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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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過去からの卒業

「只今より平成23年度卒業生、卒業式を行います」


俺が流す開会を伝えるアナウンスに、真奈が一人驚く姿が壇上から見えた。



「……え? 卒業式? どうして今更卒業式なんて……」



真奈の驚きに、隣に立つ裕樹が説明しているのだろう。二人が何やら話している姿が見えた。



「それはな、12年前の今日、桜井みたいにこの場にいられなかったの奴らの為の卒業式だよ」

「……え?……え? ちょっと待って、沢田君。私の頭が……追い付かない……」

「知らずに来てるならそりゃ驚くよな。でもこれが、浩太のいつもの思い付きって言えば納得するんじゃないか?」

「浩太の?」

「あぁ、あいつがさ、12年前の卒業式が終わった後に突然言い出したんだ。絶対桜井は生きてこの町に戻ってくるから、だから10年後にまた皆で集まろうって。そんでまた皆で卒業式を開こうって。コロナのせいで12年後になっちまったけどな、でもあいつはこの12年間、ずっと桜井が帰ってくる日を信じて、今日この日の為に動いてたんだよ」

「………どうしてそんな……思い付きなんかで途方もない計画を立てられるのよ……あいつは……」

「皆で卒業したかったんだって。9年間共に過ごしてきた仲間と、誰一人欠ける事なく一緒に卒業したかったんだって。あんな別れ方したままじゃ、卒業式に参加できた俺達も、出来なかった桜井達も、ずっと蟠りを抱えたまま過去の後悔に縛られ続けるんじゃないかって」

「………」

「図星だろ?」

「………やっぱり叶わないな~、浩太には」

「俺もだ」


クスクスと、二人は笑い合う。

離れた場所にいる俺には二人が何を楽しそうに笑っているのかは知らないが、楽しげな二人の姿を、式を進行させながらずっと横目でチラチラ見ていた俺は、一人ヤキモキしていた。


「裕樹の奴ー……」


そんな恨み言を呟きながら、ついには我慢出来なくなった俺は、司会と言う立場も忘れて叫んでいた。



「おいこら祐樹お前っ!! 何を真奈と二人コソコソ話してやがる! いい加減離れろぉ!」



マイクを使っての怒鳴り声に、その場にいた全員が苦痛に顔を歪めながら慌てて耳を塞ぐ。


「やばい!」と思った時にはもう遅く、後ろから“ゴツン”と杉崎先生に殴られた後だった。



「痛っ!」

「ヤキモチはいいから、進行を続けろ。この馬鹿野郎が!」

「だってぇ、先生~」

“ゴス“


言い訳すら許されず、俺はまた先生に殴られる。


「痛っ!こんの暴力教師ー! わーかったよ! 進めれば良いんだろ、進めれば! 今から名前を呼ぶ奴、速やかに前へ出て来い! 3年1組、上嶌隆、前島紗耶香! 3年2組、島田裕美子、田島――」



俺はふて腐れながらも仕方なく式の進行を続行する。


そんな俺に、客席からは大きな笑い声が上がっていた。



「ラスト、3年3組桜井真奈!」



俺が真奈の名前を呼ぶと、真奈は隣にいる裕樹と壇上を交互に見ながら、酷く戸惑った様子でなかなかその場を動こうとしなかった。



「おい真奈、何やってんだよ。さっさと上がって来いって」



痺れを切らした俺が再び上がってくるよう催促する

と「ほら、行って来な」祐樹がそっと真奈の背中を押して、後押しする。


祐樹に背中を押された事でやっと真奈は、恐る恐る壇上へと上がって来た。


真奈を含め壇上に呼んだ8人を、俺は上がった順番に一列に並ばせる。


そして、一人一人順番に杉崎先生から卒業証書が手渡されていくと、会場からは「おめでとう」の声と拍手の音が鳴り響いた。


壇上の8人はと言えば、驚きを隠せない者、呆然とする者、中には泣き出す者もいて、その姿を見守りながら、俺達は更に盛大な拍手を彼等に送った。


これでやっと、82人全員で卒業する事が出来た。

12年もの月日を経てついに叶えた念願に、俺は自然と笑顔を零していた。



「よし、お前等席に戻って良いぞ。ただし桜井真奈、お前はここに残れ!」


なかなか鳴り止まない拍手の中、俺は次なる進行の為、真奈一人にだけ居残りを告げた。



「え? 何で私だけ……」


俺の進行に文句を言い出す真奈だったが、俺は構わず手にしていたマイクを無理矢理真奈へと押し付けた。


「ちょっと、本気で何させるつもり?」

「代表挨拶、桜井真奈!」

「挨拶って……そんな急に言われても……」

「ほら、お前が一番皆に心配かけたんだから、皆にちゃんと謝って来いって」

「……………」

「な?」

「でも……」

「心細いなら俺が隣にいてやる。胸の中の蟠り、全部吐き出して楽になって来いよ。大丈夫、皆きっと許してくれる。絶対大丈夫だから」


なかなか首を縦に振らない真奈に、俺はニッコリ微笑んで見せながら、彼女にしか聞こえないくらいの小さな声でそう声を掛けた。


俺の励ましに、真奈もやっと覚悟を決めたのか、コクんと小さく頷いて見せた。



「よし、じゃあ行くぞ」



そう言って俺は、真奈の手を引いて舞台の真ん中に置かれた机の前へと彼女を導く。



「あの……えっと……今日は……私達の為に集まってくれて……こんな素敵な式を開いてくれて……ありがとうございました」


どこか辿々しくはあるものの、でもゆっくりと挨拶を始める真奈。

俺は、すぐ隣で見守りながら、皆からは見えていない机の下で、真奈と繋いでいた手にギュッと力を込めた。


俺なりのエールのつもりだったが、真奈もそれに応えるように俺の手を握り返しながら、挨拶を続けた。



「皆がこんな素敵な式を計画してくれてるなんて私、知らなくて……皆が私の事をとても心配してくれてるなんて知らなくて……地震の後、一度も連絡しなくてごめんなさい」


「そうだよ真奈。本当に心配してたんだからね!」


客席から声が飛ぶ。

声の主は、中学時代真奈と仲の良かった“里ちゃん”こと横山里李(さとり)だった。


その声に、真奈は声を震わせながら何度も謝った。



「……ごめんなさい。本当に……ごめんなさい。でも……実は……皆が心配してくれてたのが申し訳なく思えるくらい、私には震災当時の記憶がないんです。気付いた時には知らない病院のベッドの上にいました。その病院は地震の被害に遭わなかった県外の病院で……だからあの時の地震は、テレビから流れてくる映像でしか知らないんです」


謝罪と共に語られた真奈の事情に、会場が少しざわついた。皆の戸惑いを感じながらも、真奈は先を続けた。



「だから私は、皆が苦しんでいる時、一人だけ安全な場所にいました。ずっとテレビで傍観する事しか出来なくて……それがずっと皆に申し訳なくて……皆に合わせる顔がないって、皆に会うのが怖かった。だから退院した後も、地震の報道が少し落ち着いた後も、大好きだったはずのこの町に帰って来る事が出来ずにいました。その事がずっと……ずっと……苦しかった」



目に涙を浮かべながら、苦しそうに話す真奈に、いつの間にか会場のざわめきは消え、誰一人口を挟む者はいなかった。ただじっと真奈の事を見守り続けていた。



「でもね、そんな弱虫な私の背中を逃げてちゃダメだって、押してくれた人がいました。その人のおかげで私はもう一度、この町に戻ってくる事が出来た。それから、こんな私を受け入れて、励ましてくれた人がいました。その人のおかげで今私は、こうしてまた皆に会う事が出来ました。勇気を出して帰って来て良かった。勝手に怖いなんて臆病風に吹かれて、ずっと皆に背を向け続けて本当にゴメンなさい。でも、こんな臆病な私なんかを、今までずっと心配してくれて、信じて待っていてくれて、本当に……本当にありがとう」



そう言って、真奈は深々と頭を下げた。



「真奈っ!」



そんな真奈に、一人の女子生徒から声がかかる。先程も客席から声を飛ばした横山だった。


真奈は一瞬ビクンっと肩を震わせて、恐る恐る横山の方を見ると、彼女は、ニッコリと微笑みを浮かべながらただ一言、「おかえり」と言った。


その声を合図に


「真奈、おかえり!」

「おかえり真奈~!」

「おかえり! 桜井!」


あちらこちらから「おかえり」の声が溢れ出す。

そんな温かな声援に包まれながら、真奈の目からは沢山の涙がこぼれ落ちていた。

そして涙を流しながらも嬉しそうに微笑んでいた。

それはそれは、見てるこっちまで嬉しくなるような、満面の笑顔で。


きっと、今までずっと心に溜めて来た不安や後悔の念を、皆からの「おかえり」の言葉で全て肩から下ろす事が出来たのだろう。


それが今日、俺が卒業式を開いた大きな理由。

あの地震から12年の時が流れても、あの瞬間、多くの物を奪われた俺達の心には、大なり小さなり何かしらの傷を抱えかている。


俺だってそうだ。自分の気持ちに素直になれず、真奈を傷付けてしまった事を後悔し、またきっと会えると信じていながらも、心の何処かではもう二度と会えないかもしれないと不安で仕方なかった。


もし15歳のあの時、自分の気持ちに素直になれていたら……違った未来があったかもしれないと、何度そんな事を思ったかしれない。


両親の事だってそうだ。あんなにも早く二人と別れる日が来るなんて思ってもなかったから、いつもいつも憎まれ口を叩いては二人を困らせていた。

もっと素直に二人と話せていれば。

せめて二人に俺を産んでくれてありがとう、育ててくれてありがとうと、感謝の言葉を伝えたかった。

そんな後悔ばかりが残っている。


でも、どんなに嘆いても過去は変えられない。

もう二度と叶わない後悔に、俺達はいつまでも捕われてばかりはいられない。

だって俺達は生きているのだから。

この先も前を向いて歩いて行かなければいけないのだから。

俺達は過去の辛い出来事から卒業しなきゃいけないんだ。


一人では苦しくて、心細くて、身動き出来ない状況でも、皆で背中を押し合えれば、前に進めるかもしれない。


苦楽を共にしてきたかけがえのない仲間達だからこそ、互いに弱い部分もさらけ出し、励まし合って行けるはず。


そう思ったから、だからこそ俺は一人も欠ける事なく82人全員で卒業したかった。


過去のトラウマから。

過去の後悔から。


もしこの卒業式が、皆が自身の中に囚われている()()から卒業するきっかけになってくれたら――


みんなの笑顔を見ながら俺は、そんな事を願った。



そして、俺自身も。

いい加減過去の後悔から卒業しなければ。


俺はある決意を胸に大きく深呼吸をすると、隣でポロポロと泣き笑いしている真奈へと体を向けた。


そして、真奈の手からマイクを乱暴に奪うと、「桜井真奈!」大きな声で真奈の名を呼んだ。


真奈は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔で俺を見ながら、「はい」と返事をする。


「桜井真奈、俺はお前が好きだぁ!」


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