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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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空元気

「お帰り浩太」



死体安置所から学校に戻ってくると、自転車置き場で祐樹が俺の帰りを待ってくれていて、どこか緊張した声で俺を出迎えてくれた。

顔を上げるとそこには祐樹と一緒に6、7歳くらいの小さな子供も、祐樹の背中に隠れるように立っていた。

その子の顔が祐樹にそっくりで、何だかとても温かな気持ちにさせられた。



「弟か? 家族に会えたんだな」

「あぁ。浩太の方は? お前今日、遺体安置所に行ってたんだろ。何か収穫はあったのか?」



祐樹の問いに、俺は小さく頷く。



「…………そうか」



俺達の間にどこか気まずい沈黙が流れた。

その沈黙を破ったのは、“ぐ~”っと鳴った大きな大きなお腹の音。

その間抜けな音に、気まずく張り詰めていた空気がプツンと途切れて、思わず俺は大きな声を上げて笑ってしまった。

そして、手に持っていた自転車を置いて鍵をかけた後、お腹の虫の主の元へと近づくと、目線を合わせるためにしゃがみんだ。



「腹減ってるのか?」



祐樹の背中にべったり張り付いて、恥ずかしそうにもじもじしている弟、元樹。

彼の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でながらそう声を掛けると、プイと顔を反対側へ反らされてしまった。



「そんなに怖がるなよ。俺はお前の兄ちゃんの友達で佐々木浩太って言うんだ。元樹の話も兄ちゃんから良く聞いてたんだぞ。甘えん坊で、恥ずかしがり屋の弟だって。祐樹の話通りだな。なんだか初めて会った気がしない」

「…………」

「なぁ元樹、俺も腹減ったからさ、食べ物配ってる所に今から一緒に行かないか? さっき笑ったのは悪かったよ。いくらでも謝るから、だから機嫌直して元樹の顔を見せてくれよ」



そう言って、今度は優しい手つきで元樹の頭を撫でると、元気は怖ず怖ずとこちらに顔を向けてくれて、俺に向かって震える小さな手を差し出してくれた。



「お、やっと元樹の顔が見れた。機嫌直してくれてありがとな。よし、じゃあ行くか!」



俺は差し出された元樹の手を取って立ち上がると、元樹と二人配給場所である家庭科室を目指して歩き出した。

右手に感じる元樹の体温が、何だかとても温かくて、心地よく感じた。



もし俺に弟がいたら――

もう少し違った今があったのかな。

今、両親の死を、一人ではなく兄弟で悲しむ事が出来ていたのなら、寂しさも少しは分け合う事が出来たのだろうか。

そんな考えがふと頭に過ぎって、我ながら馬鹿な事を考えてしまったと渇いた笑いが零れた。


もしもの空想をした所で、現実は何も代わらない。

俺は、一人で両親の死を受け取めなくちゃ行けない。

この先一人で生きて行かなければいけない。

いや。生きて行くと誓ったんだ。

弱音なんて、吐いてる場合じゃない。


自分の心の中から一瞬、無意識に漏れ出てしまった『寂しい』と言う感情を心の奥底へと押し込めて、

俺は祐樹に向かって笑顔で呼びかけた。



「ほら祐樹も早く来いよ。置いてくぞ」

「おい、浩太………」



俺の笑顔が祐樹には空元気に見えたのか、どこか戸惑った様子の祐樹。

だから俺は祐樹に心配かけさせまいと、再び大きな声で祐樹に向かって呼び掛けた。



「心配しなくても俺は大丈夫だ。だから、変な気使うなよ」

「…………強がって、無理に笑ってないか?本当に、大丈夫なのか?」

「本当に本当に大丈夫だって」

「…………でも……」



まだ納得していない様子の祐樹。

でも俺は、それ以上は気付かないふりをして、祐樹の方を振り返る事はしなかった。

そして元樹を連れ、配給場所へと向けて歩みを進め続けた。


大丈夫。

俺は、大丈夫。




***




その日の夕食。

俺は、祐樹と祐樹の家族の輪に入れてもらって、久しぶりに賑やかな夕食を取った。

だが、せっかく久しぶりに会えた家族との食事だと言うのに、夕食の間中、祐樹の口数は少なかった。


せっかくの家族との再会、何故祐樹は嬉しそうにしないのか。

俺にはその答えが何となく分かっていた。

俺に遠慮しているからだと。


申し訳ない気持ちがした。

その気持ちから、俺はとにかく一生懸命に笑って見せた。

祐樹が心配しなくてすむように。

俺に気を使わずに済むように。

笑いながら俺は、ある決心を心に固めた。


祐樹から少し離れよう。

その方が、祐樹の為に良いのかもしれないと――




その日の夜、祐樹達家族が寝静まった事を確認して、俺は一人、寝床から抜け出した。

そして俺は、いつかのように生徒会室へと向かった。



「浩太? こんな時間に何処へ行くんだ?」

「……先生。ちょっと……外の空気を吸いたくて。先生こそ、こんな時間まで仕事? 大変だね」



向かう途中、廊下で杉崎先生とすれ違う。

もう11時を過ぎていると言うのに、手にはたくさんの荷物を抱えている。

そんな先生に俺は同情の眼差しを向けながら、俺は先生との会話を交わした。



「ん? まぁな。そう言えば……祐樹に聞いたぞ。遺体安置所でご両親を見つけたんだってな。残念……だったな……」

「あぁ。でも、そんな辛気臭い顔しなくていいよ先生。俺は、やっと見つかってホッとしたんだ。まだまだ沢山行方不明の人がいる中で、うちの親は運が良かった。見つけてくれた人には心から感謝してるんだ」



複雑そうな顔で俯く先生に、俺は言いながらニッコリ微笑んで見せた。



「じゃあね先生、おやすみなさい。先生も仕事頑張って」

「あ……あぁ………おやすみ浩太」



そして無理矢理話を切り上げて、逃げるようにその場を後にした。



「…………はぁ…」



曲がり角を曲がって先生の姿が見えなくなった所で、俺は一人ため息をついた。

祐樹だけじゃない、先生にまで気を使わせてしまった。

その事実が酷く申し訳ない気がして、情けなかった。



俺は本当に大丈夫なのにな。

寂しくなんかない。

だって俺は、二人の分も強く生きて行くって決めたんだから。

寂しがってなんかいられないんだから――



生徒会室に着くなり、部屋の中央に置かれたソファーの上で横になる俺。



「もっと笑え。もっともっと、笑って見せないと……皆に心配かけちまう。周りに心配なんてかけない為にも……もっと笑え、俺………」



そんな独り言を呟きながら横になっていると、俺の意識は徐々に朦朧としはじめて、意識を手放すように目を閉じた。


閉じた先で、懐かしい夢を見た。

進路の事で両親と喧嘩した、今となっては昔の……もう戻る事は敵わない、かけ換えのない時間の夢――



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