告白の行方
「……今……何て?」
やっと口を開いた真奈は、鳩が豆鉄砲を食らったような驚いた顔をしていて、俺はクスッと笑いを溢しながら、改めてもう一度真奈に「好きだ」と伝えた。
「あの日、当たり前のようにいつも一緒にいたお前が俺の前からいなくなって、もう二度とお前と会えないかもしれないって、そう思った時、初めて気付いた。俺はお前が好きだったんだって」
「……嘘……」
「もう二度と後悔なんかしたくない。だから何度でも言うよ。俺は、お前が好きだ」
「嘘……嘘……」
「嘘じゃない。俺は櫻井真奈が好きだ。今度は真奈の返事を聞かせてくれないか? 12年経って大人になった今のお前の気持ちを。お前はまだ、俺の事好きでいてくれてるか? それとも今は……他に好きな奴とかいる、のか?」
精一杯に虚勢を張って、必死に平常心を心掛けながら、俺は真奈に告白の返答を求めた。
真奈はと言えば、未だ驚いた顔を浮かべながらも、その中には困っているような、戸惑っているような、そんな表情が見え隠れして見える。
俺達の間に長い沈黙が流れた。
その間中、俺の心臓はバクバクと大きな音を立てて暴れていた。
「私は………」
やっと真奈が口を開いたかと思えば、何故か真奈は目を真っ赤に染めながら、ボロボロと涙を流しはじめて――
何故突然泣き出したのか、その涙の理由がわからなかった俺は、どっちの答えが帰ってくるのかと思わず身構える。
緊張からか、ゴクリと音を立てて唾を呑み込みながら、「私は……」のその先の言葉をただじっと待った。
「………」
「…………」
だが真奈は、いつまで待っても涙き止まなくて、それより先の言葉をなかなか口にしてはくれない。
やはり、12年と言う歳月は長過ぎだのだろうか。
真奈の気持ちはとおの昔に変わっていて、今の俺の告白は、ただ真奈を困らせただけだったのかもしれない。
彼女の涙を前にして、俺は不安に押し潰されそうになりながらも、「イエス」か「ノー」さえわからないまま、ただじっと待たされ続けるのこの時間に、だんだんとイライラしてきてしまって
「あぁー、もう……ダメだ。これ以上はもう待てない! お前はどんだけ俺を待たせれば気が済むんだよ。もうこれ以上は待ってやらないからな!! いいか、もし嫌なら全力で逃げろ! 嫌じゃなかったらそのままじっとしてろ。それがお前の答えだと受け止める!」
一方的にそれだけ言い捨てると、俺はゆっくり真奈の顔に近付いて行く。
瞬間、唇に柔らかいものがあたった。
と同時にドサっと何かが床に落ちる音がした。
「?」
俺は真奈から顔を離すと、音のした方に視線を向けた。
どうやら、驚いた真奈が肩にかけていた鞄を落としたらしい。その衝撃で鞄の中からたくさんの封筒が飛び出し床に散らばった。
散らばったものを眺めながら、どこか見覚えのある封筒に、俺は「あっ!」と声を上げた。
「お前、これっ!」
そう言って、俺は封筒を拾って中の手紙を取り出す。その手紙に書かれた文字を見て核心した。
やっぱりこれは、俺が真奈に宛てて書いた手紙だ。
「真奈、お前……約束破ったな? 大人になったらタイムカプセルを一緒に開けようって言うあの約束を」
「そ、それは……浩太だって同じじゃん。私がいない間に先に開けちゃって」
「しかもお前、勝手に読んだな?」
「勝手にって、それ、私宛てに書いたものでしょ? じゃあ別に読んだって……」
「これを読んだから、お前は今日ここに来てくれた。違うか?」
真奈は顔を真っ赤にして俯いていた。
これは間違いなく肯定の合図。
「何だよ。じゃあ何でさっきから俺の告白にそんなに驚いてんだよ。それを期待したからここに来たくせに」
「ち、違うもん! 期待なんか……してないもん!」
「嘘つけ」
「嘘じゃないもんっ! 別に期待なんかしてないもん!」
12年立って、久しぶりに再会したと言うのに、顔を合わせた途端俺達はまた言い争いを始めている。
相変わらずのやり取りに、思わず笑いが込み上がる。
そして俺は、顔を真っ赤にして必死に否定する真奈の隙をついて、もう一度真奈の頰にキスをした。
「照れちゃって、可愛い奴」
真奈がこの場に来てくれた。
つまりはそれが真奈の答えだ。
俺は12年前から毎年、真奈へ宛てた手紙を書いてきた。それは決まって3月11日に。
――『卒業式が終わった後、生徒会室に来てくれないか?』
真奈と交わしたあの約束が、今年こそ果たされますようにと願いを込めて、その年その年の真奈への想いを綴ってきた。
つまりこの手紙は、俺が真奈に宛てた12年分のラブレター。
差し出し先の分からないラブレターを、俺は小学生時代に真奈と一緒に埋めた思い出のタイムカプセルへと託した。
いつか手紙が真奈の元に届く事を信じて。
俺の気持ちが真奈へ伝わる事を願って。
それが、12年の年月をかけて、やっと真奈の元に届いたのだ。
そして今、それを持って俺との約束を果たす為、真奈はここに来てくれた。
つまりそれは、真奈もずっと俺と同じ気持ちでいてくれたから、ではないのだろうか?
二度目のキスに、茹でダコのように顔を真っ赤かににして怒る真奈。
「っ! 浩太の馬鹿! この変態!」
浴びせられる罵声も全ては照れ隠しなのだと信じて疑わなかった俺は
「何とでも言え。俺は中学生だった頃の俺とは違うんだ。素直になれなくて後悔するなんて二度とゴメンだからな。後悔するくらいなら、たとえ変態と罵られようと自分の気持ちに正直に行動する!」
そう言い放って、もう一度真奈の頬に触れるだけのキスをした。
三度目のキスに、今度は慌てて頬を手で隠すと俺を睨む真奈。
その顔がなんだかとても愛おしくて、俺は真奈の手を取り強引に自身の元へと引き寄せると、ギュッと抱きしめた。
「なぁ真奈、そろそろ今のお前の正直な気持ち聞かせてよ。俺の事、まだ好きなんだろ?」
「……………浩太の馬鹿!」
「でもお前は、こんな馬鹿な俺の事が好きなんだろ?」
「浩太のナルシスト! そう言う所、昔っから大っ嫌い! 強引な所も、悪戯好きな所も……大っっ嫌いだった!」
「でもそんな俺がお前は今でも……」
「……浩太の馬鹿」
弱々しい声でそう呟いた真奈は、俺の体を押しやると、顔を上げてキッと俺を睨みつけて来た。
「そうだよ! 今でも大好きだよ! どんなに会えなくても、離れていても、ずっと浩太の事が忘れられなかった。告白して吹っ切るつもりだったのに、あんな約束しちゃったばっかりに……卒業式で浩太は何を言ってくれるつもりだったんだろうって、それがいつまで経っても気になって……離れている時間が長くなればなる程に、浩太の事が気になって……忘れられなくて……ずっとずっと苦しかったんだから。何もかも……浩太のせいだからね! 馬鹿っ!!」
「馬鹿は余計だ馬鹿」
「何よ!人がせっかく素直になれば、馬鹿馬鹿言う方が馬鹿なんだから!」
「うるせぇこの馬鹿!」
「馬鹿馬鹿馬鹿!浩太の馬鹿!」
「馬鹿馬鹿言い過ぎだ。この馬鹿。あぁ、もう黙れ」
そう吐き捨てて、俺は強引に真奈の口をキスで塞いだ。
12年分の想いが、一気に溢れ出して、今度はそう簡単に解放してやれそうにない。
いや、もう二度と離してなんかやるもんか。
なぁ真奈、俺の知らない間のお前の話をもっともっと聞かせてくれないか。
変わりにお前が離れてた間のこの町の話を俺がお前に聞かせてあげる。
そうやって俺達の間に生じた空白の時間を、これから時間をかけて二人でゆっくり埋めて行こう。
そうして、これから先の未来を、今度は二人で一緒に紡いで行かないか?
なぁ真奈、俺とー―




