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浩太と祐樹

「浩太、お前告白されて何も言わずにとんずらって、それはないだろ。折角勇気を出して告白した桜井があまりに可哀想だ」


クラスメイト達の冷やかし、好奇の眼差しから逃げるようにして教室を走り出て来た俺は、追いかけて来た親友の沢田祐樹に昇降口で捕縛された。


後ろから思い切り学ランの襟を捕まれた後、俺を羽交い締めする祐樹は、何時もより厳しい口調で、厳しい言葉を浴びせてくる。


俺は必死に言い訳を並べ立て、自身を正当化しようと抗った。


「う、うるせ~祐樹。だって……まさか真奈から好きだとか、そんな事言われる日が来るなんて、これっぽっちも思ってなかったからさ、頭が真っ白になって。……っつか、冷やかすクラスの奴らも奴らだろ。何がヒューヒューだ。人事だと思ってバカにしやがって! そりゃ恥ずかしくなって逃げ出したくもなるってもんだろ」


「そんなクラス連中の中に、お前は彼女一人だけ取り残して来たんだぞ。勇気出して気持ち伝えてくれた相手に、何の返事もしないまま、ただ恥ずかしいからってお前一人だけ逃げて良い理由にはならないだろ。彼女だって恥ずかしくないわけないんだから」


「だって……でも祐樹……そうは言ってもお前だって俺の立場だったら……」


「俺なら何の迷いもなくその場で答えてやるよ。でも彼女はお前を選んだんだ」



祐樹の言葉にある違和感を感じて、俺は「えっ」と小さな声を漏らして祐樹の整った顔を見上げた。


祐樹はと言えば、その整った顔に深い皺を刻ませながら、本気で怒っている様子で説教を続ける。



「勇気振り絞って気持ち伝えてくれたんだから、お前は彼女の気持ちにちゃんと向き合え。分かったな。じゃないと――」


「祐樹お前、もしかして真奈の事……?」


「お前は? 彼女の事どう思ってるんだ?」



先程感じた違和感を、今度は言葉にして祐樹に投げ掛る。


だが祐樹は俺の言葉を遮って、逆に問いを問いで返されてしまった。



「どう思ってって……んな事わっかんねぇよ! だって9年間も腐れ縁やってきたんだぞ。口を開けば喧嘩ばっかしてきたあいつを、今まで女として見た事なんて一度もなかった。 それなのに急に好きとか言われても……分かんねぇよ!」


「………はぁ」



祐樹から投げ掛けられた問いに、おもわず声を荒らげて逆ギレする俺に、祐樹は呆れたように溜息を吐く。


そんな奴の態度にイラっとした。


溜息つきたいのはこっちだ。


一体俺にどうしろって言うんだよ?


女として見たことはなかったと、大勢の前で素直に気持ちをぶつければよかったのか?


そうしたらもっとあいつの立場は悪くなっただろう。


だからって好きでもない奴の告白を受けるわけにはいかない。


結局、あんな大勢の前で告白したのならば、何をどうしたって恥をかくことにはなった筈だ。


どんな答えを返そうと、あいつを傷付ける事には変わりなかった。


だったら俺に、一体どうしろって言うんだ?!



「あぁぁ~~~、もう知るか!!」



頭の中がグチャグチャで、やけになった俺は吐き捨てるようにそう叫ぶと、羽交い締めされていた祐樹の腕を力付くで振りほどくと、再び逃げるように走り出した。



「おい、浩太っ!!」



背中に祐樹の声を聞きながら、俺は振り返る事なく走った。


卒業まで残り一ヶ月。

あと一ヶ月我慢すれば、真奈とはお別れだ。

今みたいに毎日会う事はなくなるだろう。

この一ヶ月さえ乗り越えれば、クラスメイト達から冷やかされる事もなくなるし、このグチャグチャした頭の中もすっきり出来るはず。


そう、出来るはず!


だったのに――





「…………祐樹の野郎~! あいつ、何を真奈と楽しそうに話してやがる。真奈も俺に告白したくせに、何事もなかったかのように他の(やつ)とイチャつくなよな!!」



――あの日以来、祐樹と真奈が仲良さげに話してる姿を目にする機会が増えた気がする。


そしてイチャイチャしている二人の姿を見る度に、何故だか一人イライラしてしまう俺がいた。


自分でも、何故こんなにイライラしているのか理由は全く分からない。分からなかったのだけれども、何故だか二人が仲良く話している姿を見たくないと思ってしまう。


真奈が俺に告白したあの日以来、俺は真奈を意識し過ぎて、まともに話もできなくなってしまったと言うのに。

真奈も祐樹も、イイ気なもんだ。


やっぱりバレンタインの告白は、真奈にからかわれただけだったのではないだろうか?


そんな疑念すら抱きながら、気が付けばあっと言う間に高校入試が終わった。


受験の合格発表が終わった。


受験の為にこの一年間、将来に悩みや不安を抱きながら必死に勉強しては、ピリピリと神経を尖らせて来たと言うのに、あの告白事件のおかげでこうも呆気なく受験戦争が終わってしまうとは、正直言って拍子抜けだ。



そして中学3年間の最後の授業も終わりを迎えると、卒業遠足や卒業式の練習と言った、別れを意識させられる授業時間が増えて行った。


気が付けばもう、中学生活最後の月。

“3月”にカレンダーは変わっていた。


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