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祐樹の宣戦布告

「浩太」

「うわっ!?」


真奈のいなくなった廊下を見つめる俺の後ろから、突然掛けられた声。

俺はびっくりして振り返る。


するとそこには、いつの間にいたのか、壁にだるそうに寄り掛かりながら不機嫌な様子で立つ祐樹の姿があった。

真っすぐに俺を見つる祐樹の視線は、まるで氷のように冷たい。

張り詰めた空気が俺達の間に漂っていた。



「……祐樹、お前いつからそこに?」

「さぁ、いつからだったか」

「俺と真奈の今のやり取り……お前聞いてたのか?」

「聞くきはなかったが、聞こえてた」

「…………」



静かに答える祐樹の口調が、彼の苛立ちを物語っているようだ。


加えて先程の真奈との会話を聞かれていた事実に、気まずさを覚えた俺は、無意識に祐樹から顔を反らした。


そんな俺の態度が気に入らなかったのか、祐樹は少し口調を荒げて今度は喧嘩腰に言葉を投げ掛けてくる。



「なぁ浩太。お前、まだ自分の気持ちが分からないのか? 分からないふりをして、彼女の告白から逃げるつもりなのか?」


「………分からない。でも、あいつに腐れ縁を切られて俺、今、凄く動揺してる」

「そこまで分かってるくせに、本気でまだ答えに辿り付けないのかよ。お前、馬鹿だろ?」

「は?! 俺は馬鹿じゃねぇ! 俺は生徒会長を勤めた男で学年でもトップ5の成績を誇る――」

「勉強しか出来ない大馬鹿野郎だ!」



普段クールで冷静沈着な祐樹が、珍しく怒鳴ったかと思うと、急に俺の胸倉を乱暴に掴んで、そのままの勢いで俺の体を壁に押しつける。



「いいか浩太、良~く聞け!」

「な、なんだよ祐樹。痛いじゃねぇか。離せよ」

「これ以上馬鹿な事言って彼女を泣かせるような事があったら、本気で俺が桜井狙うからな! いいな!!」



低く吐き捨てるように怒鳴り散らした祐樹は、俺の胸ぐらを掴んでいた力を解いて俺を解放する。


初めて見る祐樹の剣幕に、呆然と立ち尽くす俺を一人残して、祐樹もまたこの4階から去って行ってしまった。


静かな校舎に祐樹の足音だけが、やけに響いて聞こえる。

コツコツと、俺の元から離れて行く祐樹の足音を聞きながら、俺は一人ヘナヘナと、その場に座り込んだ。



「……くそっ」



やり場のないもやもやした感情を、冷たい床に向かって俺はおもいっきり叩き付ける。


叩きつけた拳に走る鈍い痛みに、俺は思わず声を漏らした。



「……痛ぇ……」




***




――その日の帰り道。

未だ消えぬ心のもやもやを何とか発散したくて、俺は寄り道して帰る事にした。


学校から続く坂道を自転車で思い切り駆け抜降りて、いつもな右へ曲がる道をそのまま直進して進んだ。


通い慣れた通学路から逸れて俺が目指した場所は、俺達が住む田舎街にただ一つ存在する大型のショッピングセンター。


その中に設けられたゲームセンターが俺の目指す目的地だ。



――だが、ショッピングセンターに入るとすぐに、異様な賑わいを見せる一角が目についた。


人が集まっていると、ついつい覗いて見たくなるのは人間の性と言うもので、人だかりの理由がどうしても気になってしまった俺は、気が付けば人が賑わっている一角へと足を向けていた。



賑わいの中心にはチョコレートやクッキーといったお菓子がズラリと並べられていた。

それを見て俺はやっと、ここがホワイトデーの特設スペースであることを理解した。


そう言えば、早いものでバレンタインデーからそろそろ1ヶ月が過ぎようとしていたか。

つまりはホワイトデーの時期も近いと言う事で――


“ホワイトデー”の文字に、俺の脳裏には真奈の顔が浮かんだ。



ホワイトデーにバレンタインのお返しをしたら、俺達はまた前みたいな腐れ縁の関係に戻れるだろうか?


……戻れるのならば戻りたい。


不意に沸き起こった小さな希望を胸に、気が付けば俺はホワイトデーの特設スペースにできた群れの中へと紛れ込んでいた。


そして、当初の目的も忘れて、いつの間にかホワイトデーの贈り物を真剣に選ぶ俺がそこにいた。



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