音が聞こえ始める。
それに合わせて上下に動く胸が、男が生きていることを物語っていた。
そして男の意識が浮上し始める。
(ああ、なんと………様。なぜ、私めを残し……です?)
男は永い間まどろんでいた。
その間、断片的に見る夢の中で、様々な情景を繰り返し味わっていた。
それは愛しき者への求愛であり、喪失に打ちのめされた嘆きであり、復讐に震える呪言であった。
……そして、男を封じていた魔法が効力を失う。
「……魔…様………絶対に……絶対に許すものですか」
男は目を覚ました。
僅かな笑みを湛えつつ、その瞳に浮かぶのは狂気に囚われた復讐の炎。
青銀の髪をかき分けて生えている捻じれた黒角からは、闇が凝縮されたかのような不気味な波動が放出されている。
その男、古き魔族であるサイラスは、ゆっくりと身を起こした。
そして、完全に覚醒した意識で言葉を紡ぐ。
「――さて、ようやくこの時が来ました。
真の救済を始めましょうか。
世界が滅びても贖いきれないほどの罪を、許して差し上げるのです。
誰もが光栄の極み、と哭いて歓ぶでしょう。
フフフ、そのためにも、まずは駒が必要ですね……」
憎しみの炎に焼かれた黄色く濁った瞳を歪めて、彼は嗤う。
薄暗い部屋の中で、不気味な嗤い声だけが木霊し、どこまでも怪しく響いていたのだった。
◇ ◇ ◇
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