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浩太と真奈の腐れ縁


――3月


つまりは真奈と上手く話せなくなってから、あっと言う間に半月が経ってしまったと言うわけで、こんなにも長い間、あいつと口をきかなかった事なんて今まであっただろうか?


今日もまた真奈と話せないまま1日が終わろうかと言う帰りのHR、俺はぼんやりとそんな事を考えていた。


あいつと話すようになったきっかけって、そう言えば何だったっけ?


もう昔の事過ぎて思い出せない。


じゃあ、あいつと初めて出会ったのはいつだっただろう?


うん。それは、はっきりと思い出せる。

小学校の入学式の時だ。



桜井真奈

佐々木浩太



苗字が「さ」から始まる俺達は、入学初日にあいうえお順で用意された座席に前後で座らされた。


当時まだチビだった俺は、俺より背の高い真奈に、視界を遮るデカイ女と、そんな第一印象を抱いた事を覚えている。


以来、毎年のように新学期になると俺の前の席には真奈が座っていて、また同じクラスかとお互いうんざりしながら言い合いの喧嘩をする。それが欠かせない毎年の恒例行事となっていた。



だが、“恒例”の中にも変化は生じていて――



『前に座ると視界を遮るデカイ女の子』だった真奈が、『小っこくく細くてか弱い女』に変わって行ったのは、いつからだったろう?


腐れ縁が長過ぎて、とても思い出せないな。



腐れ縁と言えば、あいつとの腐れ縁は9年間クラスが一緒だった事だけに留まらない。


委員会活動に部活動、選択授業でさえも何故かあいつとはいつも同じものを選んでしまうのだ。


俺の行く先々には、不思議なくらい必ずあいつの存在がいつもあって、そう言えば前に一度、冗談混じりに「俺の事が好きで追いかけて来ているんじゃないのか」と、からかった事があったっけ。


それに対するあいつの答えは、強烈な顔面パンチ。

あのパンチは今思い出しても強烈だった。


まぁ、今となっては良い思い出だけど。



バレンタインの告白も、いつかは良い思い出になる日が来るのだろうか?




「……太。こら浩太。さ・さ・き・こ・う・た!」


「っは、 はい?!」



名前を呼ばれてはっと我に返る。


クラス中を見渡せば、全員立っている中俺だけが座っていて、皆の視線を集めていた。



そう言えば、今は帰りのHRの最中だったと言う事を思い出して、俺は慌てて立ち上がった。



「何をぼけ〜とほうけてるんだお前は。お前が立たないと帰りの挨拶が出来ない。HRを終えられないぞ」




呆れ顔の担任、杉山先生が放った言葉に、クラスのあちらこちらからどっと笑いが沸き起こる。



「どうせこの後、桜井と二人の下校風景でも妄想してたんだろ? どうやって桜井と手を繋いでやろうか、とかさ」

「そう言えばバレンタインの後、二人ってどうなったの?」



と同時にクラス中からあがる冷やかしの声に、俺は顔を真っ赤にして怒鳴り返した。



「ばっ違ぇーよ! 変な事言うな! あいつとは別に何ともなってない! お前らもいちいち馬鹿みたいに冷やかすな!!」

「何ムキになってんだよ浩太。益々怪しいぞ~」

「うるせ~!!」




あぁ〜くそ……どいつもこいつも他人事だと思って冷やかしてきやがって。恥ずかしすぎる!!


やっぱり早く卒業して真奈との事なんて忘れてしまいたい!

全部無かった事にしてしまいたい!!


こうなったのも全部、全部全部あいつのせいだ!


恨みの念を込めて、俺は全ての原因である真奈を思いきり睨みつけてやった。


瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねた。

真奈が、今にも泣きそうな顔をしていたから。



――『恥ずかしいからってお前一人だけ逃げて良い理由にはならないだろ。彼女だって恥ずかしくないわけないんだから』



あの日、祐樹に言われた言葉を思い出す。


祐樹の言う通り、恥ずかしいのは俺だけじゃなかったんだ。

あいつだって同じように恥ずかしい思いをしていたんだ。


冷静になって後悔する。

今のは、あいつは何も悪くない。

俺のせいでかかなくて良い恥をかかせてしまった。

あいつにとっては、俺のせいでとんだとばっちりだ。


申し訳ない気持ちになって、先生の「解散」の声を聞くや否や、俺は真奈の元へと急いで駆け寄ろうとした。



けれども、俺が声をかけるより先に――



「桜井、大丈夫か?」

「うん……平気だよ。心配してくれてありがとう、沢田君」



祐樹に先を越されてしまう。

二人の姿を前にして、俺は先程抱いた反省や後悔と言った感情をあっさり手放し、再びイライラとした醜い感情に支配されてしまった。


何で……何でさっきまで泣きそうな顔してたくせに、祐樹が声をかけると笑顔見せんだよ。

お前が好きなのは、俺じゃないのかよ。

なのにどうして……


あぁ〜イライラする!



「くそっ!」



俺は窓際の席の真奈へと向けていた進行方向を急遽廊下へと変更すると、足音荒く、まるで二人から逃げるように教室を出て行った。


廊下突き当たりにある階段を数段降りた所で、ふと自分が手ぶらである事に気付いた。



「……何やってんだ、俺は……」



鞄を持って来ていれば、このまま帰る事が出来たものを、鞄を持ってくるのを忘れたばっかりにそれはかなわない。


今更鞄を取りに戻るのも、どうにも格好がつかないし。



「はぁ………」



深い深いため息が心の底から溢れ出た。


もう今は、ここではないどこか静かな場所に行きたい――





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