かけがえのないもの
真奈との再会を果たしてから、二週間以上が経った2023年3月31日。
東一中の体育館では、スーツやドレスアップ姿でめかしこんだ若者達が集まり、ガヤガヤと騒がしい様子。
その中には、12年ぶりに母校の体育館に訪れた真奈の姿もあって、彼女の周りには黒山の人だかりができていた。
「真奈! あんた今までどこにいたの? 誰にも連絡しないで……皆すっごく心配してたんだからね! 元気だった? 辛い思いとか、してなかった?」
「ごめんね里ちゃん。心配してくれてありがとう。私は元気だよ!」
「おぉ~桜井! すっげー久しぶりだな! 暫く見ない間に綺麗になりやがってぇ! あの三馬鹿トリオのお転婆副会長様がよぉ」
「ありがとう大久保君。でも、三馬鹿とかお転婆とか余計だよ。言っとくけど馬鹿は一人だけだったんだからね。私と沢田君はその馬鹿に振り回されてただけ、とんだとばっちりだよ」
「おいおい、馬鹿ってのは俺の事を言ってんのか?」
「当たり前でしょ浩太。あんたの我が儘に、私達がどれ程振り回されて迷惑かけられてきたか。ねぇ、沢田君!」
「だな。浩太の暴走を止めようと頑張ってた俺達まで、三馬鹿トリオなんて問題児扱いされるなんて、世の中はなんて理不尽なんだ」
「そうそう、私も沢田君も一番の被害者なのに。でも、もう12年も前の話なんだなぁ。今となってみれば、そんな大変だった日々も懐かしく感じるなんて……なんか不思議」
「そうだな。あれからもう12年も経ったんだよな。思い返してみれば、12年なんてあっと言う間だった気がするよ」
「おいこら! そこ! 真奈と裕樹! お前ら二人だけで、な~に自分達の世界作って浸ってるんだよ。こら祐樹! お前離れろ。今すぐ真奈から離れろ!」
「お、なんだなんだぁ佐々木? お前それ、ヤキモチか~?」
「ばっ! 誰がヤキモチなんか! 大久保、お前の目は節穴か!」
「おい皆、見てみろよ。桜井を取り合って佐々木が沢田にヤキモチ焼いてるぞ~!」
「だから、別に焼きもちなんか妬いてないって! 茶化すな大久保! そんでもってお前等もいちいち寄ってこなくて良いって! ヒューヒューとか囃し立てるのもやめろー! あぁー本当お前らは、あの頃から何も変わってねぇな!」
「ははは、それはお互い様だろ~佐々木。照れてすぐ怒鳴る所、お前もあの頃から変わってねぇーよ」
体育館には俺達同窓生達の、たくさんの笑い声が溢れていた。
何故卒業したはずの俺達が、再びこうして母校の体育館に集まっているかと言えばそれは、2023年3月31日の今日は、12年前の卒業式に、皆で交わしたあの約束の日だからだ。
――『10年後の今日、この場所で、俺たち東一中56期生の、本当の意味での卒業式を開こう』
コロナと言う未曾有の事態のおかげで、2年遅れでの開催とはなってしまったが、12年越しの“卒業式”の実現を前に、俺達は久しぶりに会った仲間達と、あの頃のようにはしゃいでいた。
時の流れなんてまるで無かったかのように。
12年前と同じ、中学時代に戻ったように。
約束の時間まで、まだもう少し時間があると言うのに既に8割近い懐かしい顔ぶれがここに集まっていた。出席率は上場だ!
それ程俺達の絆は固いのだと、俺は改めて実感した。
もしもあの時、何も起こらず普通に卒業していたら、12年経った今もこうしてこいつらと、同じ時間を共有する事は出来ていただろうか?
俺達の間に、こんなにも強い絆が芽生えていただろうか?
確かにあの地震で、失ったものは沢山ある。
辛い思いもいっぱいしたし、しなくて良い苦労もいっぱいした。
けれど……今思い返して見れば、決して失ったものばかりではなかったのではないだろうか。
得たものも、実は沢山あったのではないだろうか。
時を経て、たくさんの事を経験した事で、俺はたまにそんな事を思うんだ。
あの時受けた傷は、どんなに時間を経ても完全に癒やす事はできないけれど……でも傷ついたからこそ得たもの達まで否定はしたくないし、これから先も大切にして行きたい。
かけがえのない仲間達を前に、俺はそんな事を思うんだ。
それから数十分後――
一人、また一人とこの懐かしい場所に懐かしい顔ぶれが帰って来る。
そして最後の一人、この人も――
「悪い、遅れた!」
「おせ~よ、先生!」
「悪い悪い」
「先生に卒業証書預けてあったのに、先生が来なかったら初めたくても初められないだろ?」
遅れてやって来た先生に俺はこっそりと耳打ちした。
「だから悪かったって浩太」
無事最後の一人、俺達3年2組の担任だった杉崎先生が到着した事でやっと、82人全員揃っての卒業式を迎えられる。
「よしっ! じゃあ始めるか!」
「「「おぅ!」」」
そんな俺達に、真奈が不思議そうな顔して問いかけてきた。
「ねぇ浩太、ずっと聞き損ねてたんだけど、始まるって今から何が始まるの?」
「お前にはまだ内緒」
「何それ、意地悪」
「へへへ」
俺は真奈にニッと。悪戯に笑ってみせる。
「ほら浩太、お前司会だろ。さっさとこっちに来いって」
「えぇ~、遅れてきた先生がそれ言う?」
文句を言いながらも、杉崎先生に呼ばれて俺は、不思議そうに首を傾げている真奈をその場に残しつつ、先生のいる壇上へと駆け上がって行った。
「ねぇ、沢田君。今から何が始まるの?」
「もしかして桜井、まだ招待状見てない? 卒業生皆で写ってる写真。その写真の裏側にさ、今日の詳細が書いてあって、招待状になってたはずなんだけど」
「その写真は見たよ。でも裏側には今日の日にちと場所と、絶対来いってただその一言が殴り書いてあっただけで……」
「ははは、浩太の奴、桜井にはどうしても秘密にしておきたいって事か」
「?? どうして私だけ秘密なの?」
「まぁまぁ。すぐにその謎は解けるから、もう少し待っててみて」
「……えぇ~、沢田君も教えてくれないの?」
「すぐわかるって。ほら、もう始まるみたいだ」




