真奈の行方
忙しく充実した日々はあっという間に過ぎて行き、卒業まで残り二日に迫った頃――
沢山の人の協力もあって、俺達のフォトモザイクアートづくりもいよいよ大詰めへと差し掛かっていた。
更には運も見方してくれたのか、電気もようやく復旧し、時間がかかっていた印刷等の機械作業も難なく出来るようになっていた。
おかげて作業効率は格段に上がり、何とか卒業式にも待に合いそうだ。
今まで当たり前だと思っていた俺達の生活がどれだけ電気の力に助けられて来たのか、今回の地震で俺達は身に沁みて感じるようになっていた。
***
「なんか、ここまで形になってくると、感慨深いものがあるな」
「あぁ、そうだな」
深夜2時をまわった頃、周囲が寝静まる中、俺と祐樹はこっそりと体育館を訪れて、完成が間近に迫ったモザイクアートを壇上から眺めていた。
「正直、最初はどうなる事かと思ったけど」
「おいおい、言い出しっぺのお前がとんだ爆弾発言だな」
「いや~だって本当に思いつきだったし、こんなに大変な事だとは思ってなかったし」
「お前なぁ……」
「へへへ」
「笑いごとじゃねぇ!」
「バッカ祐樹、そんな大きな声出したら皆起きちまうだろ」
「バカはお前だ浩太。そうさせてる張本人のお前が言うな、お前が!」
「だからうるさいって祐樹」
「…………はぁ。俺、浩太と話してると疲れる……」
「そうか? 俺は楽しいけどな」
「はぁ~……ここに桜井がいてくれたらな。ツッコミ役の半分は引き受けてくれるのに……」
「あっ、そうだ真奈!」
「?? どうした?」
「そう言えば、フォトモザイクアートの中に、真奈も入れて貰おうと思って、生徒会室から持って来てたんだった」
そう言って俺は学ランの胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
「その写真………」
「あぁ、俺達3人が生徒会に就任した祝いに撮った写真だ。真奈も、あの沢山の思い出達の中に入れてやらないとな」
「……あぁ、そうだな」
そう言いながら、俺はフォトモザイクアートの空いてる場所に俺達の思い出の写真を貼った。
すると背中越しに、祐樹から思いがけない弱音を吐露された。
「なぁ浩太」
「ん?」
「……結局さ、未だに櫻井からは何の連絡もないけどさ……櫻井は今、どこで何してるんだろうな。生きて……るよな? きっと……」
「あぁ、あいつは生きてるよ。絶対生きてる」
「絶対って、何の根拠もないのに凄い自信だな。まるで浩太は確信してるみたいだ。……でも俺は、時間が経てば経つ程、正直不安が強くなってる」
祐樹の吐露した不安な思いに、一瞬空気は重たくなる。けれど俺は、あえて聞こえなかったフリをして、努めて明るく言葉を続けた。
「みたいじゃない。俺は確信してるんだ」
「どうして?」
「どうしてって、だって祐樹が言ってくれたんだろ。夢にあいつが出てくるのは、あいつが生きてて、俺に会いたがってるからだって」
「浩太の夢には、まだ桜井が出てくるのか?」
「あぁ。毎日夢で会ってる。夢に出て来てくれる限り、あいつは絶対に生きてる。生きてる限り俺達は絶対にまた会える」
「ははは、羨ましい程の自信だな。絶対なんて確証もないのに」
「確かに確証はない。けど、俺と真奈の間には約束がある」
「卒業式の後に渡したい物があるって、あれか?」
祐樹の言葉に俺はコクんと頷いた。
「絶対卒業式に来いって約束したんだ。卒業式が終わったら渡したい物があるから、絶対生徒会室に来てくれって」
「……そっか」
「超が付く程の真面目人間だからな、真奈は。約束した事は絶対に守る。だから絶対にまたあいつに会える。俺はそう信じてる」
「……そっか」
「あぁ」
祐樹は、否定するでもなく、肯定するでもなく、静かに頷いていた。
そのやり取りを最後に、俺達の間の会話は途切れた。
そして写真を貼り終えた俺達は、体育館を後にした。
体育館から俺達が寝床としている3-3組の教室へ戻る
間も、俺達と祐樹の間には長い沈黙が続いていた。
教室へ戻ってから毛布へくるまるなり俺は、疲れがたまっていたのかすぐに頭がぼんやりとし始めて、俺の意識は夢現の世界をさ迷い始めていた。
「………たまにな」
「………ん~?」
ぽかぽかと、祐樹の体温を側に感じながら、どこか遠くで聞こえる祐樹の声に、ぼんやりする意識の中、返事をする。
「………って浩太、寝たのか?」
「…………ん~……」
「寝た……んだな」
「…………」
「たまに……羨ましくなるよ。浩太と桜井の腐れ縁が。俺も、もう少し早く二人に出会えていたらって、たまに思うんだ。そしたら俺も少しは、桜井とお前、二人の仲に入る事が出来たのかなって。ずっと………羨ましかったんだ。浩太と桜井の間にある絆が……」
「ば~か、お前もその腐れ縁の仲間だろ」
「浩太、お前……起きて?」
「この先、祐樹とも真奈とも、腐れ縁を切るつもりなんて、俺には全くもってないっつ~の。むにゃむにゃ………」
「ってやっぱり寝て……るのか?」
「これから先、何年、何十年経とうと、たとえどんなに離れようと、俺と祐樹、そして真奈の腐れ縁は、ずっとず~っと続いて……いくんだ……よ……すぅ…………すぅ…………」
「浩太、ありがとう――」
夢の中で、祐樹が何か言ってた気がするけど、俺も何かを喋ってた気がするけど、夢だったのか現実だったのか、今となってはうまく思い出せない。
ただ、酷く眠たくて、瞼が重たくて、俺は明日に備えていつの間にか深い深い眠りに落ちていた。
明日が、泣いても笑っても卒業式まで残された最後の一日。
ラスト一日はきっと、時間との戦い――




