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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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2023年3月10日

ー2023年3月10日ー


俺の教師生活、5年目が終わりを迎えようとしていたこの日、俺は教師になってから初めて、自分が担当したクラスの教え子達を世に送り出す、特別な瞬間がやってきていた。


1年から3年までの3年間、持ち上がりで担任として関わらせて貰い、共に歩み、同じ時間を共有してきた教え子達が、今日この東第一中を卒業するのだ。


コロナと言う未曾有の事態に襲われ、3年間互いに素顔を見せられぬまま、マスク生活を余儀なくされてきた生徒達。

学校行事もあらゆる制限が設けられ、悔しい経験もたくさんしてきたことだろう。


それでも、彼、彼女等の中学生活最後の行事である卒業式では、初めて人前でマスクを外す事を許され、コロナ禍前と同様の式を執り行える事ができるようになった。


体育館には卒業生が歌う仰げば尊しが響き渡っている。

生徒達の涙混じりの歌声が、俺の涙腺までもを緩ませた。


涙など、祝いの席に涙は似合わない。涙は見せずに笑顔で生徒達を送り出そうと、式が始まる前までは心に決めていたはずなのに、いざその時がくると想上以上に押し寄せる感情があって――

俺は決意も虚しく、教え子達の3年前は違う凛々しい姿を見守りながら、大粒の涙を流していた。


思い返せば12年前、俺自身も今彼等が立つ同じ場所に立っていて、卒業生として見送られる側にいた。

そんな俺が彼等と同じ15の時に教師になる夢を抱き、今は送る側としてこの場に立っている。

12年という歳月がもたらした軌跡に、何だか感慨深い気持ちにさせられて、余計涙を誘った。


そして、送る側になって初めて知った。嬉しい気持ちと同居する寂しい気持ち。

今まで当たり前のように同じ教室に集い、共に過ごしてきた彼、彼女等との時間は、この先もう2度と紡ぐ事は叶わないのだ。

そう思うと寂しくて、先生達(おくるがわ)は笑顔の裏でこんなにも複雑な気持ちと戦っていたのかと、俺は初めて気付かされた。


ふと3年前、東一中への配属が決まった俺に、当時の校長先生から贈られたある言葉が思い出す。


――『君達の活躍が、教師として私は誇らしいですよ』


確かに別れは寂しいが、でもここにいる子供達が、今後どんな未来を歩むのか、どんな大人になるのだろうかと考えると、寂しい気持ち以上に未来を楽しみに思う気持ちが膨れ上がってくる。


あの時、校長が言っていた言葉の意味を改めて実感させられて、俺は涙で頬を濡らしながらも、自然と笑顔を浮かべていた。



あぁ、教師になって良かった。

教師として、今この場所に立てて良かった。

改めて俺は、12年前に抱いた夢の実現できた喜びを噛み締めた。



  ***



卒業式の後――

最後の別れを惜しむように俺達教師は、卒業生を見送りに校門へと足を向ける。


そんな俺達との別れを卒業生達も惜しんでくれているのか、多くの生徒達から記念写真を求められた。


代わる代わる写真を撮る中で、あんな事があった、こんな事があったと、たくさんの思い出話に花が咲く。

教え子達との本当に最後となる瞬間じかんを、俺は彼等と一緒になってはしゃいでいた。


その瞬間じかんの中で、泣き出してしまう子も中にはいて、その涙が俺は教師として嬉しかった。


多感な時期をコロナと共に過ごし生徒達にとっては、悔しい思いもたくさん経験し、思い出という思い出もたいして造れなかった、寂しい3年間だっただろう。

それでも、最後の瞬間には思わず涙がでてしまう程には、この中学の3年間が、子供達にとってかけがえのない時間となってくれていた。

そう思う事ができて、俺は嬉しかった。


彼、彼女等が流す涙が、教師と言う道を選んだ事に誇りをくれて、これからも教師として頑張って行こうと、更なるやる気を与えてくれた。



今日1日で本当にたくさんの感情を与えてくれた生徒達。

彼、彼女等一人一人に向け、俺は教師として最後の言葉を贈る。

「ありがとう」と。


生徒達もまた、たくさんの「ありがとう」を返してくれながら、彼、彼女達は一人、また一人と校門から去って行く。


そんな彼等の後ろ姿を、最後の一人が見えなくなるその時まで見送りながら、教師として初めて経験した“教え子達の卒業式”は無事幕を閉じた。





教え子達の新たな門出を見送った後、俺は感傷に浸りながら、学生時代の思い出や、教師になってからの思い出、沢山の思い出が詰まったこの校舎を歩いて回った。


そして気が付くと、やはりここに足を運んでしまっていた。

そう、この学校で俺が一番大好きな場所、生徒会室に――


いつものように、学生時代俺の特等席であった机に腰を下ろし、ぼんやりと外を眺める。

そして目を瞑って、今日の卒業式を思い返してみれば、教え子達の姿に重なって、自分達の学生時代の思い出までもが色鮮やかに蘇えってきた。


俺達の代もまた、卒業式の前日に思いもよらなかった大きな困難に襲われた。

前日に発生した東日本大震災という大きな地震が原因で、俺達は予定通り卒業式を執り行う事はできなかった。

結局二十日間近くに渡って式は延期され、やっとの思いで卒業式を迎えた時には、既に県外へと離れて行ってしまった同級生も何人かいて、ちょっぴり心残りな卒業式となってしまった。


だから俺達はあの日、約束をしたのだ。

10年後に改めて、この場所で卒業式を開こうと。


残念ながらコロナの影響で、当初約束していた10年目の3月には約束を果たす事は叶わなかったが、2年遅れての今年ついに、かつての仲間達と交わした約束が果たされる運びとなった。


あの時の悔しい経験があるから――

あの時の別れがあったから――

12年経った今、再会の喜びがあるのだ。


今日卒業を見送った教え子達の姿と重ね合わせながら、久しぶりに会う友人達の姿を思い出し、数日後に控えた“約束の日”に心を弾ませた。



だが、一つだけ不安な事がある。

あの日、俺達は82人全員揃ってまた会おうと約束した。


けれど一人、あの地震で行方不明となった桜井真奈だけは今もまだ、連絡が取れずにいる。

どこかで生きている事だけは分かっているが、今どこに住んでいるのか、何をしているのか、震災後の真奈の行方を知る者は俺達同級生の中には誰一人としていなかった。


今もなお、俺の夢の中に会いにきてくれる真奈。その姿は12年前の中学生のまだ幼さの抜けない真奈のまま。

中学生以降の真奈の事を何も知らないのだから当たり前と言えば当たり前の話だが。


真奈と過ごした9年と言う時間と、真奈と離ればなれになってからの12年という時間。気が付けばあいつと過ごした時間以上に、離れてしまった時間の方が長くなってしまった。

それ程までに俺とあいつの間には空白の時が流れてしまっている。


12年も連絡が取れないままで、俺とあいつの間にあった腐れ縁は、既に無くなってしまったのだろうか。

もう二度と真奈とは会えないのだろうか。

約束の日が近づくにつれて、その日を楽しみに思う気持ちと一緒に、つい弱気になってしまう気持ちも沸いてくる。



「…………あぁ~~らしくねぇ! 弱気になるなんて俺らしくねぇ! あいつは必ず帰って来る! 必ず!! 俺とあいつとの間に約束がある限り絶対また会える!」



俺は、自分自身に言い聞かせるようにそう叫んだ。



ふと腕にはめていた時計に目を落とす。

今日は3月10日。2日後の12日が12年前、真奈と交わし、未だ果たされずにいる約束の日だ。


今年こそ……今年こそは真奈が会いに来てくれる。

そう信じて、そう願って……今年もまた俺は、真奈を待つ事を決める。



「頼む真奈……今年こそ……今年こそ会いに来てくれ。12年越しの卒業式を成功させてくれ……」



生徒会室から望む海に願いを託すように、何度も何度も心の中で祈り続けながら、俺はこの日、思い出の生徒会室を後にした。


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