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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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23/47

面影

その途中、職員室を目指し2階へと上がる階段の所で杉崎先生と出くわした。



「あれ先生? 何やってんの、こんな所で?」

「お前がなかなか戻って来なかったから、逃げ出したのかと思って探しに行こうとしてた所だ」

「そんな逃げないよ先生、安心して。あ、ついでに言うと次で最後だから」

「……そうか。ありがとな」

「どういたしまして。んじゃ俺急いでるから、ラスト一箱運び終えたらもう解放してくれるよね? 」

「あぁ」

「そ、じゃあね。先生」



先生を追い越して階段を駆け上がろうとした時。



「浩太」

「何?」



先生に名前を呼ばれて振り返る。



「偉かったな」

「?? ……何が?」



突然に、何を褒められているのか分からなかった俺は、キョトンとした顔で先生に尋ねた。




「さっき、階段の下で、祐樹の弟がイジメられてる所を助けてただろ」

「先生見てたの?」

「まぁな」

「いつから?」

「お前が助けに入る少し前から」

「なんだよ。見てたんならもっと早く元樹助けてやれよ」

「助けに入ろうと思ってた所に、丁度お前が来たんだよ。だからこっから高見の見物」

「………あっそ」



先生のくせに頼りにならないと、俺は大きなため息を吐く。

これ以上話していても時間の無駄だと、止めていた足を再び動かし残りの階段を上り始めた時――




「偉かったな」



先生は改めて先程と同じ言葉を口にした。



「別に、当たり前の事をしただけだよ」

「お前は気付いてない。当たり前に出来る事が凄いんだ」

「……?」



変な事を言う先生に、再び足を止め、再度先生の方を振り返る俺。

すると先生は、まっすぐな視線を俺に向けてこう言った。



「考えた事あるか? 何でそれがお前の中で当たり前なのかって」

「はぁ? 当たり前は当たり前だから当たり前なんだろ?」

「違うな。お前の中で当たり前になるまでには、それを教えてくれた人の存在があるからだよ」

「…………」

「人は生まれたばかりの時は何も持っていない。言葉も知識も、善も悪も何もない。そんな真っさらな赤ん坊が、今のお前みたいに当たり前に立って、歩いて、話している。それが当たり前に出来ているのは、それをお前に教え、支えてくれた人がいたからだ」

「……」

「正しい善悪の判断が出来るのも、それを何度も何度も教え、導いててくれた人がいたからだ」

「………」

「人を思いやる気持ちが当たり前にお前の中に存在してるのは、それをお前の中で当たり前になるまで何度も何度も諭してくれた人がいたからだ」

「………………」

「今の“浩太”があるのは、15年間育ててくれた両親のおかげなんだよ」



そう言って先生はゆっくりと階段を上って、俺との距離を縮めて来る。

俺の二段下で足を止めると、先生はとても近い距離でまっすぐに俺を見つめた。

そして、人差し指を不意に俺の胸元に突き刺して――



「お前の両親は死んでなんかない」

「…………」


トントンと二回、軽く叩く。



「お前の中で、今もこうしてちゃんと生きてる。そう、思わないか?」

「……っ!」



先生の言葉に、俺の中、父さんも母さんの記憶が一気に溢れ出した。






***********************



『浩太、男なら泣くな! どんなに辛い時でも人前で泣いちゃダメだ!』


幼稚園の頃、近所の小学生と大喧嘩をして、泣きながら帰った俺に父さんが掛けてくれた言葉。




***




『浩太も今日から小学生だな。じゃあ、少し大人になった浩太に、父さんからお願いがあります』

『お願い?』

『そう。お願い1、学校のルールは守ること。お願い2、人と交わした約束は守ること。お願い3、人に迷惑をかける行いは絶対にしないこと。約束出来る人この指止〜まれ!』

『はいはいは~い! 僕約束出来るよ!』

『浩太は良い子だな。よし、じゃあ父さん指切りだ』ー


小学校の入学式の日、学校までの道のりを父さんと母さん、二人に手を繋がれなが約束した父さんの教え。




***



『浩太! お前、また真奈ちゃんと喧嘩したんだって? 真奈ちゃんは女の子なんだか弱い者イジメはダメだって何度も言ってるよな。ほら、悪い事したら何て言うんだっけ? 真奈ちゃんにちゃんと謝って来なさい!!』


小学校低学年の頃は、男女の概念なんかまだなくて、男勝りだった真奈とよく喧嘩をした。その度に父さんに怒られて真奈の家に謝りに行かされた。




***




『こ~ら浩太! 宿題は? 終わったの? 遊びに行くのは良いけど、ちゃんとやること終わってからっていつも言ってるでしょ!』



小学校の中学年になると、友達と遊ぶのが楽しくて、放課後は宿題もしないでいつもふらふらと遊び歩いてた。そんな俺に母さんは毎日のように雷を落とされていた。




***



『浩太、困っている人がいたら優しく手を差し延べてあげてね。お母さん、優しい浩太が大好きよ』ー



更に高学年にもなると、いじめをするような奴も現れはじめ、母さんは俺にいじめられてる人間を助けられるような強く優しい男になれと望んだ。




***



『ねぇ浩太、負けたのが悔しくても下ばかり向いちゃだめよ。上を見なくちゃ。上を向いて、前を向いて、その悔しい気持ち次に向けるの。ね、ほら、笑顔笑顔! 負けず嫌いな浩太なら、きっと次は勝てるから、だから大丈夫! 大丈夫大丈夫!!』―


中学生になって初めて出場したサッカー部の大会。その大会でボロ負けした俺に、母さんはありったけのご馳走と一緒にそんな励ましの言葉をかけてくれた。




***



『浩太、父さんのモットーをお前にも教えてやる!』

『モットー?』

『そうだ。目標って言えばお前にも分かるか? 人生生きて行く上での父さんの目標』

『それなら分かる! 父さんの目標て何? 教えて教えて!』

『それはな、どんな時でも楽しく生きる事だ。どんなに辛い時でも、どんなに嫌な事があっても、それを辛い、嫌だと思わずに、楽しむんだ! 今を楽しむ。それが父さんのモットー! いいか浩太、一瞬一瞬を一生懸命に楽しめ!そうすればどんなに辛い過去も未来では良い思い出としてお前の心に残り続ける。お前と言う人間を形作る糧となる。いいな浩太。今を全力で楽しめ!』


そして、口癖のようによく父さんから聞かされた言葉。酒に酔うといつも上機嫌に同じ話を繰り返していた。




***********************



曲がった事が大嫌いで堅物な父さん。

口うるさけどいつも馬鹿みたいに元気で、心優しい母さん。

二人に小さい頃から何度となく言い聞かされてきた言葉の数々が甦る。


さっき子供達に語った言葉もそうだ。


『自分が同じ立場に立ったらどんな気持ちになるのか、ちゃんと考えてから行動するんだぞ。自分がされて嫌な事は、絶っっ対に人にしちゃダメだ。いいな?』



あれは、小さい頃俺が父さんに言われた言葉。



『いいか浩太、よく覚えておとけ。自分がされて嫌な事は絶対に人にするな。相手の立場に立って物事を考えるんだ。分かったな?』



知らない間に父さんの教えが俺の中に息づいて、それが当たり前になっていたんだと、今初めて気が付いた。


気付いた事で、先生の言う通りだなと俺は思った。

二人は今もまだ俺の中で確かに生きているのだと。

そう思ったら、無意識に一雫の涙が頬を伝った。


毎日毎日口煩い両親をウザいと遠ざた時期があった。反抗した時期があった。

でも、どれだけウザくても、どれだけ反抗しても、二人の存在は俺にとって、とてつもなく大きな存在だったのだと……失った今になって思い知る。


そんな二人が、俺は大好きだったのだと、今ならはっきりと分かる。




「やっと泣いたな」

「…………」

「ガキのくせに強がりやがって。親が亡くなったのに涙一つ見せない奴があるか馬鹿野郎」



そう言って先生は俺の頭を強引に先生の肩へと押し付た。



「思いっきり泣け。思いっきり泣いて、辛い事全部全部吐き出しちまえ」




口調はきつかったけど、俺の頭を撫でてくれるその手は優しくて、大きくて、温かくて――



先生の温もりに触れた瞬間、それまで我慢いていたものが一気に込み上げて来た。

俺は我を忘れて、ガキみたいに大声を上げてわんわん泣いた。



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