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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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父と母との再会


それから3日後――



「兄ちゃっ!!」

祐樹の母親と弟の元樹が、俺達のいる避難場所へとやって来た。

祐樹は無事、家族との再会を果たした。


同じ頃。

俺も他の場所で家族との再会を果たしていた。

変わり果てた姿の親父と母さんに――



***



「佐々木浩輔さんと京子さんの息子さんですか?」

「……はい」

「ご遺体のご確認をお願いします」

「…………はい。父と母で……間違いありません………」



この3日間、今までみたいに連絡手段が少ない中、父さん達からの連絡を待っているだけではいつまでたっても見つからないかもしれないと、杉崎先生のアドバイスもあって、俺は自分の足で二人を探す事にした。


幸い、通学に使っていたおかげで自転車だけは俺の手元に残っていたから、自転車を使って回れる範囲の避難場所を何件も駆けずり回っていた。


海の近くは甚大な被害を受けていたが、念のため家があった辺りや、父さんの船が置いてあった船着き場、そらから父さんが魚を卸していた市場等も回ってみた。それら全ての場所は津波で跡形もなく流されていて、あったはずの建物も、道路も、信号機や電柱も、ありとあらゆるものがすっかりなくなってしまっていた。

どこに何があったのかも分からない程に変わり果てた姿を、初めて目の前で見た時には、言い様のない虚しさと切なさから言葉が出てこなかった。


それでも、何とか気持ちを奮い立たせて、瓦礫の中を探してみたりもしたが、途方もなく膨大に広がる瓦礫の山に、結局俺は1日と続かず、その場を探す事は諦めてしまった。


沿岸部の悲惨さを目の当たりにした事で、俺は瓦礫の中を自分で探すより先に、行かなくてはいけない場所があるのではないかと思うようになった。

あそこには居て欲しくない。そう心で願いながらも、見つからない可能性を否定しきれなくて、ついに父さん達を探し始めて3日目に、俺は遺体安置所へと足を伸ばしたのだ。


やっとの思いでここに来る決意をしたのなら、あとは至極簡単だった。


一ヶ所目にして、遺体名簿の中からあっさりと二人の名前を見付けてしまったのだから――



あぁ、やっぱりな。

名前を見つけた時、心に浮かんだ率直な感想。

じいちゃんから、二人が行方不明だと聞かされた時から、何となく予感はしていた。

ただ、現実としてつきつけられたくなくて、ずっと考えないように、見ないように、目を背けていたかっただけなのだ。


そのせいなのか、両親の遺体を目の前にしても不思議と辛いとか、悲しいと言った感情が沸き上がる事はなかった。

ただただ何の感情もないままに、ボーっと二人の変わり果てた姿を俺は見つめていた。

見つめながら、遺体安置所で遺体の管理をしている市の役所の人の質問に、俺は答え続けていた。



「君以外に、他に佐々木さんの遺族の方はいるかい?遺体の引き取りについて話があるのだが」

「祖父母が。でもこの地震で、二人とも県外の病院へ搬送されてしまって……今は俺だけです」

「…………そうか……」

「…………」


市の役所の人が申し訳なさそうに一言漏らした。

それ以上、振られる話はなくて、暫くの間、沈黙が続く。



と、その時



「貴方、ソノ人達ノ家族、デスカ?」



不意に後ろから声をかけられ、俺は声の方へと振り返った。

振り向いた先には、金髪で青い目をした大柄の、年若い外国人が立っていた。



「……そうですけど、何か?」

「ソノ2人、私ガ見ツケマシタ」

「貴方が?」

「ハイ。ソノ2人、オ互イ手ヲ繋ギナガラ、寄リ添ウヨウニ瓦礫ノ中ウズクマッテ、トテモ印象残ッテマス」



外国人のその人は、たどたどしい日本語で、ゆっくりと2人を見つけた時の話を聞かせてくれた。



「ソノ繋イダ手ヲ、離ソウトシタノデスガ、死語……硬直? ノ進ミモ早ク、断念シマシタ。ソレニ何ヨリ、離シテシマウノ、申シ訳ナイ気ガシテ」

「…………」

「ナノデ、今デモ、モマダ繋ガレタ状態デイマスヨ」

「……………え?」



思いがけない言葉に、俺は信じられないと言った顔で両親を見た。

すると、市の役所の人が気をきかせてくれたのか、2人にかけられていた布をそっとめくってみせてくれた。

布の下では確かに外国人の人が言っていた話の通り、二人の手は今もしっかりと繋がれていた。



「アノ、他人ノ私ガ、コンナ事ヲオ願イスルノモ、変ナノカモシレマセンガ、私、貴方ニオ願イシタイ事アリマス」

「……?」

「ドウカ、2人ノ手ヲ、離サナイデアゲテ下サイ。ソレハ、2人ノ絆ノ証。私、2人ノ絆ノ強サニ涙ガ出マシタ。二人、私ノ理想ノカップルデス。私ニモwife(ワイフ)ガ居マスガ、同ジ状況デ、私wifeヲ守レル自信ナイデス。私、彼等ニ人カラ大切ナ事、教エテモライマシタ。ドウカ、最後ノ時マデ、二人ノ絆ヲ守ッテ下サイ。オ願イシマス」

「…………分かり……ました」

「オォ、アリガトウ! キット2人共、喜ンデイマスヨ!」

「……そうでしょうか?」

「ハイ、キットデス! オット、ソロソロ仕事戻ラナクテハ。デワ私コレデ。君二会エテ良カッタ。伝エタイ事、伝エラレテヨカッタ。コレデ心置キナク仕事ニモドレマス。私モモット、モット頑張ラナクテワ、デスネ!ソノ為二、日本来タノデスカラ! アリガトウ、Mr……?」

「浩太です。佐々木浩太」

「コータ!」



外国人のその人は、嬉しそうにニッコリ微笑んで、俺に軽く頭を下げた後、去って行こうとした。

俺はその後ろ姿を見送りながら、隣にいた市の職員の人に尋ねてみた。



「あの、あの人は?」

「海外から派遣された救助隊の方ですよ。今、日本の為に沢山の国から救助隊員が駆け付けてくれて、津波で行方不明になった人達を探してくれているんです」


その話に、一瞬頭を殴られた気がした。

俺は自分の親ですら、あの広大に広がる瓦礫の中から探し出す事に躊躇いを感じたというのに、あの人は赤の他人の……それも国すら違う外人の俺達の為に駆け付けてくれて、こうして両親を探し出してくれたのか。

そう思ったら、それまで無感情だった心から、グッと何か沸き上がってくるものを感じた。

その感情を抑えられなくて、俺は慌てて声を上げた。



「あのっ!」

「ハイ?」



俺の両親を見つけてくれた外国人のその人は、俺の呼び掛けにゆっくりと振り返って、青く綺麗な瞳が真っ直ぐ俺に向けられた。



「あの……両親を……俺の両親を見つけてくれてありがとうございました!」



俺の言葉に青い瞳が一瞬揺れたかと思うと、その人は、ニッコリと微笑んで――



「イイエ。私ワ、ソノ為ニ日本ニ来タノデスカラ、当タリ前ノ事ヲシタダケデスヨ。本当ワ、生キテル時ニ見ツケテ、助ケテアゲタカッタ。ソレガ出来ナクテ本当ニ悔シイデス。ゴメンナサイ」



俺はブンブンと大きく頭を横に振る。



「ありがとう……ございました……。すっごく感謝してます。本当にありがとうございました!」



そして深く深く頭を下げて、感謝の気持ちを精一杯に叫んだ。



「貴方ワ!」

「?」

「彼等ノ絆ノ証。大切ナ両親ヲ亡クサレテ、今トテモ辛イト思イマス」

「…………」

「デモ……ドウカ……ドウカ、彼等ノ強イ強イ絆ノ証トシテ、彼等ノ分モ強ク……強ク生キテ下サイ! ソレガ私ニトッテ、何ヨリモ嬉シイアリガトウノ気持チデス」



更に笑みを深くして、外国人のその人は言った。

その言葉に俺は、大きく首を縦に振って見せて、「はいっ!」と大きな声で返事をした。

ずっと目を逸らし続けていた現実に、俺は真っ正面から向き合う決意を込めて。


親父と母さんの死を受け入れて、俺はこの先も生きていかなければいけない。

二人の為にも、強く、強く――





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