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設備の稼働率を改善 01

とある工場で、日々起きている内容を描きます。

「また、停まった。」

和田は、舌打ちをしながら呼び出しのスイッチを押した。

最近変わった呼び出しの音楽が流れ、赤いランプが灯る。


直ぐにライン長が来て音楽を止めた。

「どうした。」ライン長が訊く。

「B28が停まったんです。」

「またか。」

そう言って、ライン長は赤いキノコ型のボタンを押して、機械の中に手を差し込んだ。


機械の中から部品を何個か取り出し、操作パネルをタッチして、機械の様子を見た。

「オーケー、じゃ、続けてくれ。」

そう言って、ライン長は戻っていった。


和田は、取り出された部品を機械の下に置かれた箱に捨て、作業を始めた。

2つの部品を組んで機械の入り口に置いて、スイッチを押す作業である。


「おい、相楽。今日も計画数を生産できなかったのか。」

そう言われたライン長の相良は、毎日の指摘にうんざりといった顔で、組長の三上を見た。

「B6、B19、B28の停止が多過ぎです。この3か所で、1時間半程のロスがでているんです。無理ですよ。」

「停止対策の改善をしないのか。」

「やってますよ。技術員の連中に頼んで、ワークガイドの形状を変えたり、エアー圧を最大まで上げたりしてるんです。でも、良くならないんです。」

「うーん、そうか。だが、叱られるのは俺なんだから、何とかしてくれよ。」

それだけ言うと、組長の三上は隣のラインに行ってしまった。


「ちぇっ、自分じゃ何もしないくせに、文句だけ言うんだから。」

相楽は独り言を言って、ライン長机に置いたパソコンを操作し始めた。

パソコンには、ライン設備の稼働率のグラフが出ている。

「どうしろって言うんだ。技術員の連中だって、毎日の様に・・・。」

再び、呼び出しの音楽が流れた。

世間では流行りの音楽だが、こんなに頻繁に流れてくると嫌いになってくる。

相楽は、舌打ちをして、呼び出しランプの灯っている工程に向かった。


工場の会議室では、大きな声で生産管理担当の斎河がモニターに映ったグラフを説明している。

「設備稼働以来、異常停止での回数は減らしてきている。技術員室も怠けている訳ではない。」

設備稼働率が工場管理上の最大課題として指摘されたことに、技術員の三剱が声を上げた。

「だが、目標稼働率を大きく下回ったままだ。」

斎河は、三剱の発言に事実を繰り返した。


「それで、今後の改善計画は?」

小柄で、中央に座っている工場長が尋ねた。

「工場長、B9は理屈が合っていない構造なんです。部品寸法が0.1変わると、加工基準が変わってしまって、加工不良が出やすくなってしまうんです。」

三剱は、モニターに図形を示しながら、説明をしようとした。

「三剱。お前が、そう言うのなら間違い無いだろう。だったら、どうすべきなんだ。」

モニターの図形を説明し始めた三剱を制して、工場長の猪野毛が言った。


説明を止められたことに加えて、解決策が無い三剱は、黙ってしまった。

「お前は、どうしたいんだ。」

猪野毛は、更に、三剱を促した。


「えーっと、ここに基準を設けたいので・・・。」

説明のためにモニターに表示した図を指して、三剱が考えながら答え始めた。

「うん。それで。」

「えーっと、・・・。」

三剱は、眉間にしわを寄せて、モニターに顔を近づけて、5秒も「うーん。」と唸った。


「ここに、基準を追加したいと思います。」

三剱は、モニターの図に電子マーカーで赤線を引いた。

「その為には、何をしなくてはならないのかね。」

猪野毛は、更に質問をした。その顔には、微笑も覗える。

「第一加工の押さえブロックに、第二加工の基準を追加します。

現状でも押さえブロックは、第二加工の受けになっています。基準にできていないのは、第一加工での壁板寸法バラツキに原因があります。設計変更時のトライで、バラツキ公差を考慮して、実力値から寸法を攻めた寸法で受けを設定しました。これでは、ワークと受けの間の隙間が一定ではなく、加工刃とワークの角度が毎回変わることになります。

そこで、ここに基準を追加したいと思います。」

モニターの図を説明しながら、最後に赤で示した線を強調した。

「その為には、何をしなければならないのかね。」

猪野毛は、更に質問をした。

「第二の加工基準を第一の押さえブロックで対応できる様にすることです。

押さえブロックが基準対応できていない理由は、壁寸法のバラツキが大きいからです。前回の製品設計変更の対応変更では、公差幅に対して、実力値を考慮して押さえブロックを逃がす寸法設定としてありますので、ワークとの隙間が大きくなってしまっています。

そこで、ワークの壁をブロックに押し付ける構造にすれば、ブロックを基準にすることができます。」

「おい、三剱。」

生産技術課の佐竹が口を開いた。

「可動部の押さえにワークを押し付けると、可動部の保持機構に荷重が掛かる。偏摩耗するじゃないか。」

「佐竹さん。元々、第二加工の時にブロックには、負荷が掛かっています。第二加工の荷重強度を、どの程度、余裕を設けてあるのですか。」

三剱は、佐竹の指摘に対して質問を投げた。

佐竹は、黙ってしまった。

佐竹は、タブレットを取り出し、いじり始めた。


猪野毛は、佐竹が黙ったので、話し始めた。

「三剱。B9についての対応は、分かった。それ以外は、どうなんだ。」

「A8についてです。A7から移載時に引っ掛かりが見られます。

これもガイドの基準の問題です。受治具がワークの傾きを吸収し切れないのです。A8の加工前に位置矯正する箇所で、ワークのバラツキでチャックしたロボットアームが受治具のテーパー面範囲を超えてしまうものが発生するのです。」

「それで。」

猪野毛は、促した。

「A7の加工後に、仮の矯正を加えたいと生産技術に提案しています。生産技術としては提案内容を理解はしてくれたのですが、大幅な改造となるので、難しいと言われました。」

「うん、それで。」

猪野毛が、続きを促したが、それ以上の検討や協議をしていないので、三剱は、言葉に詰まった。


猪野毛は、隣に座っている品質管理の有井に向かって言った。

「A7加工での部品バラツキに影響される製品寸法バラツキは、どうなっている?」

そう言われて、有井は目を剝いた。

慌てて電話を取り出し、「確認します。」と言って、席を立ち、壁側に移動して電話をかけ始めた。

佐竹も同じ様に、離れた机にタブレットを置いて電話をしている。


「三剱。後は?」

猪野毛は、更に質問をした。

三剱は、タブレットを操作し、モニターに他の稼働状況のグラフを示して答えた。

「チョコ停が出ているB28とC19については、加工条件を調整しています。条件表の中央値よりも偏った値の方が、寸法を確保できる様ですので。」

「おい、三剱。それは駄目だ。勝手に条件を変えるんじゃない。」

猪野毛は、三剱の言葉に、直ぐに答えた。


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