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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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2014年 3月

――2014年3月▪︎中学校の体育館



「おう浩太、お前また来てたのか」

「あ、先生、久しぶり。1ヶ月ぶりくらい?」

「久しぶりって、卒業生とそのやり取りを交わすのは、普通1年とか2年とか、それくらいの長いスパン会ってない時なんじゃないのか?」

「今まで1ヶ月も先生と顔を合わせなかった事なんてなかっただろ。十分久しぶりじゃないか」

「あ~あ~そうだな。久しぶりだな浩太」



呆れ顔を浮かべながらも、俺の会話に合わせてくれた先生。

その返しに満足気に微笑みながら、俺は先生から視線を体育館の舞台上へと向けた。



舞台上の壁一面には、真っ青な空と海が広がっていた。

海の上には何隻もの漁船が大量旗を掲げて泳いでいて、まるで震災前の賑やかだった頃の景色を見ているような、そんな懐かしい景色がそこに広がっていた。


まだ完成前なのか、所々空白の箇所があるものの、その圧巻の景色を、俺達以外にも多くの町の人達が、懐かしそうに眺めている。



「今年も力作だろ。お前達の学年が卒業してから、すっかりフォトモザイクアート制作が毎年の卒業生達の恒例行事になってるよ」



恒例となったフォトモザイクアートを見に、毎年多くの町の人達がこの時期学校へと訪れている。

学校側もこの時期ばかりは学校内を一般開放して、見物客を受け入れている。

年々増えているようにも感じる見物人の数に、卒業生としてなんだか誇らしい気持ちになった。



「そっか。なんか嬉しいな。まだ続けてくれてるなんて。それに、なんか年々手の込んだ作品になっていってるね。これって震災前の町の様子?」

「そうみたいだな」

「凄く……懐かしい景色。なんか懐かしさに元気貰ったよ。きっと皆頑張って作ったんだろうな」

「だろ。今年の作品も、立派なもんだ。でも3年前のお前達が初めて作ったフォトモザイクアートを見た時も凄かった。俺も元気を貰ったよ。俺だけじゃない、きっと多くの人達が、今の浩太みたいな気持ちになってたはずだ。だからこそ、それを見ていたお前の後輩達が、俺も私もって、受け継いでるんだろうな」

「……だとしたら、嬉しいな」



先生に怒られる事はあれど、誉められる事なんて殆どなかった俺は、何だか照れ臭い気持ちになった。

と同時に、少しでも誰かの心に何かを届けられていた事が、素直に嬉しかった。



「そう言えば浩太、高校卒おめでとう。これ、俺からの卒業祝だ」



そう言って先生は突然に、後ろ手に持っていた紙袋を渡してきた。



「え、何? 何くれるの先生?」

「開けてみろ」

「マジで? 先生ってそんなに気前の良い人だったっけ? 俺ちょっと先生の事見直したかも………ってこれ、先生からじゃないじゃん!」

「ん? バレたかぁ」

「先生に期待した俺が馬鹿だったよ」

「悪かったな。気前の悪い人間で。所詮俺は、安月給の公務員だからな」



俺の反応に、先生は楽しそう笑いを溢しながら話を続けた。



「――で話を戻すが、実はな、お前が顔を見せなかった間に、菊地さんから預かってたんだよ。お前、卒業式の後にお願いしてたんだってな。卒後式の日にフォトモザイクアートをバックに皆で撮った記念写真を現像してくれるようにって。覚えてるか?」

「うん、勿論覚えてるよ」

「時間かかったけど、用意出来ましたって。わざわざ学校まで持ってきてくれたんだ。元担任の俺なら連絡が取れるんじゃないかって」

「そっか」



3年前、俺達のピンチを救ってくれた菊池のおじさんの顔が

懐かしく思い出された。

卒業式の後、無理を言って現像お願いした俺の我が儘を、快く引き受けてくれた菊池のおじさん。

けれど、その後何度か店に通った後に、半壊していた建物は、町の復興計画の一環としてそのうちに取り壊されてしまって、俺とおじさんとの連絡手段は無くなってしまっていた。



「菊地スタジオさんな、3年かかってやっと、店を再開できるまでに漕ぎ着けたんだって。新しい店舗も完成して、近々営業を開始するらしいぞ」



先生の話に俺はほっとする。

店の取り壊しが決まった時、俺が最後に見たおじさんは酷く落ち込んでいるように見えたから。



「そっか。それは、おじさんにおめでとうを言いに行かないとな。先生、お店の場所教えてよ」

「そうだな。ついでに、この写真もありがとうございましたって、ちゃんと御礼言ってこい」

「うん!」

「ところで浩太、こんなに大量に現像をお願いして、この写真は一体どうするつもりなんだ?」

「それはね、3年前に皆と約束した、同窓会への招待状に使おうかと思って」

「お、同窓会開くのか。いいな~。勿論先生も呼んでくれるんだろ?」

「……………」

「おい何でそこで無言になるんだよ」

「先生も呼んで欲しいの?」

「なんだよその言い方。まぁ、そりゃあな、元担任としてはな、そりゃ~呼んでくれたら嬉しいさ。でもな、別にそんなどうしても参加したいとか思ってるわけでもないさ。先生が、邪魔者だって言うんなら……別に……無理して呼んでくれなくても……」

「そ? じゃあ~」

「あ~~~っ」

「ちょっと何? 良い歳して大声出して」

「あ~っと……え~っと………いつ開く予定なんだ?」

「あと7年後」

「はぁ?! 7年後て……どんだけ先の話だよ。気が早すぎやしないか?」

「まぁね。でも、まだ地元に残ってる奴等が多いうちに渡しとかないと。大学進学する奴らは県外行く奴とか多いし、後々連絡が取れない奴がいて渡せなくなったら嫌じゃん。ついでに、俺一人で何十枚も宛先書くのとかめんどいし。今のうちに手伝わせようかと」

「成る程、最後のそれが一番の理由だよな。お前、意外と腹が黒いな」

「え? 何の事? 黒いって何が?」

「……いや、もういいや。いちいち突っ込むのも面倒臭くなって来た」

「嘘だよ。一番の理由は、みんなこの写真見たがってたからさ。早く渡してやりたいんだ。はい、これは先生の分」



そう言って、写真と一緒に「同窓会のお知らせ」とかかれた紙を先生に手渡す。



「浩太? これ、もしかして俺も参加して良いって事か?」

「勿論。最初から先生の分も頼んであったし。同窓会に呼ぶつもりでさ。さっきのはちょっと、先生をからかってみただけ」

「からかうってお前、仮にも俺は教師で年上なんだぞ」

「ゴメンゴメン。先生てさ、からかうと面白いから」



先生は、ばつが悪そうに眉を潜めていたけれど



「まぁいい。俺は心が広いからな。許してやるさ」



一瞬にして笑顔へと変わったものだから



「そんなに嬉しかったんだ」



またからかってしまう。



「ばっ、違っ!そんなわけ」



先生の反応に堪えきれず、俺は思わず吹き出してしまう。

どうやら、からかわれる理由を自分自身でも理解したようで



「所で……まだお互い連絡取り合ってるんだな。お前達」



先生は、一度態とらしく咳ばらいをした後、あからさまに話題をそらした。




「勿論」



俺も、素直に先生の話題にのっかる。



「地元に残ってる奴らとは長期休みの度に顔合わせてるし、震災の後、県外に引っ越して行った奴らともメールのやり取りは続いてるよ。皆が高校卒業後、どんな進路に進むのか、お互いに把握しあってるくらいには俺達の絆は固いよ。あの時の経験が、俺達に強固な絆を築かせてくれたんだ」

「……そっか。失った物も確かにあったけど、得たものも大きかったって事か」



先生の言葉に俺は力強く頷いた。



「そうだ。聞いてよ先生。得たものと言えば、祐樹のおばさんとおじさんがさ、あの地震をきっかけに再婚したんだって。今は家族四人、仲良くおばさんの田舎町で暮らしてるんだって」

「おぉ本当か? そりゃ良かったな! 嬉しがっただろ、祐樹も」

「それがさ、二人のラブラブっぷりに嫌気がさしてるみたいで、祐樹から毎日のように愚痴のメールが届くんだ」

「ははは。仲が良いのは良い事じゃないか」

「俺もそう言ってるんだけどね~。息子としては迷惑なんだって。まぁ、何にしても幸せな悩みだよ」

「何だかんだ、今の祐樹は幸せそうで安心したよ。去年事故にあって、意識不明だって訊いた時には肝が冷えたが」

「うん、俺も安心した」

「……お前はどうなんだ? 今、幸せか?」



先生の唐突な質問に、一瞬面食いながらも、俺はニッコリと微笑んで答えた。



「うん、幸せだよ。だって、毎日が充実してるから。夢に向かってがむしゃらに過ごす毎日は、凄く充実してて、すっげー楽しいんだ」

「そっか」

「あ、そうだ!俺、先生に報告したい事があって今日ここに来たんだった」

「お、何だ何だ?」

「俺ね、第一志望の大学合格したよ!春から、県内の教育学部のある大学で大学生やるよ、俺!!」

「おぉ、そっか! 合格したか!!」

「うん、今日が合格発表だったんだけど、掲示板に俺の番号、ちゃんと乗ってた!」

「そっか!良かったな!」

「うん! 学校選びから学費の悩み、先生にはいっぱい相談したし、受験勉強も見て貰って、感謝してる。ありがとう先生。先生のおかげで俺、無事に大学に進学出来たよ!」

「……お前が素直だと、逆に怖いな。まぁその気持ちは素直に受け取っておくよ。でも、俺は何もしちゃいないさ。お前が一番感謝しなきゃいけないのはご両親、だろ? ちゃんと報告したか?」

「ううん、まだ。さっき合格発表確認してきた所だから、この後報告に行くつもり」

「ちゃんとありがとう言っておけよ。お前が知らない所で、お前の将来の為に、コツコツ教育費用貯めてくれてたんだろ」

「うん。俺、こんな事になるまで全然知らなかったよ。俺はずっと、父さんと母さんは俺を進学させるつもりなんてないんだとばかり思っていたから」

「口では漁師になれって言ってみせても、お前がどんな道を選んでも良いようにって、貯めてくれてたんだろうな。最初っから、お前自身が選んだ道に進ませるつもりだった。優しい親御さんじゃないか」

「だったら隠さずに、最初からわかりやすく応援してくれれば良かったのに」

「お前の本気度を試したかったんじゃないのか」

「そうなのかな? 俺は単なる臍曲がりだと思うけどな」

「ははは、お前にそっくりじゃないか」

「?!どこがだよ!」



先生はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、先程渡した同窓会の招待状をヒラヒラと見せびらかす。



「う゛………」



何も反論出来ない。

確かに俺のこの性格は親譲りかもしれない。




「先生、それってさっきの仕返し?」

「まぁな!」

「………はぁ」



勝ち誇った顔で即答されて、俺は深いため息をついた。



「とにかく。お前が今、夢に向かって歩いていられるのは、ご両親のおかげだ。二人に恥じないように、頑張って夢叶えてこい!」

「分かってるって。俺、絶対教師になるよ」

「言っとくけど、そう簡単な道じゃないからな」

「そうかな? 先生がなれたくらいだから俺だってきっと」

「言ったな、こいつ。言っとくけどな、たとえ仮に教員免許を取れたとしてもだ、その先が大変なんだからな! 今は子供の数も減って、学校の数も減ってる。免許をもっていても、必ずしも配属先が見つかるとは限らないんだからな!」

「……………」



先生の言葉に俺が無言になると、まるで勝ち誇ったような顔で言葉を続けた。



「ま、そんな不安そうな顔するな。いざとなったら、俺の力でここへ引っ張ってやるから。ただし、今後の俺に対しての態度を改めればの、話だがな」

「…………」

「まぁ、何を言いたいかと言えば、今後は俺への態度を改めろと……」

「そんな偉そうな事言って、まだまだ若造の先生に、そんな力ないでしょ、どうせ」

「ぐはっ……」

「じゃあね先生。俺、こう見えても忙しいからさ。これ以上先生に付き合ってる暇ないや」



くるりと踵を返し、先生の元から離れて行く俺。

そんな俺の背中に、先生の怒鳴り声が飛ばされた。



「あ、コラ浩太!だからその俺を馬鹿にした態度を改めろと……ってコラ!無視するな!聞いてるのか?コラ~~~~!!」



先生の怒鳴り声に俺は肩を震わせながら、後ろを振り返ることなく体育館を後にした。



体育館を出るなりそのまま校門へと向かい、そこに止めてあった自転車にまたがる。

町へと続く坂道を、自転車で一気に駆け降りて行く。

そこから見える景色の変化に俺の心は踊る。



3年前、学校から続くこの坂道を降りた先は、家屋などのあらゆる瓦礫が散乱していて、人や自転車がなんとか通れる程の道幅しか確保されていなかった。

けど今は、それらの瓦礫は綺麗に片付けられて、車が何台も、当たり前に走っていく。



3年前、この坂道から見る遠方の景色は、見渡す限り土色で、何とも殺風景な景色だった。

だが今は、どこまでも続く平野には雑草が根付き、鮮やかな緑色が広がっている。



どんな荒れ地でも、こうして草木は逞しく地に根をはり、天に向かって真っ直ぐに伸びていく。

自然がもつ再生能力。

その強さと神秘に、俺は何度となく励まされて来た。



あの地震から今年で3年。

3年経って、俺達の町はやっと瓦礫の撤去作業が終わる目処がたち、新しい町作りが始まろうとしていた。


正直、3年経った今もまだ復興にはほど遠い。問題も課題も山積みだ。

けれど、3年前と比べれば、確実に町は生まれ変わって来ている。


ゆっくりと。

でも確実に。


この先の3年後、5年後には、いったいどんな景色に変わっているのだろうか?

未来を想像した俺の胸は期待に高鳴る。


そんな高鳴る鼓動を抑えながら、俺は目の前に続く長い長い一本道を、ただひたすらに、走り続けた。


2014年の3月――



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