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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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浩太の夢

泣いている間、ずっと肩を貸してくれて、大きな手で背中を擦ってくれながら、先生が俺にこんな話を聞かせてくれた。



「知ってるか浩太。この地震で、日本人が世界から称賛されている事を」

「……」

「日本人はこの大災害の状況下でも他を思いやった行動が出来る。光電話の時も、毎日の配給も、俺達は当たり前に列に並び、順番を待つ事が出来るだろ。割り込みをする人間なんて誰もいない」

「………うん」

「地震が発生した時もそうだ。避難の際に慌てて押し合って、パニックになるような事もなかった。皆落ち着いて行動していた。それどころかお前達は、俺達教師から言われたわけでもないのに、当たり前に怪我人に手を貸して、助け合って行動していた」

「………」

「さっきのお前の行動だってそうだ。お前自身腹が減っているだろうに、それでも裕樹の弟に自分の分の配給を分けてあげようとした」

「それが何だって言うの? だってそれは全部……全部当たり前の事だろ?」

「そうだな。列に並ぶのも、困っている人に手を貸すのも、俺達にとっては当たり前の事だ。でも世界にとっては驚きでしかなかったんだよ。こんな自然災害を前にして、水もない、食料もない、生活に必要な物資が足りていない中、何故暴動が起きないのか? どうして皆冷静でいられるのか? どうして他を思いやった行動が出来るのか? そんな疑問の声が上がっているらしい」

「………」

「と同時に、日本人の国民性を世界が称賛してくれている」

「……国民性?」

「そう。その国が辿った歴史や、土地が持つ風土に影響されて形作られた、それぞれの国民が国毎に持つ性質や個性の事。日本人は、海外から真面目で几帳面で、礼儀正しいと言われている。でもな、いくら同じ土地に住んでいるからと言って、ただそれだけで皆が皆、同じ性質を持てる筈がないんだ。だって、人には其々に個性があるんだから。じゃあどうして似かよった性質が備わるのか? 浩太はどうしてか分かるか?」

「…………そんな難しい事、わかんないよ」

「そうか。じゃあ、質問を変えよう。どうして浩太は、毎日配給の列に並ぶ? どうして何十分とかけて律儀に順番を守ろうとするんだ?」

「どうしてって、だって……俺より先に並んでる人がいるのに、その人達を差し置いて割り込むなんて、そんな迷惑な事できないよ。順番を守るなんて、そんなの人として当たり前のルールだろ? 人に迷惑をかけるなって、俺は小さい頃から父さんや母さんから散々教えられて来た」

「そう、そうだよな。つまりはそう言う事なんだよ浩太」

「……え? ……そう言う事って? ……どう言う事?」

「外国人が、今日本人に向けて贈ってくれる賛辞の多くは、日本人にとってはごく当たり前の事で、小さい頃から親や教育の場で教えられてきた常識なんだ。

浩太の両親だって、同じようにして子供時代に親や学校から教えられてきた事を、浩太に教えていたはず。そのまた親だってきっと――

つまり国民性とは長い年月をかけて、先祖から代々教え伝わってきた日本の教育そのものなんだよ。教育が人を育て、そして国を形付くっている。面白いと思わないか、教育って」



楽しそうに話して聞かせる先生に、俺はコクんと小さく頷いた。



「うん……面白い……」

「だろ?!」



俺の賛同に、先生は本当に嬉しそうに笑っていた。



「被災して、今は本当に大変な時だけど、でも生徒達の互いに協力しあって、励ましあっている姿を見てると思うんだ。あぁ〜俺は教師やってて良かったな。教師になって良かったなって」

「………」

「と同時に、一つの新たな目標を見つけた」

「……目標?」

「あぁ。日本人の国民性は世界に誇れるものでもある。けれど、残念ながら良い一面ばっかりじゃない。悪い一面もやっぱりあって、それを教師である俺が少しでも正して行ければ、そう思った」

「悪い……一面……?」

「あぁ。お前みたいに、日本人が人前で泣けない所だよ。どんなに辛くても、苦しくとも……自分の中でグッと堪えてしまう。それが美徳と教えられてきたからな。でも……そんな自分の中だけでグッと堪えてたら、ストレスでいつか心が壊れちまう。本当につらい時は、苦しい時は、我慢しなくて良いんだ。弱音を吐いたって良いんだよ。内に溜めていた物を外に発散させる事で、乗り越えられる悲しみや苦しみだってきっとある。次へ進む糧になる事だってきっと……。俺はそう思ってる」

「…………」

「――っと、我ながら子供相手に熱く語り過ぎちまったな。……どうだ、少しは落ち着いたか?」



先生からの問いに、俺は制服の袖で涙を拭きながら、コクンと小さく頷いてみせた。



「そうか。なら良かった。内に溜めてたもん沢山発散して少しはすっきりしたろ」

「……うん。ありがとう、先生」

「どういたしまして。よし、これでお前はきっと大丈夫。辛い現実とも逃げずに向き合って、いっぱいいっぱい泣いたんだ。浩太ならきっとこの経験を乗り越えて、未来へと歩き出す強さに変えられる。先生はそう信じてる」



先生はニッコリ微笑むと、俺に向けて真っ直ぐに、疑いの無い視線を向けてくる。



「……うん……大丈夫だよ。今度こそ本当に大丈夫」

「よし、良い笑顔だ。やっとお前らしさが戻ってきたな」



そう言って先生は、俺の頭をポンポンと優しく撫でてくれた。

先生の手の大きさと温かさに、俺は勇気を貰った気がして、更に笑いじわを深くした。


そして、先生のおかげで霧がかかっていた俺の道に、一筋の光が見えて来た。そんな気がた。




――『面白いと思わないか、教育って』



先程の話と共に、先生が口にした言葉が俺の頭にこだまする。


見つけた、俺の夢。

絶望の中で、未来への希望を――



「やっと見つけた」

「? 何を見つけたんだ?」

「俺の夢。俺、教師になりたい」



俺の言葉に、先生は一瞬驚いたような顔をした。

でもその顔はすぐに優しい笑顔へと変わって行って



「そうか、お前が教師にねぇ」

「うん。先生の話聞いてて思ったんだ。日本の世界に誇れる国民性を、この先も守って行きたいって。父さんや母さんが俺に教えてくれた事、二人の生きた証を、これから生まれてくる沢山の子供達に伝えて行きたいって」

「そうか、やっと見つけたか。良かったな。お前、ずっと探してたもんな」

「………うん」

「お前ならきっと良い教師になれる。俺が保証する。頑張れよ、浩太!」



初めて口にした自分の夢を応援されて、少し照れ臭い気持ちになった。

それと同じくらい心強い気持ちになった。



父さん、母さん。

俺、やっと自分の夢を見つけたよ。

俺、先生みたいな教師になるよ。

もし二人が生きてたら、俺が見つけたこの夢を応援してくれたのかな。

してくれてたら、嬉しいな。

どんなに望んだってそれはもう叶わない事だけど……

でも俺、頑張るから。

二人の分も頑張って生きて行くから。

だからこれから先も俺の事、見守っててね。




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