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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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待ちわびた瞬間

そして迎えた2023年3月12日――


この日俺は、日曜日で仕事は休みだと言うのに、職場である東第一中へと足を運んでいた。


日曜日であるはずの今日は、3月12日と言う事もあって、学校は多くの人で賑わっていた。

震災後、毎年恒例となったていた卒業生がつくる卒業制作、フォトモザイクアートを一目見ようと多くの人達が学校にへと足を運んでいたから。


その影響からか、休日出勤している先生達もちらほらいる様子だった。


「あれ、佐々木先生も今日は出勤ですか?」

「あ、はい。新学期の準備を少し進めておこうかと思いまして。高橋先生も休日出勤ご苦労様です」


その中の一人、俺と比較的歳も近くこの一年間同じ学年を受け持った経験から話す機会も多い女性教諭の高橋先生と2、3言葉を交わしながら、俺は特別室の鍵が保管されている場所から、生徒会室の鍵を手に取る。


「じゃあ俺、来季の生徒会の仕事も進めておこうと思うので、ちょっと生徒会室に行ってきますね」

「あぁ、そういえば佐々木先生、去年から生徒会の顧問も任されてましたっけね。熱心に頑張ってるって噂に聞いてますよ」

「いえいえ、子供達が頑張ってくれてるだけで、俺は何も」

「ご謙遜を」


照れる俺に高橋先生はクスクス笑いながら俺を見送った。


職員室を後にして、特別室が並ぶ東棟の4階にある生徒会室へとやって来た俺は、部屋の一番奥にある少し豪華な見た目の席に腰かけた。

普段は生徒会長が座るその席に、持ってきたノートパソコンを広げ、カタカタとキーボードを叩き始める。


今日が12回目の約束の日であるという緊張を感じながらも、それを紛らわせるべく俺は目の前の仕事に集中した。


窓の外からは、休日も部活動に正を出す生徒達の賑やかな声が風に乗って聞こえている。



***



それから何時間が経った頃だろうか。

日曜日の学校。加えて特別室ばかりが集まる東棟はとても静かな空間で、思っていた以上に集中できたのか、予定よりも早い午後の4時を回る頃には持ってきていた仕事が一段落した。


「ふう。終わったぁ。思ったよりも捗ったな。正直言えばもう少し粘るつもりだったんだけど……さて、どうしたものか」



持ってきた仕事を終え、やることがなくなり手持ちぶさたとなってしまった状況に、俺は頭の後ろで手を組んで、椅子に大きくもたれ掛かる。


今年こそはと、気合いを入れてこの場に来てみたものの、未だ待ち人は現れず。



「……はぁ。今年もやっぱり……来ねぇのかな、あいつは」



少し諦めにも似た気持ちが口をつく。



「……12年も約束を信じて待ち続けてるなんて、やっぱりバカなのかな……俺……」



クルリと椅子を180度回転させて、窓の外を眺めながら俺はため息を漏らした。


12年も前に一方的に取り付けた約束を、勝手に信じて待ち続けてるなんて、自分の行動を馬鹿らしいと思う事も正直言えば今まで何度もあった。

けど、今の俺と真奈を繋ぐ物は、もうこの約束しか残っていないわけで、会いたいと思う気持ちが募れば募るほど、俺はこの僅かな望みにすがるしかないのだ。


12年経った今、あいつはいったいどんな大人になっているのだろうか?

看護師になりたいという夢は叶えただろうか?

27歳になった真奈は、今どんな人達に囲まれて暮らしている?

彼氏は……いるのかな?

いや、27歳なんて、既に結婚して子供がいてもおかしくない年頃だ。


……あぁ、なのに俺一人だけが今も変わらずあいつの事を思っている。

あいつはとっくに約束の事なんて忘れているのかもしれないのに……


真奈の事を信じて、この12年間ずっと一途に待ちわびてきたけれど、一人で待ち続ける時間が長くなれば長くなる程、俺の中には隠しきれないネガティブな感情が育ってしまっている事に気付く。


そんなマイナスの感情に拍車をかけるかのように、窓の外に広がる空は、赤く染まりはじめていた。

タイムリミットが近づいている。



「……はぁ……」



暮れ行く空に二度目のため息が溢れた。

今年もあいつが来なかったら、卒業式の日、同級生皆と約束した12年越しの卒業式を、今度こそ全員で迎えるという夢も叶わなくなってしまうだろう。

今年がラストチャンスだったのに――


あいつとの絆が有る限り、きっと卒業式までには会えるはずだと、ずっと根拠のない自信を持ち続けて、12年間あいつの事を待ち続けてきた。

けれど、信じて待ち続けるのはもう……限界なのかもしれない。


そう思ったら、信じて待ち続けたこの12年間が、酷く虚しいものに思えて、涙が溢れそうになった。


涙を堪えようと上を向いた瞬間、堪えきれなかった涙が頬を伝った。



と、その時――

突然にガラガラと生徒会室の扉が開く音がして、俺は驚きにビクンと肩を震わせた。


「?!」


その音に慌てて涙を拭った俺は音の方へと振り返ると、そこには髪の長い女性の姿があった――


緩くパーマのかかった長い髪に、俺は昼間職員室で会った高橋先生の姿を思い出した。



「あ、すみません高橋先生。こんな時間まで生徒会室に長居してしまって。先生はもうお帰りですか? 他の先生方ももう帰られてますかね? なら俺が最後の戸締まりをして行くので、俺の事は気にせず先生も先に帰って下さい」


立ち上がってそう言うと、高橋先生はどこか焦った様子で



「す、すみませんっ! 失礼しました!!」



と深く深く頭を下げて見せた。



「え? どうして謝るんですか?」



「いや……あの、私……ここの教師ではなくて……」


「……え?」


「いや……えっと……だからと言って不法侵入したわけでもなくて ……えっと……えっと……ごめんなさいっっ‼」



教師ではないと言ったその女性は、ずっと頭を下げ続けたまま挙動不審にあたふたしたかと思うと、結局一度も顔を上げる事なく逃げるように廊下へと出て行ってしまった。


振り向き様、一瞬チラリとだけ見えた横顔に、俺の心臓はドクンと大きく跳ねた。



「……え?……もしかして……」



何故ならば12年間、会いたいと願った人物の面影と、その横顔が重なったから。

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