表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/47

プレゼント選び

真奈へのお返しにと、一通りホワイトデーの特設コーナーを見終わった俺だったが、残念ながらピンとくるものには巡り会えなかった。



気に入ったものはなかったが、取り敢えず適当な物を見繕って買っておくべきだろうか。

それともこれは、ホワイトデーにお返しをすること自体、諦めてしまおうか。

俺は暫く悩んだ。



悩んだ結果、辿り着いた答えは妥協でも諦めでもなくて、やはり真奈との仲直りの為にも妥協せず、もう少しだけ探して見ようと言うものだった。


俺は特設コーナー以外にもショッピングセンター内の他の店舗もいくつかまわってみる事にした。


ショッピングセンター内をあてどなくぐるぐる回っていると、ホワイトデー間近と言う事もあり、あらゆるお店でホワイトデー関連商品が販売されていた。


俺は取り敢えず目についたお店に入っては、真奈が好きそうな商品を探して回った。


だが、いくつかのお店を覗いて見たものの、なかなか納得出来るプレゼントとは巡り会えなかった。



ゲームセンターに行くと言う当初の目的もすっかり忘れて、俺は真奈が喜びそうなお返しを真剣に探す。

だが時間ばかりが無駄に流れて、自然と気持ちは焦っていた。


このままで本当に納得のいくものは見つけられるのだろうか?

心に弱音がちらつき始めた頃、ある一軒の洒落た装いの雑貨屋が俺の目に止まった。


店の入り口に掲げられた『CLOVER』の名前には、何処か見覚えがある。

そんな気がして、俺の足は吸い込まれるようにして店内へと向いた。


足を踏み入れた店内は、シンプルなデザインだけど、どこか品のある日曜雑貨がセンス良く並べられていて、どこか大人の雰囲気が漂っていた。

だが、その店内に俺は全く見覚えがなかった。

きっと初めて入っただろう店であるはずなはのに、何故名前だけは見覚えがあったのか?

俺は不思議でならなかった。



きっとどこかで店の名前を知る機会があったはずだ。

その機会は一体何処で?


思い出せ――

思い出せ、思い出せ――――



呪文のように念じながら、必死に手繰り寄せた記憶の中で、ある一つの手掛かりを見つけた。


そう言えば、バレンタインに真奈がくれたチョコレート。そのチョコレートが入っていた白い紙袋には確か、緑色で小さくクローバーのロゴと『CLOVER』の文字が書かれていたような?


もしかして、ホワイトデーに貰ったチョコレートは、このお店のものだったのではないだろうか?




一つの可能性に辿り着いた時、俺は店内に「ホワイトデーコーナー」と書かれた特設スペースを見つけた。




そこに置かれていた、四つ葉のクローバーの形をした箱を手にとると、俺は無意識に言葉を漏らす。


「これ、あいつ好きそうだな」



隣に飾られているサンプルに視線を向けると、ハート型のクッキーが、クローバーの四つ葉に見立てられ、上下左右に4枚配置されている。

箱には12枚入りと書かれている所をみると、クッキーは3段ずつ入っているのだろう。


可愛らしく飾り付けられた商品棚には、手書きのPOPで『幸せを届ける四つ葉のクローバー。~大切なあの人へ、幸せが届きますように~』とキャッチコピーが添えられていた。


そしてそのキャッチコピーには更に続きが書かれていて――


『大切なあの人へ大切な気持ちも一緒に届けたい、そんな貴方には、幸せを運ぶ幸福のペンダントも一緒にどうぞ』


POPが示す先へと視線を移せば、クッキーのサンプルの隣にはもう1種類の小さな箱が置いてある事に気付いた。


その小さな箱には、四つ葉のクローバーをモチーフに、銀細工で繊細に作られた、女物のペンダントが飾られていた。

四つ葉の一枚には、ピンク色の天然石が埋め込まれている。



『可愛いい!』とペンダントを見て真奈が喜んでいる顔が脳裏に浮かんだ。


小学生の高学年の頃からだろうか。真奈はクローバーの柄が入った筆箱や、クローバー型のキーホルダーを好んで身に付けるようになっていたから、喜ぶ姿は容易に想像出来た。


きっと、これなら喜んでくれるはずだと、何故だか俺はそう核心して、クッキーとペンダントの両方を手に、迷う事なくレジへと向かった。



***



「ありがとうございました」



キレイにラッピングされた商品を受け取って、店員さんの声を背中に聞きながら、俺は意気揚々と店を出ていこうとする。


――と、先程まで俺がいたホワイトデーの特設スペースでは、新たに女子高生らしき二人がわいわい楽しそうに話ている姿があった。



「あ、このクッキー可愛い!」


「本当だ〜。ハートが並んで四つ葉のクローバーになってるんだね〜」


「ねぇ、見て見て。このペンダントも可愛くない? 幸せを運ぶ四つ葉のペンダントだって〜。可愛い! ちょっと欲しかも」


「でもこれってホワイトデーの商品でしょ〜? うちら自分達で買うのって、なんか虚しくな〜い?」


「……確かに」


「あ~ぁ、こんなのくれる彼氏欲しいな~」


「だよねぇ。バレンタインのお返しにお菓子は貰えても、ペンダントなんてなかなか貰えないよね。それこそ彼氏とか本命相手じゃないと選ばないだろうし」


「ペンダントとかのアクセ類をプレゼントするのって、男の独占欲の表れだって言うしね〜」




聞こえて来る彼女達の会話に衝撃が走った。

本命相手じゃないと選ばない?

独占欲の表れ?

そ、そうなのか??!

俺はそんなものを、真奈にプレゼントしようとしていたのか?

は、恥ずかし過ぎる!


俺は慌てて丁寧にしてくれたラッピングされたリボンをほどき、中から小さい方の箱を取り出すと、乱暴にそれを制服のズボンのポケットへと押し込んだ。


あいつへのお返し、お菓子だけで十分だ!


俺はまるで、そそくさと逃げ出す負け犬の如く足速に、店を後にした。




それが3月9日。

ホワイトデーまであと5日。

卒業式まではあと3日に迫った日の出来事――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ