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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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浩太と祐樹の大喧嘩

「先生酷いじゃないか! 人に仕事を押し付けて逃げるなんて」



言われた通りにダンボールを体育館まで運び、逃げる事なく職員室へと足を運んだ俺は、先生の姿を見つけるなり詰め寄った。



「馬鹿お前、誰が逃げたって? 人聞きの悪い事言うな。俺は俺で他の仕事があったんだよ」

「どうだかね。じゃあどうしてタバコの臭いがしてんの?」

「ぎくっ……」

「吸っただろタバコ。俺が運んでる間、休憩してただろ?」

「ちょ、ちょっと一服しただけだろ。言っとくが先生は既に何度か体育館と職員室を往復してこの重たいダンボール運んでたんだからな」



大人気なく言い訳を口にする先生の姿に、俺は盛大なため息を吐く。



「はいはい、分かったよ。先生みたいな年寄りの体は労らなきゃな」

「なっ! 誰が年寄りだ! 俺はまだピッチピチの20代だぞ!!」

「来年三十路じゃん」

「それを言ってくれるな浩太君。いや……だが確かにそうだな。俺ももう歳だ。老体の先生にはこの仕事はちとキツい。先生の変わりに浩太が残りを運んでくれたらどんなに助かるか」

「げっ……開き直りやがった! あ~も~分かった。分かりましたよ。俺が運べばいいんだろ、運べば!」

「おぉそうか、引き受けてくれるのか。ありがとなぁ浩太」

「でもさ先生、何の為にアルバムを体育館に運んでんの?」

「ん~? 何の為って、そりゃ~お前達の卒業の手向けにする為だ。遅くなったが近々お前達の卒業式をする事になったからな」

「え? 本当?」

「あぁ」

「でも、どうして急に?」

「急って程急でもないぞ。いつ卒業式をするかって先生達の間では様子を見ながらずっと話し合ってたんだからな」

「へぇ、そうだったんだ。全然知らなかった。先生達っていつも避難して来た人達の対応に追われて忙しそうに動き回ってたから。いつの間にそんな話してたの?」

「まぁ、忙しい合間をぬってな。それに、忙しいを理由にこれ以上先伸ばしにも出来なくなったと言うのが正直な所だ」

「? どう言う意味?」

「実はな、何人もの生徒から転校の申し出があるんだよ」

「……え?」

「親戚を頼って他県へ避難したいってな。そうなったら転校せざるおえないだろ」

「……そんな」

「うちのクラスからも何人か申し出がある」

「えぇ? 誰? 誰がいなくなっちゃうの?」



思いもよらない話に動揺を隠せない俺は、先生に掴み掛かる勢いで問い質す。

先生は少し躊躇った様子を見せた後、静かに答えてくれた。



「……相澤麻衣、山崎卓、それから……沢田祐樹」



更に思いもよらなかった人物の名前に、俺は頭を殴られような衝撃を受けた。



「………え?祐樹が?」

「あぁ。昨日な、祐樹の母親から相談を受けたんだ。他県の高校にもう一度受験し直せないかって」

「……嘘だ。……俺……何も聞いてない…………」

「昨日のあの状況だったからな、祐樹も言い難かっただろう」

「……嘘だ……」



じいちゃんやばあちゃん。

父さんと母さん。

真奈に……そして祐樹までもが?


この地震のせいで一体何人の大切な人達が俺の前からいなくなってしまうのだろう。

気が付いたら俺は職員室を飛び出していた。



「お、おい浩太? 何処へ行く気だ? お前俺が頼んだ仕事から逃げる気か? さっき素直に手伝うって言ってたじゃないか。こら~浩太~~!」



背中に聞こえる先生の叫び声も無視して、俺は走った。祐樹の姿を探して学校中を走り回った。





「祐樹! 祐樹どこ行った、出て来い!!」



大声で祐樹の名前を呼びながら走る俺に、不思議そうな顔をした何人もの人とすれ違う。

普段、人から注目や興味本位の視線を向けられる事が苦手な俺だけど、今はそんな事気にしていられない。

腹が減っていた事も忘れてとにかく必死に祐樹を探して走った。




「生徒会長、何やってるんですか?」

「また、何か面白い事、始めるの?」



すると突然、見知らぬ女子生徒二人に話しかけられた。

一人は髪を2つ縛りにした、笑顔が可愛い女の子。

もう一人はショートヘアでボーイッシュなイメージの、どこか影を感じさせる女の子。



「いや……ちょっと人を探してて。君達は……?」

「私達この学校の一年です。ついでに言えば会長のファンです!」

「ファ……ファン? 俺の?」



髪を2つ縛りにした元気な印象の女の子が口にした聞き慣れない言葉に俺は一瞬ポカンとする。

だが俺の戸惑いなど気にした様子もなく彼女からは眩しい笑顔と共に「はい!」と元気な返事を返された。



「会長、また何か面白い企画、やって。こんな時だからこそ、会長の、無茶苦茶な企画に振り回されて、辛い事を、吹き飛ばしたい」



今度はショートヘアの女の子から、たどたどしい口調でお願いされる。



「市の陸上競技場を貸しきって他校と合同でやった運動会とか楽しかったよね。あと、文化祭の打ち上げにって、生徒全員で地域を回って募金を集めて打ち上げた、季節外れの花火も楽しかったな〜」

「うん、楽しかった」



俺が企画した行事を話題に上げながら、懐かしげに話す二人。

楽しかったと語ってくれる事に嬉しさを覚えながらも、今はそれどころではないと俺は無理矢理に話題を変えた。



「あ、あぁ。考えとくな。ところでさ、祐樹……あぁ~っと、沢田祐樹って知ってるか?」

「沢田って生徒会三馬鹿トリオの沢田先輩ですか?」

「さ、三馬鹿って……」

「会長と、副会長の桜井先輩、それから会計の沢田先輩の三人で、三馬鹿トリオって呼ばれてるんですよ」



2つ縛りの女の子がニコニコと屈託のない笑顔で話す隣で、ショートヘアの女の子がうんうんと同意を示すように深く頷いている。



「俺達……そんな呼ばれ方してたのか?……まぁいいけどな。それより今はそれどころじゃないんだ。その会計の沢田先輩、見なかった?」

「見た」

「本当か? どこで見た?」

「あっち」



俺の質問に、ショートヘアの子の方が後ろを振り向き方向を指で指し示す。



「あっちって、昇降口の方か?」

「うん」

「そうか! ありがとう!」

「どう、いたしまして」

「何ですか? 先輩達鬼ごっこでもやってるんですか? さっき沢田先輩も誰かを探してるみたいでしたけど」

「いや、そんなんじゃないけど……とにかくありがとな」

「は~い。 頑張って下さいね~先輩」

「ファイト」

「おぉ、ありがとう!」



後輩女子二人に軽く手を上げて見せながら、俺は彼女達と別れた。




彼女達から教えられた通り昇降口までくると、駄箱に祐樹の靴がない事に気付く。

もしかしてと昇降口から外を眺め見ると、運動場の遥か遠くに祐樹と元樹の姿を見つけた。




「いた!!」



やっと見つけた祐樹の姿に俺も急いで靴に掃き変え、外に出るなり一直線に祐樹の元へと走って行く。



「祐樹っ!!」



俺の声に驚いた様子で振り返る祐樹。



「浩太っ?! 良かった……。朝起きたらお前がいなくて、心配で探してたんだ」

「お前、何で言わなかったんだよ!」

「は? どうした急に? 何をそんなに怒ってるんだ? 」



突然ぶつけられる俺の剣幕に、訳がわからないと戸惑った様子の祐樹。そんな奴の胸倉を俺は一方的に掴んで締め上げた。



「……なんだよ。何をそんなに怒ってんだ浩太は。俺お前に何かしたか?」



いつものクールな祐樹も流石に腹が立ったのか、顔つきが険しく変わる。

それでも俺は構わずに祐樹に詰め寄った。



「何で……何で引っ越す事言わなかった?」

「……誰に聞いた、その話?」

「先生だよ。先生が教えてくれたんだ」

「……あぁ、あの人か」

「あぁ、あの人か、じゃねぇ! 何で言わなかったのかって聞いてんだよ!! 余裕ぶってないで早く言えよ!」



俺が祐樹のクールぶった態度に余計イラッときて、怒りに任せて今にも奴の顔を殴りそうになった時、突然後ろから元樹に止められた。



「やめて! 兄ちゃんをイジメないでっ!」



俺の足元に必死にしがみついてくる元樹。

一歩でも足を踏み出せば、小さな元樹を吹き飛ばしてしまいそうで、ぐっと振り上げた拳を止める。




「くそっ……」



そう零した俺に、祐樹は冷ややかな視線を向けて言った。



「言わなかったんじゃない。言えなかったんだよ」

「どうして!」

「お前がもっと無理するんじゃないかって思って」

「は?」

「言えるわけないだろ。両親を亡くしたお前に、俺は家族揃ってこの町から離れるなんて……言えるわけない」

「言えよ!気なんて使わずに何でも俺に言えよ! 友達だろ? 何も言わずに俺の前からいなくなるつもりだったのか? そんな事されたら……そっちの方が傷付くだろ」

「今の言葉、そっくりお前に返してやるよ。気を使わずに何でも隠さず話すのが友達だって言うんなら、お前だって本心隠してないでさらけ出せよ!」

「は? 何の事だよ」

「今の自分の顔、鏡で見た事あるか? 笑いたくもないくせに無理して笑って……今のお前、スゲー不細工な顔してるんだぞ」

「なっ! お前っ!!」

「心配かけたくないとかってヘラヘラ笑ってんのかもしんないけどさ、それ逆効果だから。見ててスゲー痛々しいんだよ。おかげでこっちがしんどいんだよ」

「別に、無理して笑ってなんか……」

「だから嘘つくなって!」

「嘘なんて……」

「そんなに俺は頼りないか?」

「祐樹?」



祐樹の表情が、不意に悲しみに歪む。



「俺が頼りないから、俺には弱み見せられないんだろ?」

「違う!」

「じゃあ泣けよ。俺の前でまで無理して笑わなくて良いんだ。そう教えてくれたのは浩太だろ?」

「……え?」

「3年前、転校してきたばかりの俺が、一人で馬鹿みたいに尖ってた時、泣きたい時は泣いていい。お前の辛いもんは俺が一緒に背負ってやるから、だから友達になろうって言ってくれたのは浩太じゃないか」



祐樹の言葉に、3年前の記憶が甦る。

転校して来たばかりの祐樹は、一人むすっと教室の片隅に座っていて、一人で大きな何かを抱えて苦しんでいるように見えた。誰にも心を許さず、わざと距離を取って強がっているように。そんな祐樹に俺は友達になろうと持ち掛けたんだ。



「両親が離婚して、家族がバラバラになって、そんな俺が一番辛い時にお前は側で励ましてくれた。今度は俺がお前の側でお前の力になりたいんだ。だから俺は……行かない」

「……は?祐樹お前、何言って……」

「兄ちゃん?」



祐樹の突然の発言に、今度は元樹の表情が歪んだ。

そんな元気に祐樹は優しく語りかけるように言った。



「ゴメンな元樹。兄ちゃんはお前と一緒には行けない。父さんと一緒にここに残るよ」

「ヤダ~! 兄ちゃんも一緒に行くの~。お母さん言ったよ。兄ちゃんとまた一緒に暮らせるって。なのにまた兄ちゃんと離れるなんて……ヤダ~~~」

「ゴメン元樹。でも、もう決めた事だから。お前は母さんと二人で岐阜のじいちゃん家に行きな」

「ヤダ~~~~兄ちゃんも一緒行くの~~~」



ワンワン大声を上げて泣き出す元樹。



「ゴメンな元樹……ゴメンな………」



ただひたすらに、元樹に謝る祐樹。



「お前……何馬鹿な事言って……何で……あんなに大好きだった弟泣かしてまで……残るなんて………」

「浩太が心配だから」

「は? 余計なお世話だ。俺の事なんか気にしないで行けよ!」

「行って欲しくなかったんだろ? だから怒って俺の事探しに来たんだろ? なのにどうして今度は行けって怒るんだ?」

「お前が馬鹿な事を言い出すから」

「馬鹿な事なんか言ってない。俺は本気だ。俺はここに残る」

「いいから……行けって!」

「……行かない」

「行けっ!!」

「行かない」

「……行けって!」



頑なに首を縦に振らない祐樹に、気付いたら俺は……祐樹の顔をおもいっきり殴りつけていた。



「――の野郎っ!」




殴られた祐樹も俺に殴り返して来て、次第に俺達の喧嘩は殴り合いの喧嘩へとエスカレートして行った。




「こらお前達、何やってるんだ!!」



騒ぎを聞き付けて先生達が俺達の喧嘩に割り込んでくる。俺も祐樹も後ろから先生達に羽交い締めされて、俺は校舎の方に。祐樹は校門の方へと引きずられるようにして連れて行かれる。


離れて行く祐樹を、俺は見えなくなるまでじっと睨み付けていた。



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