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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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2018年3月12日

ー2018年3月12日


数日後に大学の卒業式を控えていた俺はこの日、4月から人生の新たな1ページを踏み出すべく、母校である東一中の校長室を訪れていた。



「久しぶりですね、佐々木君」

「ご無沙汰してます、校長先生、杉崎先生」

「あの問題児だった佐々木君が、まさか教師としてこの学校に戻ってくるとは、私は想像もしていませんでしたよ」

「はい、4月からまた宜しくお願いします」



俺は校長と元担任だった杉崎先生に向かって深々と頭を下げて見せる。

そう。俺は中学の時に抱いた「教師になる」と言う夢を叶え、4月から母校であるこの東第一中学校で、教師としての新たな生活をスタートさせるのだ。

今日は初出勤前の挨拶も兼ねて、この場所を訪れていた。



「まぁまぁ、立ち話もなんですし、どうぞそこのソファーに腰かけて、少し世間話でもしていきませんか?」


校長先生に促され、俺は部屋の中央に置かれたソファーに腰かけ、かつての恩師達と世間話に興じる事に。



「そう言えば君が卒業式の答辞で、私達大人とした約束は今も覚えていますか?」

「はい、勿論です。この町を必ず復興させてみせますって言ったあれですよね。勿論覚えていますよ」

「あの言葉に嘘のないよう、期待してますよ佐々木()()。くれぐれも学生の時のような問題は起こさないように」


俺の正面で、穏やかな微笑みを浮かべながら、さりげなく釘をさしてくる校長先生に思わず苦笑いを浮かべた。

どうやら校長の中で俺は、相当に信用がないらしい。

校長先生の隣に座る杉崎先生も、クックと肩を震わせ笑っている。



「ははは、頑張ります」



俺の応えに校長は満足気に微笑みながら、更なる他愛のない会話を交わす。



「そう言えば貴方の同級生達は、お元気ですか?」

「はい、皆元気ですよ。それこそこの町の為にって頑張ってますよ」

「そうですか、それは良かった。もし宜しかったら、ちょっとした世間話に皆さんの今の活躍ぶりを、私や杉崎先生に話して聞かせてはいただけませんか? 皆さんは今、どんな大人になっているのでしょうか?」

「そうですね。土木関係の仕事に就いて道路の復旧作業に携わってる奴。建築の営業職について、震災で家を失くした人達に、新しい家の温もりを提供したいって使命感に燃えてる奴。あの地震がきっかけで自衛隊に感銘を受けて自衛隊に入隊した奴、もっと身近な町のヒーロー、警察官を目指してる奴もいますよ。それから、あの震災でお世話になったボランティアの人達に影響を受けて福祉の仕事に就いた奴もいます。どんな時でも人を喜ばせる仕事がしたいって美容師になった奴もいれば、この町の伝統を受け継ぎたいって漁師になった奴もいる。実家の農家を継いだ奴もいます。皆それぞれに人の役に立ちたい、この町の為に何かしたいって、あの卒業式での誓いを胸に、一生懸命頑張ってます」

「そうですか。皆さん、各々が目指す未来に向けて頑張っているのですね。それは頼もしい限りです。君達の活躍が、教師として私は誇らしいですよ。ねぇ、杉崎先生」

「えぇ、本当に、教師冥利につきます」



校長先生と杉崎先生は二人顔を見合せて、お互いに頷きあっていた。



「やっぱり、それがこの仕事のやり甲斐、なんですかね。……俺も早く、先生達と同じ気持ちを味わってみたいです」



俺の言葉に校長先生はニッコリと微笑んで言った。



「私も、君にも是非この気持ちを知ってもらいたいと、思っていますよ。早く一人前の教師になって、教師という仕事のやり甲斐や喜びを、感じて下さいね」


「はい! 頑張ります!」



俺の返事に、またニッコリと優しい微笑みを浮かべてみせる校長先生。



「君とはまだまだ色々な話をしたい所ですが、いつまでも老人の話に引き留めては申し訳ないですね。佐々木君にはあまり必要のない事かもしれませんが、今度は杉崎先生に今の学校を案内をして貰ってきなさい。では、杉崎先生、後は頼みましたよ」

「はい、校長先生」



それまで校長先生の隣に座って静かに俺達の話を聞いていた杉崎先生が立ち上がって返事をした。

俺も杉崎先生に続いて立ち上がる。

そして、深く頭を下げて見せた後、俺と杉崎先生は校長室を後にした。

校長先生も立ち上がって俺と杉崎先生の二人を見送ってくれた。

その姿が、俺が中学生だった頃に比べて背中が丸まり、背も少し小さくなった、そんな気がして7年と言う歳月の大きさを俺は改めて感じていた。



「よし、じゃあ行くか浩太」

「はい」



  ***


杉崎先生に連れられて久しぶりに歩く中学校の校舎。

教室や廊下、階段、トイレ、至る所に懐かしさを感じつつ、でもやはり中学時代とはどこか違って見える景色に、ここでもまた、時の流れを感じた。


それを嬉しいと思う気持ちもあれば、寂しいと思う気持ちもあって、なんとも言えない不思議な感覚を覚える。


そんな不思議な感覚に戸惑いながらも、北校舎、南校舎と順番に案内され、最後に辿り着いた場所は、馴染みの深い東校舎だった。


東校舎の4階、その一番奥には中学時代俺が一番大好きだった場所がある。

『生徒会室』とかかれたこの――



俺はゆっくりとドアを開き、1年ぶりにこの部屋に足を踏み入れる。

そして7年前、俺の特等席だったその場所に1年ぶりに腰を下ろした。


瞬間、窓越しに広がる真新しい景色に目を奪われた。

震災前とは姿を変えながらも、再び綺麗に整えられた田園風景。黒やブラウン、緑に赤茶色とカラフルな屋根が建ち並ぶ住宅地。広い駐車場にビッシリと車が止まっている大型のショッピングセンター。遠くには、漁船が夕日に照されキラキラ光る海の上を気持ち良さそうに泳ぐ姿も見える。


「……一年ぶりにここから見たけど、またこんなに変わってたんだね。この町の風景は」

「あぁ、日々目まぐるしく変わって行くよ」



震災前に見ていた景色とは大きく装いは変わってしまっていたけれど、町の賑わいは7年前のそれに大分近付いてきている。



「凄いな、本当に。凄いよ……」

「あぁ、凄いだろ。一瞬にして奪われたものが、人の手によって長い年月をかけて蘇るんだ。俺達は時に牙を向く自然に、大切なものを奪われては、こうして時間をかけて作り直していく。何百年何千年とそんな事を繰り返しては自然と共存しながら町を発展させてきた。俺達人間は、逆境に立たされれば立たされる程に強くなれる。きっとそんな生き物なんだよな」

「………うん。俺もそう思う」

「そして、その町の復興に今、7年前の約束通りお前達が貢献してくれている。校長に語っていたみんなの頑張りを聞いて、俺は誇らしくて仕方なかったよ。たくましく育ってくれて……」

「え、先生? もしかして泣いてるの?」

「馬鹿言え。誰が泣くもんか」


そう言いながらも先生の目には、今にも零れ落ちそうなくらいの涙が溜まっていて、俺は先生の強がりに付き合って、それ以上深く追求する事は止めた。

先生と俺は、お互いにそれ以上口を開く事はせず、ただただ静かに、目の前に広がる景色を眺め続けていた。


夕日が沈み、空が暗くなりだした頃、ようやく先生が口を開いた。


「そう言えばさ、浩太にずっと聞きたいと思ってた事があったんだ」

「聞きたい事? 何?」

「浩太が中学時代からこの場所が好きだった事は知ってたけど、卒業した後も一年に一度、必ずこの場所に通っていただろ。それも決まって3月12日に。その理由を訊いても良いか?」

「げっ、先生……気付いてたんだ」

「まぁなぁ。ついでに言えば、この生徒会室には、生徒達が噂する七不思議があってな」

「七不思議?」

「あぁ。今お前が座ってるその机。その机の一番上の引き出しがな、何故か鍵がかかってて開かないんだよ」

「……………」

「生徒達の中には歴代の生徒会役員の怨念がつまって開かないだとか、あの震災で亡くなった生徒の呪いだとかって馬鹿な噂を立てる奴らもいるんだけどな」

「…………」

「おぉ、その反応、近からずも遠からずって感じだな。もしかしてもしかしなくても、歴代の生徒会役員の怨念ってお前の怨念じゃないのか? 3月12日に毎年お前がこの場所を訪れる事とも、何か関係してたりとか?」

「…………」

「ほら。学校備品の鍵を盗んだ事は怒らないでいてやるから、正直に吐いちまえ」

「………………」

「ほらほら」

「…………参ったな。先生には全部お見通しか」

「何で鍵なんかかけたんだ? お前の答えによっては、この机の処分中止も考えてやらない事もないぞ」

「えぇ? 処分て、この机捨てられちゃうの? それは困る!」

「だからどうして? どうして困るんだよ」

「それは……大切な物が……入ってるから……」

「大切な物って、何が入ってるんだよ?」


先生に問われて、俺はついには観念して、7年前真奈と約束したあの約束の事を先生に素直に話した。



「おまっ、ずっとその真奈との約束信じて待ってたのか? 今の今までずっと?」



先生の驚きように、俺は恥ずかしくなって顔を両手で覆い隠した。



「別に待ってなくても会いに行けば良いじゃないか。真奈は東京にいるって分かってるんだから」

「詳しい居場所まではわからないだろう。それに、あいつ、中学時代の誰とも連絡取ってないみたいなんだ。携帯はメアドも番号も変わってるみたいだし、あの後真奈がどうしてるのか、知ってる人間はこの町には誰もいない」

「だとしても、いつものお前の行動力なら東京まで探しに行く、くらいの事もしそうなもんだけどな」

「連絡を取ってないって事は、つまりは距離を置きたいって思ってるのかもしれないだろ。震災を経験して、この町でおばさんを亡くして、真奈にとってこの町は思い出したくな辛い場所になっているのかもしれない。もしそうだったとしたら、無理に会いに行ったらあいつを傷付ける事になるかもしれない。俺はあいつを傷付けるのは嫌だ」

「……浩太」

「って言うのは建前で、本当は俺自身が、あいつに拒絶されるのを怖がってるのかもしれない。あいつを探して、会いに行って、もし拒絶されたら? きっと俺立ち直れない。だから俺は情けないけど、過去にしたあいつとの約束を信じて待つ事しかできないんだ」

「浩太……お前……顔に似合わずピュアボーイだな」

「何だよその呼び方。先生、俺の事馬鹿にしてるだろ」

「馬鹿にしてるわけじゃないって。感心してるんだよ。浩太の一途さに」

「絶対バカにしてる!!」


先生の隠しきれないニヤニヤに、俺はもう恥ずかし過ぎて、もう何も反論する気もおこらなかった俺は、机に突っ伏してうなだれた。

何だか先生に恥ずかしい弱みを握られた気がして、念願叶っての夢――楽しみだったはずの教師生活に、一気に暗雲が立ち込める。この先俺は、この話をネタに先生にこき使わるのではないだろうかと。


「安心しろ。この机が処分される事はまだ当分ないだろから。市の財政に関しては、今は復興事業が最優先。教育現場に回すお金の余裕はないらしい。市からお金が貰えなければ、机を買うような余裕資金もこの学校にはない」

「はぁ~? さっきは処分されるかもって」

「ん? ちょっとかまかけてみただけさ」

「はぁぁ~~? なんでそんな事すんだよ!」

「だぁってそりゃあ、気になって仕方なかったからだ。気になった事はどこまでも追求しなければ気が済まない質なんだよ、俺は」


もうそろそろ30代も後半に差し掛かろうかと言う杉崎先生の、まるで子供のようなくだらない理由に、俺はどっと疲れを感じた。


でも、そうは言ってもこの人には今まで散々世話になってきたわけで、結局俺が母校であるこの学校に赴任出来たのも、この人の強い推薦があったおかげなわけで……


先生には感謝してもしたりない程の恩がある。

そんな先生の顔に泥を塗るような真似をしない為にも、俺は先生が与えてくれたこの環境で4月からがむしゃらに頑張って行こうと、そう固く心に誓った。


そしてついに、長年の抱いてきた夢の舞台に足を踏み入れる。その“瞬間”に心躍らせた2018年3月12日――



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